5 猫と彼女と僕

猫が僕の横をとっとこ通り過ぎていく。


目で追いかけると、猫はくるりとこちらを振り向き「みゃお」と鳴いた。

猫はその場にしゃがみ、姿勢よく真正面に僕を見据えた。

僕も振り向き、しっかりと猫に正対した。


「みゃお」

僕も猫を真似して言ってみた。

「猫語が話せるんですね」

通りすがりの女性に話しかけられた。

「いえ。ただ真似しただけなんです。なんて言ってるのかはわかりません」

「おなかがすいてるのかな。この猫ちゃん、人の気持ちや考えがわかるのかもしれませんね。身じろぎもしないで、しっかりとあなたを見つめていますよ」


「そうかもしれません」

猫が僕から視線を外し、空を仰ぐと流れ星が流れた。

猫が「みゃお」と鳴いた。

「流れ星が通るってわかったの?」

女性が猫に問いかける。

猫は「みゃお」と返事をした。

僕は猫に近づくと両手を伸ばし抱きかかえた。猫は喉をゴロゴロ鳴らし「みゃお」と鳴いた。

「人懐っこいんですね」


そのあと、猫を抱いた僕は女性の家にお邪魔した。

「どうぞ。ちょっと散らかってますけど」


彼女はキッチンに通してくれて、紅茶をふるまってくれた。オーガニックなんだと、教えてくれた。

「猫ちゃんは何がいいかな?」

彼女は、僕の腕の中でくるまっている猫に顔を近づけ撫でた。

猫のゴロゴロが激しくなる。

彼女は微笑んだ。


「ミルクにしようか?」

そう言うと彼女は冷蔵庫からミルクを取り出し、火にかけて少しあっためた。

猫が飲むのにちょうどよさそうなお皿に少し移すと、人差し指で熱さを測ってちょっとずつ冷たい牛乳を足しながら、猫舌でも大丈夫な温度に調節してくれた。

「ミャオってどうですかね?」

僕は猫の名前を提案した。

「ん?なにがですか?」

「名前です。この猫の」

彼女は声を上げて笑った。

「そのまんま? ふふはは」

彼女の笑いはしばらく収まらなかったが、少し経つと

「でも、シンプルでいいかもしれないですね。案外しっくりくるかも。意外といいネーミングセンスです」

そう言って僕の腕をつついた。


「またいつでも来てくださいね。ミャオちゃんも連れて」

彼女は玄関先まで見送ってくれた。手を振る彼女。僕は軽くお辞儀をして手を振り返した。

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