第5話 見た目とは裏腹

「この迷路怖いって友達が言ってたよ」

「怖くないさ、パパがついているぞ! それにお前の好きなスタンプラリーもあるし」

「でも怖いヨ」

「忠志、泣かずにクリアできたら幼稚園で自慢できるぞ!」

 鉄平は受付から間も無くやってくるであろう父親と幼稚園児の息子2人の動向を伺っていた。


 人気は人気なのだがやはりまだ小さい子供や暗がりが苦手な人たちには恐れられている。

 また霊感のある方達の間でこの迷路屋敷は出る、みえるとかそう言う噂が流れてしまい数年前から客足も減っているのも確かである。

 


「何かあったらパパが守ってやるからな」

「僕ずっと手を繋いでいるからね」

 と2人が受付に来てくれたことをホッとする鉄平。


「スタンプラリー、ぜひやってくださいね」

 鉄平は子供にニコッと笑いかけるとその子も笑顔で返してくれた。


「子供はスタンプ好きですもの。あとシール。客足伸ばすのに子供頼みもアレなんだけどね」

 松島が鉄平に声をかける。そういえば子供の頃、旅行先でスタンプを集めたなぁ、シールもよくベタベタ貼ったなぁと思い返す。


 すると数分後、あの親子がやってきた。

「ちょっとあんたたち」

 父親が眉間に皺を寄せて詰め寄ってきた。鉄平は狼狽えるが松島が笑顔で対応する。


「スタンプラリーとか言うから子供が喜んでたのに、なんですか? このおっさんのスタンプは!」

 と差し出したのはスタンプラリー用紙、そして押されたスタンプの柄はそれぞれおじさんの顔。


「今、敷地内で行われていますラーメンイベントでの店主さんたちの顔なんですよ」

「いや、センス悪いでしょ。息子なんて機嫌悪くして不貞腐れてる」

「あらまー」

「あらまーじゃないですよ!」

 松島はにこやかに対応しているだろうが心のうちはわからない。


 今回のイベントの企画提案は実は……。


「ただでスタンプラリーできてさらに割引券もらえるのになんであんなに文句言うんでしょうか」

 対応を終えた松島に鉄平はそう声をかける。彼女もため息をつきながらも笑顔は崩さない。


「スタンプラリーのアイデアはいいけどもセンスがないのよ、御影さんは」

 今回の企画は御影によるものであった。ラーメン屋台の店主たちの顔のスタンプもニコニコしながら発注をかけ、ウキウキと迷路の中にスタンプ設置台も置きにいったものの、ラーメン屋のおっさんたちの顔のスタンプを探して回るというカオスなイベントになってしまったのだ。しかもよりによってイベント開催数日は御影はいない。


 でも鉄平だけは悪くはないとおもっている。御影の容姿端麗さとこのミスマッチな企画提案のギャップにさらに惚れ込んでしまったのである。

「センスが悪いとかそういうのはここだけの話にしてね」

「わかってます……」


 やれやれと長い顔をしつつもふと机の上にスタンプのサンプルを見る鉄平。


 リアルにニコニコと笑うラーメン屋の店主の顔を見ると


「やっぱ無いかな……」

 と呟いてしまった鉄平であった。

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