第九話 ドドドドドドでゴゴゴゴゴゴな件について

 スマホで確認したんだけどさ。今のあたしちゃん、デッドプール様と真・三國無双の呂布を足して二で割ったみたいな姿になってんな。こんなん遠くにいるの見つけたら絶対に近づきたくないよ。メリーの手足みたいに、アームカバーとロングブーツには無駄にベルトが巻かれてほとんどゴキブリモンスター状態で、一切可愛くない。近付いたら確実になんかヤバヤバのメメタァな事が起きそう。

 でも、今はそれどころじゃないらしい。なんかおかしい。


 無数の狐蛸があたしちゃんの射程距離に入った途端に異変は起きた。全ての狐蛸の動きが止まった。それだけじゃない。あたしちゃんも動けない。荒国さんもトビーも爆ねーさんも箱も・・・・・・。全てが止まった。

 えっ、なにこれ。何が起きてんの?

 かろうじて目だけは動けるようになって来た。

 辺りを見回すと、なんか・・・・・・あたしちゃんから見て少し右上に、英語でPAUSEって文字となんか荒国さんのそっくりさんが浮かんでいる。ぱうせ? なんだろ。どんな意味だっけ?

 あっ! よく見たらさらに上の方になんだろう・・・・・・ん? あっ・・・・・・ライフゲージだ! ゲームのライフゲージみたいなのが浮かんでる。もしかしてコレ、あたしちゃんのライフゲージ?

 四ちゃん画面のいろいろが見えるようにになって、ぱうせってのが突然浮かんで、全部が止まってピクリとも動かない・・・・・・そっか! あのぱうせって奴、ポーズの事なんだ。それでみんな止まってんだな。四ちゃん、何か用事でも出来たのかな?

 ついに四ちゃんのゲーム画面とあたしちゃんが完璧に繋がった。この状態なら、四ちゃん世界や六ちゃん世界から、あたしちゃんの能力で武器とかいろいろをゲット出来るようになるかもしれない。六ちゃんはこんなネット小説サイトを読むくらいだから、近くに武器のヒントになる小説や漫画が置いてありそう。期待してるよ☆

 そう言えば、二十四ちゃんの能力も、それのお陰で使う事が出来たんだっけ。

 それに加えて四ちゃん世界の情報も得られれば、他のゲームに出てくる最強武器なんかも手に入れ放題だ。

 なんだっけ。確かケン坊にあげたディスクの中の・・・・・・Fateってアニメに出てくる、ギルガメッシュとかいう金髪のキャラの真似だってできちゃうかもしれない。これも六ちゃん世界のキャラなんだよね。


 なんか、このポーズ状態に体が慣れて来た気がする。ほんの少しなら動けそうだな。

 荒国さんを持ったままでは動けない。荒国さんも完全に止まっている。ポケットも閉じたままで中に手を入れる事は出来ない。

 この状態で何か攻撃が出来ればいいけど・・・・・・何か武器になりそうなものは無いかな。

 気になってぱうせに触ってみる。触れた。しかも、持って動かす事もできる。近くの技ゲージも同じだ。

 こいつら全部、ぶん投げられそう!

 あたしちゃんが動いても、四ちゃんの画面に出ているライフゲージとかいろんなものはその場所に固定されたままだ。そして、このゲージやポーズは触る事が出来る。触れば動かせる。だからここら辺を片っ端から投げる。


『は!? なんで!? なんで動いてんの!?』


 四ちゃんの声が聞こえた。いつもよりはっきりとした声だ。カメラの位置はなんとなくわかる。話しかけてみるか。


「四ちゃん! こっちの声聞こえる?」


 あたしちゃんがそう言うと、技ゲージらしき場所・・・・・・多分画面の左下あたりのすぐ横に、たった今あたしちゃんが言ったセリフが表示された。


『えっ! えっ! どういう事・・・・・・? なんか澪ちゃんがこちらに話しかけているよ?』

「さっきのイベントで話しかけられるようになったんよ」

『すげーな・・・・・・やっぱり、僕と君は、その血の力で繋がってるんだな。なんかインストールした事ないゲームが何故かあったからプレイしてみたけど、きっと何か不思議な事が起きたんだね。ほぼほぼクソゲーだけど、結構楽しませてもらってるよ。良い感じの難易度だからね』


