第22話 花咲くとき

☆    ☆    ☆    ☆    ☆


《人草花の取り扱い説明書


この度人草花をお買い上げくださり、まことにありがとうございます。


人草花はまだまだ開発途中の花であります。



育成ゲーム感覚で楽しめるものを目指しておりますが、まずは普通の観賞用植物として育てていただけると幸いです。



人草花は、暑すぎる場所、寒すぎる場所では育ちません。



温度調節を心がけていてください。



水は一日にコップ一杯を目安とします。



水を飲む、という行為がプログラムされているため、コップを置いておくとその場面を見ることもできます。



また、茎の中に言葉を認識する機能が埋め込まれています。



この機能をうまく使えば、会話をすることが可能になります――》



☆    ☆    ☆    ☆    ☆


彼の動きが止まった。



二日前、彼の頭を壁に打ち付けて以来、彼の動きが止まってしまった。



彼の口元は微かに笑っていて、『栞、愛してるよ』と、今にも優しい言葉をかけてくれそうに見える。



「どうしたの……?」



栞は、そっと彼の頬に触れてみた。



冷たい。



今までのぬくもりが嘘のように、とても冷たい。



彼がただの花だということは、最初から知っていた。



だけど、動いていたじゃないか。



話をしていたじゃないか。



自分が大好きな一哉そっくりになって、抱き締めてくれたではないか。



「どうして動かないの?」



不安そうに、語りかける。



今にも泣き出しそうな表情の栞は、人草花を『拾ってきた』ため説明書の存在を知らなかった。



「ねぇ、一哉。返事をしてよ」



もう一度話しかけたその瞬間、栞が触れていた場所が突然膨れ上がった。



栞は驚き、手を離す。



今まで何もなかったソコに、小さなつぼみが出来ていた。



その場所だけではない、ポツポツ、ポツポツと顔中につぼみが出来ていく。



最初はニキビほどの大きさだったつぼみは、見る見る内に大きくなり、彼の顔を掻き消していく。



「やめて、やめてよ!」



彼の顔が見られなくなる恐怖から、栞が両手でつぼみを引きちぎっていく。



千切れた場所からは、トプッと透明な液体が流れ出した。

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