第3話 美人できれいで可愛いお姉さま

「帰ってたんだお姉ちゃん、おかえり~」


 首をひねるサクヤに声をかけてきたのは、タンクトップとショートパンツという薄着にバスタオルで濡れた髪を拭いて現れた不肖、妹のカスミだ。


「いま帰ったで」


 サクヤは、舌打ちしたい衝動にかられる。

 遅くまで働いて疲れているのに、「美人できれいで可愛いお姉さま、今日も一日お暑い中を勤労奉仕して、さぞやお疲れのことでしたでしょう。お風呂のご用意ができておりますので、ごゆるりと汗を流してください」のねぎらい言葉ひとつないのか。

 キンキンに冷えたビールと鱧や鮎を出す気遣いを、妹の分際で持ち合わせておらんとは……。う~、まったくもってなげかわしい。

 幼き頃よりサクヤは、「綺麗で美人でかわいいお姉ちゃん」と妹に言わせようと、夜な夜な寝室に潜り込んでは耳元で囁きつづけ、睡眠学習をさせてきた。

 その甲斐あって、高校までは素直に言うことをきいてくれていたのだが、大学生になった途端、妹は、はたと気づいてしまったようだ。

 三者は同時に相容れない、という事実に。


 美人とは、目鼻や輪郭の造形がいい、元からの美しい造り。

 綺麗とは、手をかけてきれいに行き届いているさま。

 かわいいとは、しぐさや表情などが愛らしい雰囲気。


 三つ同時に兼ね備えることは、理屈では可能であるし、異論はない。だれしも同意する声を上げてくれる。ただ、これには超えねばならない条件が隠れていた。

 元から美しい造りでない者は美人にはなれないし、綺麗に手を掛けるにしても限界はあるばかりか、愛らしさには年齢制限が潜んでいる。

 整形やメイクテクニック、身だしなみや立ち居振る舞いに至るまでの所作を身につけたとしても、時は止まらないのだ。

 老いは悲しく成長は素晴らしいよ、まったく……。


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