03 交(まじ)える

 源宛みなもとのあつる平良文たいらのよしふみの一騎打ちは、熾烈しれつを極めた。

「いざ!」

 どちらともなく言い出したかけ声と共に馬を馳せ、弓を構えて騎射の姿勢を取る。

 ひょう。

 最初に射たのはあつるであった。

 その素早い矢の何本かを良文は身を低くしてけ、そしてそのままの矢を放つ。

「うぬっ」

 あつるは思い切り身を反らしながら矢をかわし、その姿勢のまま巧みに馬を操って良文よしふみの射線からのがれた。

「やりおる」

 良文よしふみは感歎の声を上げ、だが自身も愛馬を御して、あつるに肉迫する。

 すわ、弓はしまいかとあつるは佩刀に手をかけるが、良文よしふみは至近距離で矢を放った。

「くっ」

 あつるは勢いよく下馬する。

 矢はくうを走り、後方へ。

 だが二の矢があつるを襲う。

「ふんっ」

 今度は跳び上がって乗馬して矢を避ける。

 そしてそのまま矢を弓につがえる。

「食らえっ」

 あつるの矢が良文よしふみの眼前に迫る。

「むっ」

 良文よしふみ太刀たちを抜いてその矢を斬り飛ばす。

 だがその太刀を抜くため、良文よしふみは弓を捨ててしまった。

 もはやこれまでと、良文よしふみは太刀を納め、潔くあつるの矢を受けようとした。

 だが、あつるは何もせず、その場にて馬を止めた。

「……いかがされた?」

「矢が」

「矢が?」

うなった」

「……ふ」

 何とも言えぬ可笑おかしみが湧き、良文よしふみは破顔した。それを見て、あつるも笑う。

 勝負せんと思いきや、勝負は分けた。

 良文よしふみも、あつるも、二人とも、生きている。

 郎等の燻ぶった讒言ざんげんの、何とくだらないことか。

 良文よしふみは聞いた。

「もう、やめぬか」

 あつるは答えた。

「応」

 ……いつしか近寄ってきていた郎等に向かって、二人は言った。

「われら弓を競ったが、勝負はつかぬ」

「よって、われら、かように争うのをやめることにした」

 良文よしふみあつるも、郎等のいさかいは知っている。しかしお互いはそうではないことを察し、そして今、優れた武士であることを知り、殺し合うことのくだらなさを悟った。

「だから、やめる」

「争うは、無益」

 いつしか肩を抱き合っていた良文よしふみあつるは、お互いにこの武蔵野を豊かな地へとひらこうと語り合い、郎等らもそれにならうのであった。

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