第10話オレの息子はクソNEEEEEEEET!!

昼休みの銀行のATMにて、オレ中島慎吾(54)はあり得ないほどにイライラMAXだった。というのも前の年寄りが、あり得ないほどに鈍臭く、グズグズしていたからだ。しかも何故かカウボーイハットをかぶっている。誰が薦めたんだいったいセンスの無さにも程がある。はよせいはよせいはよせいはよせいはよせいはよーせい!オレがはよせいオーラを懸命に出し続けても、年寄は微動だにしない。うーんうーんとか言っている。見かねてそばでボーッと突っ立っているお局さまのようなオバハン銀行員に声をかけた。『ちょっと分からんようやから見てあげて』オバハン銀行員は、オレに対して嫌なものでも見る(それはまるで公道に落ちてる犬の糞よう)ように睨みつけてきたが、いやいやいやオレちゃう、前のジジイや!クソなんわ、ATMの取り扱いもまるで分かってないアナログジジイや!オレは無実だO型牡羊座。あーイライラする。イライラMAXで、無性に人を殴りたい衝動にとらわれる。我慢我慢我慢我慢我慢我慢。あー、今すぐにでも『きーっ』て叫びたい。仕方がないので、心の中で叫ぶことにする。きーーーーーーーーーーーーーっ当然のことながら、全然スッキリしないものだ。前のポスターが自然と視界に入る『資産運用、他人事だと思っていませんか?』TVに出ている女性タレントが笑みを浮かべている。じゃかましい!『あん?』後ろに並んでいたいかつい男性が声をあげてきた。ついつい心の中の声を出してしまったようだ。いやいや貴方でなくてね、まあ面倒くさいので、得意分野の高速謝罪をしておく。あーあ面倒くさ、なんで世の中、こんな面倒くさい奴ばかりなんやろか?いっそ逆らうことの全くないAIのアンドロイドばかりが蔓延る世の中になったらええ 人間は基本的にワガママやねんな。その点オレなんか、欲も何もないもんね達観としているというか、出世欲もないし意地汚いことしてまでのし上がろうとかも思わへん。窓際族で十分や、窓際バンザイバンバンザイざまーみろ。ん?LINEが鳴った思うたら、また同僚ゴルファーからや、こうしたら上手くなるああしたら上手くなるとひたすらLINEを垂れ流してくる鬱陶しい奴。はいはい既読だけしてスルーしましょスルー。ゴルフなんか上手くならんでええねん。上達をする人はこれをやっている?じゃかましいわい。下手のままでええんや。上手くなったらなったで、アホな上司が騒ぎよる。君子危うきに近寄らずや。上司の魚住は勝手にオレをライバル視してて正直言うと気持ち悪い。すぐに痰を吐くし、喋ると口元に泡がたまる。オレら下手くそゴルフ仲間たちは、陰で魚住のことを『蟹さん』と呼んでいる。ガーガーブクブクほんまきっしょいねんボケ おまけにそんな上手くもないくせしてルールには細かい。『後ろに立たないでください』『影が入るので私から離れて』『集中したいので物音を立てないように』フリーザみたいな甲高い声して何を言いよんやら。唇も泡の影響かぬらぬら濡れている。そんでもって、饐えたような酸っぱい臭いオジン独特の臭いがする。あんな中高年になりたない見本中の見本やな『お取引後の残高91円』あまりのど貧民さに一人でウケた。どんだけ金ないねんやろオレ。ゴルフやってる場合違うやん。もうクラブセット売ってしまおかな?なんぼにもならん思うけんど。あー、誰か、残高91円増やす方法を教えてください………なんてな。はー、今日は帰ったら最寄りの駅で贅沢にたこ焼きでも買おうかな?いや、無理やな、手持ちが無さすぎて泣きそうや。嫁の千恵子に頼んで小遣い前借りしよ。そうしよ。結局仕事場に戻って、ジクソーパズルを完成させる前に帰る時間になった。窓際系のオレは毎日来てはジクソーパズルをして周りの皆から離れて行動する。もうこのルーティンでかれこれ3年目だ。そもそもメンタルがガチガチに強いので、仕事に、全く貢献していなくても何とも思わない。会社からしたら、毎日ジクソーパズルやらしてたらいずれ辞めよるやろ思うてたみたいやけど、中にはそんなことでは全然気にならない奴もいる。それがオレだ。明日は何のジクソーパズルにしようか?ONE PIECEの新作も捨てがたい。会社が勝手にジクソーパズルやらしてんやから、ジクソーパズル代金も負担せえよな。以前、オレがジクソーパズル代金の領収書を持って経理に行ったら、経理の女な子が、もう他人のゲロを見るかのような視線を浴びせてきた。なんなん?これも仕事やっちゅうねん。お前らがやらせとんねん。ええかげんにせえゆう話。『課長、中島さんのこれって、自腹じゃないんですか?』後ろを振り返る女の言葉にカチンときたが、オレは大人なので抑えてやる。結局、経費はおりなかった。節約の為とかわけわからんこと言われた。じゃー、オレはもうジクソーパズルせえへんぞ!と怒鳴って部屋を出た。はああ、最近は憂鬱しかないわ。帰ったら新作のゲームしよ。最寄りの駅の駐輪場をケチって、パチンコ屋に停めてある自転車を取りに行ったら、自転車のサドルが無かった………おまけにパンクさせられてた………オレの自転車だけ、こんなことってある?サドルどこいってん?なんでオレのだけやねん?後ろを振り返ると、パチンコ屋の店員の服装をした異常に肩幅の広い目を見張るほどの大男が立っていた。パチンコ屋の店員よりプロレスラーやったほうが絶対に向いているような奴だ。服の上からでも異常に筋肉が盛り上がっているのが分かる。その右腕の太さは、まるで丸太で、下手したらオレの脆弱なウエストよりも太そうな感じやった。『お客さん、ウチの店を利用せんと、自転車だけ停めに来てるやろ?