 あっ、そういう感じで四ちゃんと繋がるんか。良かった〜。四ちゃんが凄腕ゲーマー且つなんだか知らない怪しいゲームをプレイしちゃう好奇心の持ち主で、本当に良かった。

 この四ちゃんなら、あたしちゃんが考えた作戦を確実に・・・・・・いや、あたしちゃんが考えるより、もっと良い感じにしてくれるだろう。


「お願いがあるんだけどさ」

『なんでも言ってくれ。流石にこの爆ねーさん戦はクソゲーが過ぎる』

「ありがと! これからあたしちゃんがゲージ投げまくるから、あたしちゃんが元の場所に戻ったらポーズ解いてくれる? その後はいつも通りでお願い。ゲージが復活して、またゲージ投げ作戦ができそうならポーズ。おけ?」

『おっけー! あっ。澪ちゃん。ポーズ解く時、あの台詞言いたくない?』


 あの台詞・・・・・・そうか、あの台詞か!


「めっちゃ言いたい! 一緒に言おう!」


 そうとなれば、急いで作戦を実行しよう。

 かなり動けるようになったから高いところのゲージはジャンプして掴んで狐蛸に向けて投げる。

 片っ端から四ちゃんのゲーム画面にあるゲージを投げて、トドメにポーズソードをぶん投げる。

 あたしちゃんの手を離れると、それらはやがて動きが止まった。完全に『世界ザ・ワールド』じゃん。これで当たり判定無いと困るなぁって今更心配したけど、思った通り、ゲージの幾つかは狐蛸に突き刺さった。


 四ちゃんがポーズを解除する。あとはあの台詞を言うだけだ。


『そして時は』

「動き出す!」


 ゲージが動き出して狐蛸の群れがいくつか吹っ飛んでいく。すぐにゲージは消えて、元の場所でまた現れる。

 これは凄い能力だ! 四ちゃんとの連携がより完璧なものになった。


「えっ? 澪、今、何を飛ばしたんだ?」


 荒国さんも驚きの声を上げる。


「四ちゃんのゲーム画面の何かを片っ端から投げたんよ」

「異世界干渉に特化した澪の力と、四代目の力が噛み合ったわけか」

「うん。多分、四ちゃんが持ってるゲームのアイテムとかもこちらに召喚できるかも。でも、荒国さんみたいに妖怪退治が得意な素材の武器はやっぱり手に入れられない気がする。狐蛸も、いくつかは完全に倒せてるわけじゃないみたいだし」


 あたしちゃんがそう言うと、なんとなく荒国さんは嬉しそうな悲しそうな調子で


「それなら俺も気合を入れないとな」


 と、言った。

 やっぱり、あたしちゃんが人間離れし過ぎたから・・・・・・って、今のあたしちゃんはもうほとんど人間じゃない・・・・・・悲しがってるのかもしれない。荒国さんは、昔からあたしちゃんが妖怪との戦いに加わる事を避けようとしていた気がする。

 それに、荒国さんもあたしちゃんの能力を知ってたんだな。こっちは知らず知らず使ってたけど。だから、どうやって発動するのかもわかんない。いつもどういう時に使ってたんだっけ。


 飛び散った狐蛸が再び箱から飛び出してくる。


「今のは誰の能力だ? ずっとあんたら一族を見張ってたけど、こんな能力を持った奴はいなかった。ウチの調査不足か? 十三段流、やっぱ油断できねーな」


 爆ねーさんは、箱から出て来ない。

 爆ねーさんを倒すにはねーさんを箱から出さなきゃいけないのに、あたしちゃんが『世界ザ・ワールド』を使っちゃったせいで、かなり警戒させてしまった。さっきのブチギレ状態ならもう倒せてたかも知れない。


「その能力がどれだけのものか、試させてもらうよ、澪っち」


 ヤバヤバな予感!

