メイズ〜とある迷路屋敷にて〜

麻木香豆

プロローグ

 とある郊外にそびえ立つ迷路屋敷「メイズ」。

 レジャー施設内にあり、毎日のように色んな人々がこの施設に吸い込まれていく。

 本日も営業が終わり、点検を終えた従業員たちが出てきた。

「今日もたくさんきたわね」

「そうですね、連休最終日というのに」

「だよ、まぁ俺たちは連勤だったけどな! はははっ」

「ほほほほっ」

 全員疲れていたはずなのにその場は大笑いに包まれる。


 大学生バイトの鉄平てっぺいもその中の一人。一年の夏休みから大学の先輩、御影に誘われて土日祝日、夏休みなどの大型連休のみ働いている。今年の夏で2年目になる。


 鉄平はベテラン社員の男鹿おがとパート主婦の松島の三人。


 今日は遅番は三人。スタッフの控室に向かって先頭を歩いていた鉄平は振り返った。

「またか」

 男鹿の横に青ざめた顔をした中年の男性が立っている。他の二人は気づいていない。

「どした」

「いえ、なんでも」


 この男性はお世話好きで数年前にメイズの中で心筋梗塞で亡くなった。成仏できず、未だにメイズにいて遅番のスタッフの後をついてくる。鉄平にはみえるが他のものは見えない。なのであえてみえていないフリ。


「そいえば鉄平、日誌当番お前だろ」

 男鹿はノートを鉄平へ。『スタッフノート123』。

 このメイズも作られて40年近く。リニューアルやメンテナンスを繰り返し今も多くの人たちに愛されている。

 鉄平はノートを受け取り、歩きながらささっと書きこむ。


「歩きながら書くなヨォー」 

 苦笑いの男鹿。松島はスマホで家族にメールをしていて気にしていない。


 鉄平は書き終えた。


『今日もいろいろあった』


 これはメイズ、とある迷路屋敷での出来事である。

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