第4話 迷路よりも謎

 今日は鉄平と松島の二人で受付をしている。


「清掃終わりました」

「ありがとうございます」

 二人のメガネを掛けたのっぽの清掃係が受付にやってきた。

 鉄平たちも清掃はするが日中は迷路屋敷のある施設内の清掃業者から数人来てくれる。

 修繕や補修もしてくれるなど万能選手でもある。

 だが職人気質もあるのか言葉数も少ない。

「換気もしましたから少ししたら入場もできます」

「ありがとうございます。今日からイベント始まるので……」

 イベント初日に関わらず、朝一番の家族連れの子供が迷路の中でそそうを起こし、しかもそのまま走ってしまったと言うことで清掃に時間がかかり、一時的に営業停止させるという自体になったのだ。


「本当に大変なことになったなー。こんな時に男鹿さんは別のところのヘルプに行ってるし、御影先輩は休み、僕と松島さんで回すなんて」

 いくら一年働いている鉄平も、人手不足に頭を抱える。

「こういう時に御影さんいないなんて、とか思ってる?」

 松島が微笑みながら受付をしている。

「い、いえ……その、松島さんがいるだけでも心強いです」

「そう、本心からそう思ってない。若い子がいいわよね? わたしみたいなおばさん……だめよね」

「だめだなんて言ってません……」

 会話を重ねるごとにネガティブになってくる松島に対して狼狽える鉄平。


「鉄平くんはーいくつからおばさんだと思う?」

 不敵な笑みを浮かべられ、鉄平はあれこれ考える。

「そ、その……」

「じゃああの清掃員たちはおじさん?」

 鉄平は清掃員の二人を遠くから見て少し考えて答えを出した。


「おじさんと言ったらおじさんですよね」

 松島はその答えにフウンと言って黙る。微笑んだままだが。

「あの二人、わたしと同じ歳」

「えっ」

 鉄平は体のありとあらゆるところから汗が噴き出る。

「てことは、わたしもおばさん、てことかしら」

「そ、そんなこと!」

 松島は微笑んだ。

「狼狽える鉄平くん、かわいい」

「あああ」

 しかし実際、松島たちの年齢がいくつかわからないままであった。




 ちなみに交代で戻ってきた男鹿に鉄平がおばさんはいくつからか聞いてみると

「なんだよ、おっさんの俺に聞くなよ。てか松島さんは全然おばさんの域じゃねえな。お姉様かな……」

「お姉様……」

 そう言う言い方もあったか、と鉄平は不敵な笑みを浮かべる松島に夜もうなされるのであった。

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