 狐蛸の雨がまた降ってくる。同じ能力を使えば、見切られる可能性もある。なんだかんだあのねーさんは頭がいい。トラップを仕掛けてくるかも。

 あたしちゃん固有の能力も、実はさっきからずっと試してるんだけど、何も出てこない。武器を出そうとしても出てこない。

 ひょっとして、あれかな。何か間に挟む必要があるのかな。あたしちゃんが異世界から持ち込んだ物はほとんど家族への誕生日プレゼントとか記念日のお祝いとかで、デッドプール様関連もアニキが喜びそうなのを一通り選んだら、結局あたしちゃんが一番ドハマリしちゃったんだよね。それで、アニキにあげたもの諸々を逆に自分の物にして、その代わりにジョジョの漫画をあげたんだよね。そう言えば、他の漫画を買ったはずなのに、なんか紫の背表紙の漫画が突然倍以上に増えてたのはビックリしたよ。


 って・・・・・・その時不思議に思えばこの能力に気付けてたのでは!?

 ずっと粋な妖怪の仕業と思ってたよ。妖怪だらけだもん、この街。


 とにかく、似た武器を出す時にえいってやれば、その武器が異世界の武器に変化するはずだ。


 ポケットに手を入れて、薙刀を掴む。

 えいっ!

 でも出てきたのはいつもの薙刀だ。仕方ないから狐蛸に向けて投げる。投げながら他も試してみる。

 えいっ!


「だめだ! 全然使えない!」

「澪の能力の話か」

「うん。どうやっても出てこない」


 麦野さんを投げて、銃を投げながら高速移動して撃って離して別の掴んで撃って離してを繰り返す。こちらの動きが速いせいか、狐蛸のスピードはゆっくりに見える。でも、このままでは爆ねーさんに近付くまでにけっこう時間が掛かってしまう。

 さっきより動きやすくなって強くなったけど、この触手の雨はまだ通り抜けられるような隙が産まれない。


「いつも誰かへプレゼントあげる時に発動してた気がするな。試しにあの狐蛸どもに、初めましてさようならのプレゼントのつもりで何か用意してみたらどうだ?」


 それだ! 荒国さん、ありがとう!

 投げた薙刀が近くに落ちている。手を伸ばし、狐蛸へのプレゼントだと思いながら掴む。


 薙刀の柄の、掴んだ場所からグングンと光が広がり、なんか槍と斧と鎌が合体したような武器になった。全体的に黒くて金ピカで、赤いモコモコしたなんかがぶら下がってる。これなんだっけ。戟式の武器だよね。ハルバート?


『方天画戟! 方天画戟来ちゃったよ!』


 四ちゃんがゲラゲラ笑いながら言ってるのが聞こえた。

 思い出した!


「あっ! ケン坊にあげた真・三國無双ってゲームで見た! そうだよ。呂布の武器じゃんコレ!」

「あのやたら強いキャラだな。その姿もアレに似てるし、ピッタリのが来たじゃないか」


 刃の中心の赤い宝石から黒くて赤い光がイナヅマみたいに漏れている。激ヤバじゃん。

 こいつを狐蛸に投げる。触れた途端に赤黒いエネルギーの球が膨れ上がって狐蛸を包み・・・・・・爆発した。

 これこんな武器だっけ?


「澪っち、その武器こえーよ! なんなんだよそれ!」

 

 爆ねーさんがビックリした声で叫ぶ。

 あたしちゃんもあまりの威力にビックリしてんだけど。


「まだなんかありそうだな! 澪、どんどんやれ! 俺は漏れた奴を斬る!」


 おっけ!

