第34話 6+1

☆  ☆  ☆


洋太は四人目の男の話を聞きながら、ずっと眉をよせていた。



どうも、おかしい。



ただ、殺される人間が女に代わっただけで、一番最初に聞いた話とほとんど同じなのだ。



狭い箱で目を覚ました女が、天井から降ってくる液体によって体を溶かされ、息絶える。



疑問を感じた洋太は、話の途中で思わず口を挟んでしまった。



「ちょっと待て。それは俺が一番最初に聞いた話と同じじゃないか?」



今まで箱の中で全く違う死に方をしていたのに、なぜだ?



男は洋太の質問に右の眉をピクリと上げて、「黙って聞け」と、低い声で言う。



「けど……、その話はもう聞いた。同じ話を繰り返すなんて、どういうことだ?」



人間を恐怖のどん底へ突き落とすつもりだとすれば、全く違う話を聞かせる方が効果的だ。



同じ話を聞かせたところで、新しい恐怖心は芽生えないのだから。



しかし、洋太の疑問をよそに、男は話を続けた。



人間を恐怖のどん底へ突き落とすつもりだとすれば、全く違う話を聞かせる方が効果的だ。



同じ話を聞かせたところで、新しい恐怖心は芽生えないのだから。



しかし、洋太の疑問をよそに、男は話を続けた。



「女は、箱に入れられたまま叫び続けた。



『誰か! 誰か助けて!』しかし、その叫び声は誰にも届くことなく、天井から降り注ぐ液体によって、体をドロドロに溶かされ、死んだ」



「……だから、どうした?」



男が話し終えると同時に、洋太はそう言っていた。



話が終るごとに自分の死が近づいている。



その実感が、一瞬にして消えうせてしまったのだ。



微かに、笑みさえ浮かべている洋太に、男はまた右の眉だけをピクリと動かした。



それを見て、洋太は思わず笑い出した。



「それ、あんたの癖か? 右眉だけ動かすなんて、器用だな」



おかしそうに笑い続ける洋太に、男は困惑したような表情を見せた。



そんな洋太に、今度は哀れむような顔になる。



とうとう精神的に追い詰められ、おかしくなってしまった。



きっとそう思ったに違いない。



しかし、遠くで扉の閉まる音を聞きながら、洋太は一筋の光を見出していた。



ここから逃げ出す、たった一つの光を……。


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