美味しい話を濁す方法(隠者の正位置)

「孫よ、わしは今大いに悩んでおる」


 一緒にテレビを観ながらお喋りをしていた時、何の前置きもなく、おじいちゃんこと『隠者』の正位置さんが言った。基本的に私が悩みを打ち明けることが多いため、彼から打ち明けられる事は初めてのことだった。


「私で良ければ聞くよ?」

「流石はわしの孫じゃ、聞いてくれると思うておったぞ! 良い孫を持ててわしは幸せじゃ」

「ありがとう、いつもおじいちゃんにはお話聞いてもらってるから。それで、どんな悩み?」


 話が脱線してしまう前に本題を聞き出す。おじいちゃんは、難しい表情をうかべたまま、おもむろにチャンネルを切り替え、テレビを指さす。

 観ると、『詐欺に遭う高齢者達、巧妙な手口の数々!』といったタイトルの番組がやっており、実際に詐欺に遭ってしまった高齢者達の話や、その手口が紹介されていた。


「わしも人間でいえば高齢者の部類になる、どうも同志達を放ってはおけなくての。どうすれば護ってやれるのかを考えておるのじゃ」

「年々手口も巧妙になってきているのもあるけど、被害者が多くなっているよね」


 おじいちゃんの悩みは、詐欺に遭う高齢者達を減らす方法が思い付かないというもの。カード上とはいえ、人間でいえば高齢者に該当する彼にとって、自分と同じ仲間が被害に遭うというのは憤りを感じるだろう。


「私も考えたことがあるんだけど、どの被害にも共通点があると思うの」

「ほう、それはなんじゃ?」

「被害に遭う前の状況……色んな話を聞く中で一番多かったのが、久しぶりの身内からの電話で本人だと思ったってやつ。今まで一緒に暮らしてきた子供であっても、久しぶりに声を聴いたら聞き間違えてしまうこともあると思うんだよね」


 日頃より、電話や帰省などでコミュニケーションをとっているほうが、そういった電話がかかってきたとしても不信感を持ちやすいのではないかと思う。

 実際私の身内もそうだった。事故に遭いお金が必要だという電話がかかってきたが、ほぼ毎日電話で話していたということもあり、声が全然違うことに気付き、詐欺であると分かったのだという。


「日頃忙しくしていると、どうしてるかなって思ってもなかなか様子を聞いたりすることが出来ないけど、身内を護れるのは身内だけだからさ。短時間でもいいから、声を聞かせてあげたいなって思うんだよね」

「もしや、それで定期的にわしのところに来てくれておるのか?」

「正解、カードとはいえこうして顔を出した方が安心するでしょ? みんなのところに回ってるから、滞在時間は何時も短くなるけど、少しでも安心してくれたらいいなって思って。私も様子を見ると安心するから!」


 テレビに出ている高齢者達は、まさか自分が詐欺に遭うとは思っていなかったと話しているが、若者でも簡単にお金が稼げるなどといった、おいしい話に騙されるくらいだ。誰だって被害に遭う可能性を持っている。


「私思うの、お互いがおいしい話を濁せられたら、被害も少なくなるんじゃないかなって」

「濁す?」

「若者と高齢者って、いがみ合いが多いでしょ? そこを上手く使って、濁せたらいいなって思うの。若者達は定期的に連絡しながら、高齢者達を見守る。高齢者達は、自分たちの経験からお金は簡単に稼げるものでは無いことを伝えて、若者達を見守る……とかね?」


 いがみ合いが起こるのは、時代や考え方が違うから。ならそれを逆手にお互いにぶつけ合えば、おいしい話に疑問という濁りを入れて、もう一度考え直す時間を作れるのではないだろうか。人を救うのは何時だって人なのだから。

 そう話す私に、おじいちゃんは嬉しそうに目を細め、頼んだぞと頭を撫でて、未来を託すのであった。

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