 落ちた薙刀を拾うと、また形が変わって、今度はなんか緑色で龍の頭からでかい刃が出てる薙刀になった。四ちゃん曰く、青龍偃月刀と言うらしい。まだゲラゲラ笑ってる。たしかこれも三国無双の武器だよね。あたしちゃんが知ってる武器が出てくんのかなコレ。

 こんどはあたしちゃんは知らないけど、四ちゃんが知ってそうな奴にしたい。

 鎖鎌をポケットから出す。

 今度は鎖鎌の鎌部分が丸っこいトゲトゲがついた球になった。モーニングスターって奴だ。これはアニキから聞いたことがある。尻尾? 部分が錨みたいになってる。なんか不思議なモーニングスターだな。


『それガンダムハンマーって言うんだよ』

「ガンダム? なにそれ」

『めちゃめちゃ面白いロボットのアニメ』

「アニキが好きそう。終わったら終わった記念でアニキにあげようかな」


 ガンダムハンマーとやらを振り回しながら狐蛸を吹き飛ばし、爆ねーさんに近付く。

 戦い方は変身する前と変わらないけど、スピードとパワーが違うし、武器の選択肢も全然違う。

 アニキが好きなロボットの事を考えながら銃を取ったら、カァオ! って音立てながら青白いビーム出すでかい銃が出てくるし、他にも見た事ない銃がワンサカ出てくる。その度に四ちゃんが、えーぺっくすだとか、へるしんぐだとか、あーまーどこあだとか、何かのタイトルっぽい単語を連呼する。

 異世界の架空の武器をこちらの世界で現実化させるなんて、あたしちゃんの能力つよつよ極まり無くなくなくない?

 四ちゃんがオタクなゲーマーで良かった。あたしちゃんが知らない武器がどんどん出てくるし、しかもそれはつよつよな武器ばかりだ。『世界』を使わなくてもなんとか狐蛸の雨が止まる程度には爆ねーさんを追い詰める事が出来た。

 異世界の武器を使った全武式維はまだ生きている。


「流石澪っちだ。そうじゃないとね」


 箱から爆ねーさんの声がする。一瞬で距離を詰めて、箱に向かって全武式維を繋げる。

 体感時間は十秒くらいだった。でも、実際は一瞬だと思う。箱はバラバラになり、中から出てきたのは爆ねーさん・・・・・・ではなく、出てきたのはこの箱の核っぽい狐面を被ったハムスターだった。箱がバラバラになった衝撃で吹き飛びながら滑車を回している。なんて器用なハムスターだ。

 爆ねーさんはどこだ?


「ここだよ! どうだ。びっくぷりゅ」


 ハムスターが叫んだ。でも、直後に壁にぶつかって粉々になってぷりゅっと言ったきり黙った。


「なんだこいつ〜!」

「澪っち、強すぎなんだよ。せっかくハムたんに意識を載せてびっくりさせようと思ったのに。ふざけやがって。バーカ! バーカ!」


 今度は足元のハムスターが喋り出した。カワイイけど、本体はどこ?

 それより、意識を載せるなんて出来たんだ。あたしちゃんの分身のマネをするなんて許せない。

 あたしちゃんズを呼ぼうかな? でも、あの子達が異次元のどこかでちゃん朔と戦ってるから、こちらも爆ねーさんに集中出来てるはず。

 だから呼び出す事が出来てもそんなにたくさんは呼び出せない。

 どうしようかな。


「もう操牙どもも作れない。でも、澪っちの攻略法はわかったぜ。その準備も・・・・・・」


 操牙・・・・・・さっきの蛸か。

 爆ねーさんがそう言いかけると、荒国さんがあたしちゃんの腕を引いた。


「澪! マズイ! これは時間稼ぎだ!」

「下等生物! 囲まれているぞ!」


 トビーが叫んでいる。囲まれてる?

