ゆきだるま

「猫」



 納得いかねぇ。


「おい兄ちゃん、聞いてんのか?」


 ホントに納得いかねぇ。


 チラリ、と視線を目の前の小汚いオッサンから逸らす。


「わー、可愛い、可愛いよ! カリカリしてるぅ」」


 視線の先にいるのは黄色い声をあげる、メチャメチャ可愛いJKの集団だ。


 胸に抱いた猫を超絶ハイテンションに可愛がっている。


「おいコラ! 無視してんじゃあねーよっ!」


 ……クソ。


 オッサンに服を掴まれ、無理矢理視線を合わさせられる。


 おっさんの顔を改めて観察する。日焼けした皺だらけの顔、そして前歯の2本しか残っていない口の中では唾液が元気よく糸を引いている。


 それはさながら『菌、栽培してます!』とでも訴えかけてきてるかのよう。


 見ていて楽しい部分なんて1ミリもない。


 間髪入れずにJKを見る。


 白く柔らかそうな肌、大きな目は無邪気に、そして柔らかに微笑んでいる。胸は大きく、シャツのボタンがまるで拷問を受けているかのよう。


 見ていて楽しい部分しかない。


 俺は道を歩いてオッサンと出会い、


 猫は道を歩いてJKと出会った。


 それは俺が人間の男で、奴が猫だからに他ならない。


 純度100%の神からのえこひいき。


 世の中とはなんと、不公平に溢れているのだろう。


 もう一度オッサンをじっくり見る。


 もしもこいつが道を歩いていると、どんな相手と出会うのだろうか?


 職質の警察官、タコ部屋要員を探す反社、喧嘩を売る相手を探すグレた中学生。


 浮かんでくるのはロクでもない相手ばかり。


 世界は、不公平だ。


 本当になんと、不公平なのだろうか。


「に、兄ちゃん⁉︎」


 気がつくと俺は、涙目になりながらオッサンを強く、強く抱きしめていた。


「わー、可愛い、可愛いよ! ネバネバしてるぅ」


「やめろー!」


 その日の夜、留置所に泊まった。

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ゆきだるま @yukidarumahaiboru

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