そういった行為は止めたほうがええで、こんなことになるから』お前か、お前がやったのか?オレの愛くるしい自転車をここまで、オレは確信した。犯人はお前だ!真実はいつもひとつ、じっちゃんの名にかけて!とは本人を目の前にしてはとても言えなく、とりあえず平謝りで自転車を置かせてもらって、息子の犬太けんた明日取りに行かせることにした。犬太けんたは俗に言う自宅警備員のクソNEETだから、自転車を取りに行って修理くらいのミッションは出来るであろう。本来、オレが行きたいところだが、会社を休むわけに行かないので、不承不承ながら、自宅に帰って、クソNEETの部屋のドアをノックする。扉の向こう側から『何?』という声が聞こえた。あー殴りたい、今すぐにコイツを殴りたい。神様、コイツを殴る権利を私に与えてくださいと心の中で罵声を浴びせるが、抑えるオレは大人だO型牡羊座。『犬太けんたあんな、駅前のパチンコ屋の「ウエスト」に置いてあったオレの自転車、サドルパクられて、パンクさせられてん』瞬間意味わからん言われた。なんでやねん。猿でも分かるように説明してやってんのに、どこまでバカやねん。くー殴りたい殴りたい殴りたい殴る殴る殴る殴る殴る殴る、いや、抑える………抑えるんかーいと自分にツッコミを入れる。『ほれ、お釣り使ってもええから』と千恵子から前借りした小遣いのうちの三千円を渡す。これがオレの三千円の使い方や。バカの犬太けんたはとたんに機嫌を良くし、分かったと言っていたが、3秒前に意味わからん言うてたことすら忘れたに違いない。全くNeetって人種だけは………まあバカは放っておいて、ビールビールビールとりあえずビール!キッチンの冷蔵庫を開けて、瓶ビールを取り出して、栓を抜くとしゅぽんっといい音がした。くーこの音を聴くためにオレは生きている。手持ちのグラスにトクトクトクトクと手酌でなみなみと注ぐ。向かいに座る千恵子は下戸なのでお酌もしてくれない冷たい奴だ。ビールはキンキンに冷えていて、信じられないほどに美味かった。キンッキンに冷えてやがる。くーっ最高すぎるぜ!カイジの気持ちがよく分かるぜ。『ねえ、あなた』向かいで頬杖をつく千恵子が話しかけてきた。『何よ』犬太けんたのことなんだけど、と言われて猛烈に強烈に嫌な予感しかしない。瞬間美味かったはずのビールが味がしなくなる。『なんとか働いてほしいのよね』だったらムチでも何でも使って働かせろや働かざる者食うべからず言うやろ。オレにどないせい言うんや。オレはオレでジクソーパズルを解くために忙しいの!くー、なんでこんな至福の瞬間に犬太けんたの話が出てくるねん。眠いからもう寝る!オレはシャットアウトして寝室に逃げた。犬太けんたのニート歴はもう5年にもなる。もうここまでいくと、正直に言うと感情的になっても仕方ない。千恵子から犬太けんたが初めて就職した職場をわずか二日で研修地から逃亡したと聞かされたときの動揺、今になって実はあれさえも恥じている。猿に働けと言ったところで猿は働かない、するのは反省だけである。オレは犬太けんたに対して、もっとスマートな反応の仕方があるのではと考えるようになった。それは諦観だ。期待しない、つまり最悪のことを受け入れる準備をしておく。最悪の事態はまさに今だ。オレの金をあてに一切働かないのだから………だから待つ待つ待つ待ついつまでも待つ待つ待つ そこに犬太けんたがいる限り。これしかない!翌日に会社でジクソーパズルをしていると、突然携帯が鳴り出した。『もしもし?』『あの………』『ん?お前、犬太けんたか?どないしたんや』『お金、パチンコで使ってしまって………自転車の………修理代、無くなってしもうた………』はあ?はああああ?無くなってしもうた無くなってしもうた無くなってしもうた アホの呟きが脳内再生で延々とリピートされる。意味不明、なんでそないなんねん。オレは勢いで、千恵子に電話した。『もしもし、あんな、犬太けんたのアホな、息子をアホ呼ばわりすな?そんなんどうでもええわ、冬のせいにしとけ、とにかく、犬太けんたによお言うとけ!修理代金として渡されたお金を、まともに使用することが出来ずに。パチンコ屋で使ってしまう。さてはお主、クズだな!クズ中のクズだな!何?そもそも何で駐輪場に停めないでパチンコ屋に停めた?己がまともな小遣いもくれへんからやろ?てゆうか、何でオレが悪者扱いやねんな。犬太けんたを責めんかい、あのクソガキ、世が世なら打首獄門同好会、切腹もんやで、ホンマに腹の立つ。何?何で犬太けんたって名前をつけた?今言う?今更次郎やで!そのせいでイジメられた?知らんがな。健太とか賢太ならイジメにあわなんだ? お前も犬好きやから犬太けんたがええて言うとったやない。きーっニートをオレのせいにすな。何?何で職場でジクソーパズルをして、その仕事を家にも持ち込む?おま、お前は………己は、オレの神聖な仕事を馬鹿にしやがって、きーっくーっあーっイライライライライライライライライライライライライライラつっかみかーけたー、熱い腕をー、振りほどいてー君は出ていくーって谷村新司のチャンピオンやないかいイライライライライライライライライライライライライライライライライライライライララララライラララライイケイケゴーゴーって藤崎マーケットやないか。くーっあーっ腹立つー、もう決めた!あいつ殴る殴る殴る殴る 定年まで諦念しようと思うたけど容赦せえへん、あいつぜっっっっったいに殴る!タコ殴りにする。今日帰ったら覚えとけ!ガチャン!ガチャンて黒電話か!と自分にツッコミを入れる。あーっあーっあーっきーっくーっあーっあーっあーっプツン…………………