 四ちゃんレッドアラートが前後左右あちこちから響く。この姿になって初めてのレッドアラートだ。嫌な予感がする。


『一気に来る! 時を止めよう!』


 そうだね。


「『世界ザ・ワールド』! 時は止まる!」


 目の前にぱうせマークが現れる。辺りは真っ赤だ。何が起きてるのかわからない。

 ジャンプで飛び上がって初めて全部が見れた。こいつは・・・・・・クソデケルベロス! しかも、一、二、三・・・・・・は!? 二十匹くらいいるんですけど?

 やっぱり爆ねーさんは油断ならない。あいちー、ゆにっぺ、れりりんがくっついているクソデケルベロスなら、あたしちゃんは荒国さん以外の武器が使えない。もし六十っちゃんの時間飛ばしが使えたとしても、あれは結果だけ残す能力。途中でみんなが犠牲になる可能性は捨てきれない。


 このおねーさん、あたしちゃんの能力を使えない作戦を立ててきた!


 荒国さんが『世界』で使えない事も読まれていた。とんでもないねーさんだ。読んでいても読んでなくても、何故か使わない最強の武器に疑問を持つのは当然だ。使わないんじゃなくて、使えない方に賭けてきた。

 他のクソデケルベロスにも、知らない人がくっついている。よく見たら知ってる人がいるかもしれない。


「そして時は動き出す・・・・・・」


 四ちゃんに『世界』解除を促す。仕方ない。レッドアラートがオレンジになるまで待つ。避けられないスピードじゃない。

 瞬間、オレンジ色になった一匹を狙いをつける。あたしちゃんから見て右にいる奴だ。

 ガンダムハンマーで人間部分の無い顎部分をかちあげて、怯んだ隙に荒国さんで頭を刺す。人間部分は擦り抜けた。そのままクソデケルベロスの真ん中の頭を維で切り刻む。同じように左右の頭も攻撃・・・・・・ちょっと待って。クッソ! 左の人、妖怪だ!

 なんて人だ! なんて妖怪だ! なんておねーさんだ!


「これが爆ねーさんのやり方!」

「アンタがどんだけ強くても、どんだけ肉体や能力が人間離れしても、魂は結局人間だ。その一線だけは超えたく無いっしょ。人間ならね!」


 クソデケルベロスの猛攻を避け切ると、爆ねーさんは不気味な笑みを浮かべて現れた。

 ついうっかり流石爆ねーさんだよと誉めてしまいそうになった。

 スポーツ漫画の二回戦目に出てきそうな卑怯者チームでも、ここまでの事はしない。

 爆ねーさんは、ゆにっぺ達が融合しているクソデケルベロスと合体していた。

 クソデケルベロスの腰くらいの所から、爆ねーさんの上半身が生えている。


「どうだ。これで攻撃は出来ないでしょ。み・お・み・お」


 あたしちゃん達の中でしか呼び合わない、あたしちゃんの大好きなあだ名で、爆ねーさんはあたしちゃんを呼んだ。

 瞬間、頭の中が真っ白になって、ある感情があたしちゃんを支配した。

 そう。それは、激おこプンプンインフィニティカムチャッカファイヤーだ。


「爆ねーさん・・・・・・ううん。爆! もう絶対に許さないからな!」

「それはこっちの台詞なんだよぉおお!」


 クソデケルベロスが次々にあたしちゃんに襲いかかる。


「澪! 妖怪かどうかは俺と四代目が判別する。とにかく維を続けろ!」

「なんて卑怯な奴だ。オレ様でもドン引きするレベルだぜぇ〜。くっついてる奴を引き剥がしても・・・・・・この混戦に巻き込まれたら無傷では済まねぇ。しかも下等生物はブチ切れちまってる。これじゃ上手く助けられるかもわからねぇ。とんでもねぇ奴がいたもんだ」


 トビーが感心したように言う。

 全くその通りだ。冷静にならなきゃいけない。でも、冷静ではいられない。友達をあんな風にされて、冷静でいられるJKがどこにいるんだよ。

 人間な人達はなんとかなるけど、妖怪な人達はどうすればいいんだ。みんな気絶してるか意識を封じられてるかで動かない。あの人達が意識を取り戻したら、妖怪の力で動きを止められるかもしれないっちゃしれないんだよね。

 でも、どうするか?


