第15話 なかった事に

 文化祭が終わって、いつもの日常に戻った。

 いつものように、僕はみずきさんと今日も会話する。

 でも、どこかぎこちない。

 あの日、みずきさんが言ったあの言葉。


『好き』


 僕は未だに返事をしていなかった。

 このままなかった事になりそうだ。

 みずきさんからあの日の事を話す事もない。

 どうしたら良いのだろう?

 このまま黙っていても良いのだろうか?

 もやもやしていた僕だった。



「はぁ・・・」

 溜め息を吐く。

「あっ弦大げんた!」

 呼ばれた方向を向くと優愛ゆめだった。

「何?」

「あんたこそ何?」

「えっ?」

 険悪な顔の優愛。何かしたかな?

「みずきから聞いた。告白の返事、してないんでしょ?」

 おぉ・・・やはり優愛は早い。

「うん、返事してない」

「もう1ヶ月過ぎてんのよ!早くしなきゃ!」

 うーん・・・。

「でこぴん!」

「痛ッ!」

 強烈なでこぴんをくらう。地味に痛みが長引きそうだ。

「いざって時にしっかりしてよ!」

「うーん」

 しっかりと言われてもなー。

「弦大、何に迷ってるの?」

「うん・・・迷ってるんじゃない。みずきさんの事をまだちゃんと知らないという所に懸念がある」

 そう、今のみずきさんは知っていても、大勢の中に居れないみずきさんの事を僕はまだ知らない。

「そういうこと・・・」

「?」

「ならやっぱりバカ!」

「えっ」

 僕は目をパチパチした。

 優愛の顔は怒っている。


「気持ちがあるなら、それだけじゃダメなの!?」


 グサッ・・・

 心に突き刺さった。


「シンプルに考えな、分かった?」

 気難しく考えていたようだ。

「うん、ありがとう」

 僕はそれだけ言って、教室を出た。



「・・・」

 図書室にいたみずきさんは、楽しそうに僕の知らない男子生徒と話していた。

 心がざわざわした。もやもやも。

 これって、一体・・・。

 すると、僕とみずきさんは目が合った。

 みずきさんはパッと笑顔になり、手を振っている。

 図書室から「弦大君!」と僕を呼んでいる。

 でも僕は、怖くなって、中に入る事なくその場から走り去ってしまった。


 これは、そうだ。


 嫉妬


 情けない、自分に腹が立つ。

 堂々としていれば良かったのにー・・・。

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