手に入れた過去

 私は、自覚なく自身の過去を改ざんしていた事実を目の当たりにした。

 そして同時に、この大学に来たのも決して偶然ではなく、自分に起こった謎の現象の原因を突き止めるため、長く続いた未来から今のこの機会タイミングまで遡り、一之瀬教授に出会ったのだと直感した。

 それからは日記もつけることもなくなり、不思議な非選択記憶も起こることはなくなっていった。超能力者にある、能力を自覚すると発動が抑えられるというやつだろう。

「教授は、なぜ平行世界観測者は世界が青く見える、と考えたんですか?」

「簡単だよ。光は電磁波だからだ」

 まるで聞かれることが分かっていたかのような速さで、教授は答える。

「証明したわけではないが、時間経過が発生しない世界での光の性質は、粒子でも電磁波でもない状態で静止する。これは私が『光の軌跡』と呼んでいる現象で、これによって、再び光がその軌跡にそって電磁波や粒子が飛び交うためのレールのようなもが時間の経過に関係なく発生し、その軌跡が網膜を刺激しているからだと考えている」

「いや、だって時間が止まっていたら光も運動しないし、何も見えなくなるんじゃないでしょうか?」

「光は、時間の状態によってもその性質を変化させている、と考えられないか?」

 多分、この教授の言っていることは間違っていないのだろう。

 先日の体験を話したところ、自分に助教授の椅子を用意するとまで言われた。長年研究をしているが、実際に実績を話したゼミ生は今までいなかったらしい。

「君にとってはどうだったかは分からないが、見えた過去を変えてまでこちら平行世界へ来たんだ。少なくとも君にとってはこちらの世界が住むべき世界だと思ったんじゃないかね」

「……あのままが嫌だっただけですよ」

 自分の直感が『過去を変えて世界を入れ替えるまで、この止まったままの世界に居続けることになるのではないか』と告げた。食事もトイレも行かなくていい世界よりも、友達や家族と一緒に過ごせる時間がある世界の方が、絶対いいに決まっている。

 そんな決断の始まりが「腐ったミカン」っていうのは癪なんだが、流石に自分が体験してしまうとこんなにも恐ろしい研究は他にない。

「ともかく、君の体験をすぐにレポートに起こしてくれ。これから少し、忙しくなるぞ」

 やれやれ、単位がもらえただけで済ませばよかったのに、院生からの就職先まで決まってしまうとなると、少し早まったのかもしれない。そう思った矢先。


「なにせ、二人目の観測者だからな」

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