 ん?

 自撮りアタックって、ヒナピの娘や眷属以外に当てたらどうなるんだろ?


 荒国さんは、人間をほぼ辞めたあたしちゃんや普通の妖怪も斬れてしまう。破邪の木刀も同じだ。

 でも自撮りアタックは、あたしちゃんを回復させて、ヒナピの眷属には攻撃が当たる。

 考えている内に、クソデケルベロスが突撃してきた。前方ちょい右から一匹、後ろから二匹だ。前の奴の方が近い。オレンジ色の光が見えるまで左に移動して、光が見えたら荒国さんで真ん中の頭を峰打ちしながら受け流して、地面に蹴り飛ばす。あたしちゃんはそのまま上昇して、あたしちゃんを追ってジャンプしてきた後ろの奴を足場にして後方に飛ぶ。

 これで囲まれている状態からは脱出した。すぐにスマホを取り出して、自撮りアタックアプリを起動する。はてなマークをタップして、よくわかんない時に見る奴を出す。

 そして、この時点で時を止める。四ちゃんに合図だ。


世界ザ・ワールド! 時よ止まれ! WRYYYY!』


 四ちゃん、ノリまくってんな。ちょっと心が楽になった。

 

 さて。ゆっくり読ませてもらおう。何気にこの画面見るのは初だ。


 画面には可愛らしいイラストと、あたしちゃんにも読みやすい字で、こう書いてあった。


・ヒナコさんの関係者かそうじゃないかを判別するよ!

・ねーちゃんや僕ら家族は回復が早くなるよ!

・回復量に応じて敵を倒すよ!

・ヒナコさんと血の繋がりのない生き物は少し元気になるよ!



 ケン坊! ああ、ケン坊! 愛しの愛しの超絶可愛い自慢の弟! 結婚して!

 流石だ。流石、天才十三段堅慈郎だ。

 あたしちゃんの愛する弟は、この事態を予想していた。これなら自撮りアタックで問題を全て片付ける事が出来るし、分身も出来る。

 トビーの手助けが必要だ。まずは時を動かそう。


「時は、動き出す」


 スマホ見る以外は何もしてないから、この場にいる誰もがあたしちゃんが何かしたとは気づいていない。勘のいい爆にも、あたしちゃんの思惑は気付かれていない。

 距離を置かれたクソデケルベロス達が、一斉にこちらに向かってくる。


「トビー様! こっち来て!」

「なんだよ。何か思いついたのか?」


 攻撃を避けながら、トビー様に近付いて、小さな声で言う。


「スマホの写真の撮り方わかる? このアプリなんだけど」

「あー。わかるぜ。こっちのダチと一緒に自撮りした事あるわ」


 ダチ、いるんだ。物好きなダチだな。え、でもあたしちゃんは下等生物呼ばりすんのに、その人(?)はダチなんだ。なんかひっかかるな。

 って、それは置いといて。


「これで、しばらくあたしちゃんとコイツらを激写して。んで、あたしちゃんが自分の両足を斬りまくったら、こいつらとあたしちゃんの全部が映るように撮って」

「なるほど。オレ様が閉じ込められてた異次元でやったアレをやるんだな。任せろ」


 トビーにスマホを渡して、クソデケルベロスの群れに突っ込む。爆に気付かれないように、まとまったりバラバラなったりして攻撃してくるクソデケルベロスの猛攻を避けながら、自撮りポイントに誘導する。トビーからの激写で、クソデケルベロスにわずかながらのダメージと、取り憑かれている人達が本当に少しずつ、カタツムリのお散歩みたいなスピードで回復していくのがわかる。


