第10話 騎士の試練 弱き者の為に戦え、メギィ

 「大火球の魔法」

 ドォン! 劫火の魔法と銃の同時攻撃がメギィを襲う。一見、意味のない攻撃方法だが、魔法使い同士の戦闘でこれほど卑怯な戦法はなかった。

魔術攻撃を防いでくれる破邪の魔法は、物理的な攻撃を防いではくれない。故にメギィは破邪の魔法で火球を防ぎつつ、物理防御の魔法で銃弾を逸らしていた。そもそも、破邪の魔法は高等技術だ。そして、複数の魔法の同時発動もまた高等技術である。系統の異なる2つの魔法を同時に扱えれば、一人前とされていた。

 「くっ、下らない攻撃はやめて欲しいですね。魔法使いの誇りはないのですか?」

 メギィの焦りをエリーゼは嘲笑っていた。これまで倒してきた2流達もまた「誇り」とか「卑怯」というよく言葉を使っていたからだ。ちなみに3流は何も言えずに死ぬ。

 「これが新しい魔術師の戦闘スタイルとなると僕は踏んでいる」

 ドォン! ドォン! メギィは銃弾2発の軌道を曲げる事に成功した。だが、続いて飛んできた火球2つを魔法で防ぐ事はできず、盾で受け止めた。そこにエリーゼが銃弾を2発、撃ちこんだ。弓や火の玉は盾で防げるが、銃弾は簡単に盾を貫通する。

 だが撃たれた瞬間、メギィの指先から火の玉が生じて、それが巨大な炎の渦へと変化した。エリーゼはたちまち炎の渦に飲み込まれてしまった。

 「反撃してくるとは、やりますね。まあまあ優秀な兄弟子さん」

 涼しい顔をしたエリーゼが炎の中から歩き出てきた。やはり、腐ってもセラピスの高弟かとメギィは思った。

 エリーゼはシリンダーを投げ捨て、素早く装填を済ませて言った。

 「もうそろそろ、終わりにします。あなたを殺して、僕は撤退する。戦いには負けてしまいましたが、僕個人はやはり勝って終わりたいと思いました。だから、僕は、僕とそれなりに戦えそうなあなたを追ってきた。中々、楽しませて貰いました」

 「あなたは、お前は大義の為に、ヘリオガバルス陛下やセラピス先生の為に、戦っていたのではなかったのですか?」

 「いいや、反乱がうまくいけば、出世してセラピス先生の後継者になれると思ったから、この戦いに参加したのさ。後は弱い人をボコボコにして、自分の強さを試したいとも思った。言ってみれば、自分のため。その顔は、何か言いたそうだね。魔法は必要な時に、必要に応じて得られるもの。だから僕のように、強い魔法使いは、欲が深いのさ。それが僕との違いさ、弱い兄弟子。きゃっ」

 銃が暴発し、エリーゼのつま先を撃ち抜いた。その瞬間をメギィが見逃すはずもなく、エリーゼを剣で力一杯に斬りつけた。肉体の硬度をあらかじめ強化していたエリーゼだったが、メギィの撃剣をそれだけで防ぐ事はできず、剣が骨まで達した。

 銃と魔法の組み合わせ戦法は、確かに有効だった。だが、エリーゼとメギィが互いに炎の魔法で攻撃しあった事により、薬莢内の温度が危険な温度に達した。そして、とうとう銃を暴発させたのだった。

 メギィが腹から剣を引き抜くとエリーゼは事切れていた。

 「戦いを楽しむ。私には、無理そうです」

メギィは、エリーゼに短い黙とうを捧げた。

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