第1話 メイズに取り憑かれた男

 とある家族がやってきた。父親、母親、お姉ちゃん、弟というようなよくあるような家族構成。

 弟がぐずぐずしている。この古い建物に怯えているのだろうか。


「僕は入りたくない」

「お前入らなかったら一人で待ってるんだな!」

 父親はなかなかの厳しい人。弟は幼稚園に入ったばかりであろう。

「いやだいやだ!」

 足をバタバタさせている。すると母親がひょいと抱き抱えて強制的にメイズの中に入っていく。入口からもまだ泣き声が聞こえてくる。



 数分後、ゴールからまた泣き声がした。

「やーだー! まだもう一回!」

「わんわん泣いてもう出たいー! って泣いてたクセに」

 確かに泣き叫んでいる声が外まで響いていた。

「だって全然見えなかったもん、うわーん!」

 また弟は泣きだし暴れ出した。一緒にいる母、姉たちは疲れ顔でうんざり。

「わかった、父さんともう一回入ろう。母さんたちは先に喫茶で待っててくれ」

「ヤッタァ、お父さんありがとう」

「今度はちゃんと自分の足で歩いて迷路の中に入るんだぞ」

「うん」

 さっきまで泣いていた弟はニコッと笑った。あの泣き叫びは何だったんだ? 

 ニコニコして父親と弟はまたメイズに入っていく。






「俺はこのメイズに魅了されてな、何度もここに来てはメイズを探検した」

「で、気づいたらここの従業員になっていたと」

「人生の半分以上はこのメイズと共に過ごしている」

 鉄平は男鹿と一緒に受付の中で話をしていた。ここ数時間ほど鉄平は男鹿の過去を聞いていたわけである。


「こんな雨の中、メイズに来るのは物好きですよね」

 と鉄平が呟いたから男鹿がここのメイズの魅力を語り出したのもある。長くうんざりと男2人で受付にいるのはうんざりである。まだまだ男鹿のメイズの魅力語りはゴールのない迷路の様だ、と途方にくれるのであった。

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