中島さん、中島さん、中島さーん 会社の誰かの声が脳内に響き渡り、オレは静かに目を閉じた。




目が覚めたら、真っ白い部屋にいた。至る所全てが真っ白だ。そして何もなく殺風景だ。一人の男が作業をしていた。ファイルを探しているようだ。役所にいるような堅苦しい格好をしてメガネをかけている。見た目40代前半くらいであろう。「あの………」はい?と男は返事した。「オレ、死んだ?」ああ、はいと男は生返事した。お名前は?と聞かれたので本名を名乗る。「中島慎吾さん、54年間どうもお疲れ様でございました」やっぱオレ死んだか、ま、どうでもいいけど、犬太けんたが少し心配なだけで、しかし短命だったな………「何をおっしゃいますやら、平安時代ならかなりの長寿ですよ。平安時代なら」こいつ人の心がけ読めるのかよ。「中島さまなら平安時代、かなりモテて仕方ないくらいのお顔立ちですよ。平安時代なら」やたら平安時代を連呼するやん。バカにしてんのかよ。この若造が。「どうでもいいけどさ、オレはこれからどうなんの?天国、地獄?」あ、少々お待ち下さいと、男はファイルを探す。「中島さまのお次の生まれ変わりは〜じゃじゃん!鳩でございます」は?は?は?鳩?ポッポーの鳩?うそやん。まあええわ。平和の象徴やし。ええんかい。わかりました鳩でよろしおま。もう人間は疲れた。人間なんてラララライラララライラララライ。ん、視界がおぼつかない、足元がふらつく、目眩がする。胃のあたりが、ごねごねと気色悪く動く感じがする。声を出すとポーと鳴る。ああオレはホンマに鳩になったんや!気楽や、人間時代に比べ、ホンマに気楽や。「うわっ鳩や、こいつら人が吐いたゲロを食べてる」声が聞こえた方を見ると、若者の集団がいて、その中に信じられないことに犬太けんたがいた。「生き物をバカにしちゃいけない。鳩だって、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって生きているんだ友達なんだ」何言ってんの?このバカ相変わらず頭のネジが飛んでるな。「流石ッス犬太けんたさん、感動しました」嘘やろ?どこに感動する要素あるねん。なんかの歌詞パクっただけやないか。あー、クソっコイツだけは許さん!オレは犬太けんたに突進して、クチバシで頭を叩いた。その刹那、身体が雷鳴に打たれたかのような衝撃が起こり、思わずオレは卒倒してしまった。「このクソ鳩、犬太けんたさんに何しやがる!」スキンヘッドの若者は、手にスタンガンを握りしめていた。「犬太けんたさん、コイツ、羽もいで食っちまいましょうよ」辛うじて意識を保っているオレを横目に犬太けんたは頷いて、アーミーナイフを取り出した。ちょ、お前は、3秒前に言ったことも忘れたのか、マジにリアルでバカなのか 痛い痛い痛い痛い痛いや、ヤメレ〜 何の因果で、実の息子に殺されなきゃいけない……… ああああああああああああ 悔しい悔しい死んでも死にきれない きーくーっ実の息子に殺されかけながらも、何故かオレの股間は勃起していた

 おわり

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