「澪っち、何かやってるな? あのスマホか。でも、そんなの痛くも痒くも無ぇよ」


 四ちゃんのゲーム画面がほぼ見えるようになったのは大きい。敵や味方に何が起きてるのかよくわかる。

 そして、これはフリだ。スマホ攻撃は痛くも痒くも無いと、なんの効果も無いと思わせるフリなのだ。


「荒国さん、また自分で自分斬っちゃうけど、いい?」

「構わないさ。トビー様にスマホを渡したのを見て、澪の考えがわかった。アレをするのだろう?」


 荒国さんは、何も言わなくても、あたしちゃんの作戦をわかってくれた。

 飛び出てきたクソデケルベロスをいなして、距離を取りつつ、ある場所に誘導していく。


 ここだ。

 病院とあたしちゃんの間に、爆を含んだクソデケルベロスの群れがいる状態に持ってきた。これを狙っていた。


「荒国さん!」


 合図と共に荒国さんがあたしちゃんの脚を左右それぞれ五等分に斬った。今は可愛く自撮りとか言ってられない。そのままトビーを待つ。


「撮ったぞ!」


 トビーの声が聞こえた途端、脚が生えて、脚だったものは十人のあたしちゃんになり、クソデケルベロス達が吹っ飛んで、奴らがいた場所には取り憑かれていた人達が残った。

 あいちー達もそこにいた。ここまで効果が出るなんて。百点満点中の五千兆点な結果だ。


世界ザ・ワールド!」

『時よ止まれ!』


 すぐに時間を止めて、取り憑かれていた人達を助け出す。これまでは出来なかったのに、あたしちゃんが触れたものなら動かせるようになっていた。これも五千兆点だ。

 みんなを安全な場所に移す。全部で六十人。多すぎんだろコレ。

 よし、あとは爆ねーさんを・・・・・・。


『澪ちゃん! 後ろ! な、なんでコイツ動けるんだ!』


 四ちゃんが叫ぶ。振り向くと、レッドアラートの光と・・・・・・爆の爪が目の前にあった。

 爆の爪はあたしちゃんの顔を切り裂く。視界が一瞬真っ暗になった。直ぐに回復して、無刀式で応戦する。爆は、この時が止まった世界で、まるで息を吸って吐くかのように、お餅を焼いたら膨らむのと同じように、ここで動けて当たり前だと言わんばかりに、あたしちゃんの無刀式維についてくる。殴っては弾かれ、弾いたらすぐに反撃が来る。

 事もあろうに、この厄介なおねーさんが、あたしちゃんが止まった時の世界に入門してくるなんて!

 ただのパンチな無刀式絶で、爆を突き飛ばす。突き飛ばされた爆は、猫みたいなしなやかさで回転しながら地面に立った。

 こやつ、できるな!


「やっと動けたよ。祖先の力を使えるのはアンタだけじゃねぇって事さ」

「祖先の力?」


 ふと脳裏に三ちゃんの記憶が流れ込んで来た。知り合いの畑仕事を手伝っている三ちゃんに、人相の悪いメガネかけたイケメンが話しかけている。その横に、虎頭の獣人(?)みたいな人が立っていた。

 三人の話し声が聞こえる。


『よう。久しぶりだな。シンジ・コマセール』

『お前か。お前もここに来ていたのか』

『そんな所だ。俺はもう帰るけどな。それより、友人を紹介したい。お前の姉みてーに、俺もコイツに世話になってる。お前の姉貴のビンタで肉体を粒子レベルまで潰されたからな。千年かかったぜ』

