第6話 転校生

 いじめは収まることなくずっと続いた。


僕は今すぐにでも太陽の少女に会いたかった。


しかし、太陽の少女はどこにもいない。


太陽の少女はどこを探してもいなかった。


僕は絶望に覆われた。


僕は逃げようとした。


しかし、無駄だった。


この世界、そのものが絶望だった。


そんなある日、転校生がやってきた。


なぜかその転校生は僕に興味津々だった。


僕は驚いた。


「私はアユム。ねぇ、君はなんていうの?」


「サトルだよ」


「Nice to meet you!」


「Nice to meet you,too.」


僕は不思議なものを感じた。


アユム。


どこかで聞いたことがあるような感じがする。


気のせいだろうか?


そして、僕はとてつもなく驚くべきことに気づいた。


アユムと名乗る転校生は僕の中にいる少女、そう、太陽の少女にそっくりだった。


しかし、どこかが太陽の少女とは違う。


そんな気がした。


アユムはフレンドリーに接してくれた。


なので、すんなりと打ち解け合えた。



 なぜか、アユムと行動を共にすることが多くなった。


一緒にアイスを食べたり、遊園地に遊びに行ったり、森や湖に行っていろんな生き物を観察したりして楽しんだ。


青春しているようだった。


しかし、どこか物足りないような感じがした。


彼女にはいろいろと助けてもらった。


一緒にジョギングしたり、勉強を教えてもらったりとアユムは様々な面で僕に良い影響をもたらした。


彼女は太陽の少女に似ている。


しかし、彼女からは太陽の匂いがしなかった。



 僕は彼女にあのことを話した。


「あのさぁ、太陽の少女が頭の中にでてくるんだけど、その女の子と君がなんかよく似てるんだ」


「太陽の少女っていうのは何?」


アユムはとても興味津々に聞いてきた。


「僕の記憶の中に出てくるんだ。しかもけっこうハッキリと頭の中に映像みたいな感じででてくるんだ」


「面白そうね」


「まあ、その女の子とは全然、会ったこともないし、見たこともない。でも、不思議と会ったことがあるような感じがするんだ。まあ、結局、そういうのも僕の妄想で脳の誤作動っていうやつなのかもしれないけど」


「よくわからないけど、とても不思議」


「僕ってなんか変だろ?」


「なんで?別にそんなことないと思うけど」


「だっ、だって」


「まあ、人それぞれ違って当たり前だからこういうのもあって良いと思う」


「率直に言うとさ、僕に関わるのはやめた方が良いと思う」


アユムはムッとした。


一瞬、周りの匂いが変わったような感じがした。


ほんの一瞬だけ、不思議な匂いがフワッと湧き上がってきたような感じがする。


気のせいだろうか。


「なんで私が君と関わったらダメなの?」


「僕は存在しない太陽の少女をひたすら追い求めてるせいで周りからつまはじきにあってるんだ」


「別に周りなんてどうでもいいんじゃない?」


「だけど、自分でも変じゃないかと思うんだ。だって、存在しないやつをずっと追い求めてるわけだし、自分でも何が何だか訳が分からなくて。それで、やっぱり僕は自分自身がおかしいのではないかと思ったりするんだ」


「君は何か悪いことしたの?」


「ううん」


「だったら、堂々としなさい」


「そもそも、未知のものや分からないことに対して、分かりっこない、自分より劣っている、とてつもなく恐ろしい、邪悪だと決めつけて、知ろうとしない、分かろうとしないっていうの自体がとても馬鹿げてる。だから、君をいじめるやつなんてほっとけば」


「ありがとう」


「いえいえ」


「でも、その人達とも分かり合っていきたいんだ」


「そういうのも良いけど、それだと人を傷つけることはない、その代わり、人を助けることもできないと思うよ」


「そ、そうだね。分かってるけど」


「まあ、分かり合えるかどうかは相手にもよるんじゃない?」


「ほどほどが良いってことか」


「何かあったら、いつでも私にいって」


「そんなに気を使わなくて良いよ」


安易に人の助けを借りるな、そう父に言われたような気がする。


実際の所、父はそのようなことは言っていない。


でも、父がそう言っていたような気がする。


「分かったかも!太陽の少女ってもしかしたらパラレルワールドにいるんじゃない?」


アユムが突然、言い出した。


こうして、僕と謎の転校生アユムによる探索が始まった。


生まれた国、生まれた都道府県、周辺にある高校の数、僕が通ってる高校における高2のクラス数で僕と彼女が出会う確率を出してみた。


200分の1×200分の1×47分の1×47分の1×15分の1×15分の1×5分の1×5分の1=497025000000分の1


これでもまだ正確には割り出せていない。


さらに正確に出すには僕と彼女の行動パターンとかその他もろもろを計算に入れないといけない。


とてつもなく天文学的だ。


数ある世界、数ある運命の中でこの運命にたどり着いた。


無数にある現実、無数にある運命の中から君と出会う運命を見つけた。


君と出会う運命を見つけた。


君と出会う運命に遭遇した。


これは衝撃的だ!


これは奇跡だ!










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