第7話 No.7★

 乾くひどにベタりつく液体。このまま講堂には迎えない。そこで体を洗うことにした。

 まずは手を洗うために水道へと向かった。その途中でアサヒとはぐれてしまった。彼が迷子になっているとは思えなかった。

 彼一人がいない。ただ、この雰囲気は変わらなかった。


 たどり着く水道。

 蛇口の栓を回す。冷たい水が勢いよく流れ出た。

「ねぇ、なんであそこだけ黒くなっているんだろう」

 水道に残る黒いインクのようなもの。軽く手で触ると少し粘り気がある。ネイルのようなものだとすぐに気づく。

「不思議だねー。何でだろう……」

 その理由は、どんなに捻り出そうとも出てこなかった。まるで謎の迷宮だ。

「わかんないね。……ん! これはもしかしてこの学園の七不思議の一つになるんじゃない」

 学園の七不思議──

「ところで今ある怪奇現象って幾つだっけ?」

「確か今は、死んだはずの女性の亡霊、命を吸い取られるという地下に咲く花畑、声を奪う妖怪、一度入ると抜け出せない地下迷宮、夜に現れる怪物、だけだから……六つ目だな」

「六つ目の怪現象は水道についた黒い液体に決まり!」

 いや、そんな簡単に決まっていいのか。なんて思いながら笑っていた。楽しいな。


 部屋に戻ってシャワー室へと入った。

 水の勢いが汚れを飛ばしていく。熱気で出てくる湯の煙が体を包み込む。心身が温まっていく。

 サッと吹いて新たな服へと着替えた。カジュアルなワンピースだ。提供された豪華なドレスに数段劣るが変な服より数段マシだ。さっと着替えて、ノナミとハルと待ち合わせる。

 三人で講堂へと向かった。

 ハルはしっかり者で、彼女に着いていくことで無事たどり着くことができた。

 講堂前の扉に背もかかっている一人の男。

「遅かったな」

 冷たい一言で言い放つ男。

 共にジュースの雨を受けていたはずなのに、姿はもう清潔だ。もしかしたら私達よりも先に体を洗ったのだろうか?

 そして、彼はずっと中に入らずに待っていたのだろうか。

 どこか冷たさの中にも優しさが見え隠れしているかのようだ。

「待ちくたびれた。さっさと入るぞ。もう式は始まっている」

 いいえ、優しさなんてものは気のせいだったみたいだ。それと一瞬、体が少し震えたかのように見えたが、それも気のせいだろう。


 私達は講堂の中へと入った。

 その中は輝かしい光のオーラで包まれていた。その輝かしさに目が眩みそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る