『そうか。・・・・・・それは魂と精神を何かの器に移しているのか。見事な術だ。俺以外にそれが出来る者がいるとは。これは、君の力かな? 名を聞こう』

リー道人タオレンと言う。大陸から来た。彼と同じ仙人だ。占いでこの地に某とつがいになる女性がいると出て、彼の力を借りて飛んで来た』


 記憶はそこで終わった。どうもこの李道人とか言う人が爆の父親らしい。

 コイツ、占いで相性が良い未来のお嫁さんがいるからここに来たの? そんで見事に結婚して子供が産まれたの? なにそれ。スーパーラブロマンスじゃん。

 仙人とか言ってたな。爆は、その仙人の不思議な力が使えるって事だ。そして、どういう理屈かはわからないけど、爆はあたしちゃんと四ちゃんの世界に入門して来た。


「もうこの力はウチには効かねぇぞ。一対一、正々堂々勝負だ。同田貫荒国無しで、ウチに勝てるかな?」


 爆は得意げに言った。

 このねーさんから正々堂々なんて言葉が出るなんて。散々卑怯な事をして来たくせに。


 でも、あたしちゃんも他人の事は言えない。何故か。それは・・・・・・いや、それらは、あたしちゃんの後ろで既に立っているのだから。

 バラバラにして再生しておいた変身済みあたしちゃんズは、もうこの世界に馴染んでいた。


「って、増えてるじゃん! 一対一じゃないじゃん!」


 爆は、身構えた。

 あたしちゃんは、後ろに下がって、あたしちゃんズに近寄る。


「無事、再生出来たんだね、あたしちゃんズ」


 そう聞くと、あたしちゃんAは首を傾げた。


「再生? えっ、これ再転生じゃないんですか?」


 は? 再転生? 何言ってんだ?

 あたしちゃんBが口を開く。


「僕もそう思ったよ。前にトラックで轢かれた時みたいに、ドラゴンに焼かれて・・・・・・気付いたらここにいたんだ」

「俺もトラックに轢かれてドラゴンに焼かれたぜ。勇者の野郎からパーティー追放されて、どうしようかとと思ってたら、いきなり」

「君も? 私も転生して頑張ってたのにパーティー追放されて・・・・・・」

「僕もだ」

「同じく」

「自分もトラックに轢かれて異世界転生してパーティーに追放されてドラゴンに焼かれました」


 おいおいおいおい。

 これは一体どう言う事? ここにいる全員、あたしちゃんの祖先とか関係者では無く、なんかトラックに轢かれて異世界転生してパーティー追放されてドラゴンに焼かれた人達なの?


 あたしちゃんAが、恭しくって言うのかな。なんか丁寧に頭を下げた。


「あなたがこの世界の女神様なのですね。なんかめちゃくちゃなチート能力もらった気がします。この前の世界でのチート能力も、どうやら使えそうなので、今後ともよろしくお願いします。私、伊勢貝ユウ、転生後の名前をユーリ・バルンハルトと言います」


 あたしちゃんAは、ユーリ・バルンハルトと名乗った。その名前は知ってる。確かケン坊が自分で買ってきた小説の主人公だ。主人公ユーリは、ただの高校生だったけど、トラックに轢かれて異世界転生して、勇者バイロンのパーティーにビーストテイマーとして加わったんだけど、些細な事で追放されて、それでもめげずにチート能力を使って人々を救っていく物語だったはず。アニメ化もしてて、ケン坊やあいちーと一緒にアニメ見てたから覚えてる。


 って、待て待て待て待て待て待て。

 あたしちゃんさ、確かにこの力を持った頃にさ、『チートご先祖様に恵まれたあたしちゃん、何やっても無双過ぎてパーティー追い出されたりしてもなんとも思わないどころかパーティーとかクソ喰らえですが何か?』とか言ってたけどさ、まさかパーティー追放された異世界人が逆転性してくるとは思わなかったじゃん?


「ズルい! マジでズルい! もうオメー、ズル山ズル子に改名しろ!」


 これまで散々あたしちゃんにズルい事をしてきた爆は、おまいう案件なセリフを吐き捨てるように叫んだ。

 ん? 六ちゃん、あたしちゃんもおまいう案件とか思ってないよね?


 爆の腕が膨らんで、その爪が太く長く伸びた。身体からは赤い煙と緑の煙がもくもくと出ている。何かズルい事をするつもりだ。

 次の戦いが爆との最後の戦いな気がする。

 でも、こちらには異世界チート能力所持転生者が十人いる。

 負ける気が全然全くちっとも一ミリグラムもしない☆

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