第24話 bless up
「ちょっと・・・放してよ」
私だっていつかはみんなの前に出なければいけないのはわかっている。
けれど、まだもうちょっとだけ時間が欲しい。
そう、ちょっと。あとちょっと。
・・・・・・わかっている、そのあとちょっとにキリがないことを。だから、私も強くは抵抗できない。自分の足で行かない分このままベランダから落としてほしい。そして、怒り狂るった国民たちに袋叩きにあって・・・。
魔法なんてなければ良かった。
聖女なんて言われて、もてはやされてきたけれど、魔法なんて私の身に余る力があったからこんなことになってしまったんだ。
「ねぇ、メーテル?目を閉じて」
「えぇ、わかったわ」
言われるがままの私。もうどうにでもなれって感じになってしまった。
死ねと言われれば死ぬ覚悟まである。そうやって、お人形さんになってしまえば、苦しむことはない。
そんなことを考えていると、瞼の向こうが眩しくなったと思うと、ユリウスが立ち止まる。
「着いたよ」
その言葉に私はユリウスの服をぎゅっと握りしめてしまう。
やっぱり、人形になんてなれない。心臓がバクバクして、苦しい。
「目を開けてよ、メーテル」
少し笑っているユリウスの声に恐る恐る私は目を開ける。うん、やっぱりユリウスは笑っている。その笑顔はまるでいたずらを仕掛けた少年のような―――
「さぁ、見てっ!!!」
私が恐る恐るユリウスの顔からユリウスの視線の先に自分の視線を移すと、そこはあの突き落とされたお城のバルコニーだった。
「んっ・・・っ」
眩しい光が私を包み込む。
「うそ・・・・・・そんなっ」
たくさんの人がいた。
笑顔でいーーぱいっの人たちが。
おじいちゃんもおばあちゃんも、おじさんもおばさんも、おにいさんもおねえさんも、おんなのこもおとこのこも。王宮の庭園には収まらず、街の方にまで人が溢れているのが見える。私がその景色をもっと見たいというのがわかったのか、ユリウスがゆっくりと降ろしてくれる。
私は恐る恐る手すりの方まで歩いて行くと、
「「「「うおおおおおおおおおっ」」」」」
多くの国民が拍手と歓喜の声を出し、
「メーテル様っ」
「聖女様~っ」
と私を呼んで手を振ってくれる。
なんで?
私はユリウスを見るけれど、当然だという顔で笑っている。
私は弱ってしまったという作物や王宮の庭園をもう一度見る。
木々には装飾が施されており、私が眩しいと感じたのも太陽の光を反射させる鉄細工やベルや星、染物やモールなどがきれいにつけられている。こどもたちが作っただろう粘土細工や折り紙も木の下の方についてあるのがかわいらしい。遠くの方にある作物の方も良く見えないけれど、何かしらの装飾をしているようだ。
私がぼーっと全体を見ていたにも関わらず、まだ私に手を振ってくれる人もたくさいる。
私はおこがましいと思いつつも、無視している自分の方が嫌だったので、ゆっくりと手を挙げて、手を振ってみる。
「「「キャーーーーッ」」」
喜んだ声があちらこちらで聞こえるので、いろんな人に手を振った。
「どうだい・・・?故郷は?」
「ねぇ・・・これはどういう・・・」
「キミは自己評価が低すぎなんだ。みんな今までキミがこの国のために頑張ってくれていたことを喜んでくれているのさ」
そう言いながら、ユリウスは余裕な笑みで手を振る。さすがユリウス。私だったらこんな大勢の前に困惑してしまうけれど、大臣の時代も長かった彼は軽々と王子の振る舞いができている。
「ボクも・・・そして、みんなもキミが大好きなんだ」
真剣な瞳で私を見つめるユリウス。
私は胸がいっぱいになるのを感じる。
申し訳なくて・・・でも、嬉しくて・・・。
(こんな私を・・・・・・みんな・・・ありがとう)
私は目を閉じて、この嬉しさを、この感謝をめいいっぱいに感じる。感覚というのは、感じればどんどん薄れるものだと思ったけれど、感じれば感じるほど想いが溢れて止まらな・・・
「メーテル?」
「えっ」
心配そうなユリウスの声が聞こえたので目を開けると、私の胸のあたりが日中にも関わらず強く光っており、私の周囲には蛍のような光が舞っていた。胸のあたりの光はどんどん大きくなっていて、私は意識して大きくなるのを留めて、両手の上へと動かしていく。
「うおおお・・・・・っ」
国民のみんながその綺麗な光に魅了されて思わず声を漏らしている。
「bless up」
聖女の力は御業の物。
一瞬にして世界を鮮やかな色に染めていく。
あの時は無理して頑張ってくれた草木に優しい光が降り注ぐ。
感謝の気持ちを込めたその光が草木や作物に触れると、少しずつ生い茂っていく。そして、花々を咲き誇らせて、荒廃気味だった街の向こうまで跳ぶと畑の作物たちも花々でいっぱいに溢れる。
「なんだこれ・・・」
人々にも降り注ぐ雪のような光に、大人も子ども興味津々に触れていく。
「これは・・・聖女様の愛情じゃ・・・」
みんなは、まるで母親にミルクを与えられて満足そうに眠る赤ん坊のように穏やかな顔になっていった。
それは私にとっての最高の景色が上書きされた瞬間だった。
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