ご挨拶(高野家編④)

「玲依、侑ちゃんってお酒強いの? お父さんと蓮のペースで飲んでるけど……」

「いつも私が先に潰れちゃうから、分からないんだよね……」

「今日1日ですっかり馴染んだわねぇ」


美優さんと慧さんは寝かしつけのために部屋に戻っていて、私の隣に千紗姉、その隣にお母さんが座り、正面にお父さんと蓮兄に挟まれた侑が座っている。


お母さんの言う通り、今日初めて会ったとは思えないくらい馴染んでいる。

家族と仲良くなってくれて嬉しいけど、隣に侑が居ないのはちょっと寂しいな……


視線に気づいたのか、侑と目が合って、ニコッと笑ってくれた。これだけで嬉しくなる私は単純なのかな……



「れーちゃんー、2人ともお酒強すぎ……」

「大丈夫? もう寝る?」

「へーき。れーちゃんの隣にいる」


かなり飲んだのか、隣に避難してきた侑は若干呂律が怪しい……


「侑、あの2人はザルだから付き合わない方がいいよ」

「次からそうする……うぅ、きもちわるい……」

「寄りかかっていいよ」

「ん、ありがと……」

「かわい……」


げっそりする侑は可哀想だけど、甘えてくれるのは可愛い。


「あっま……」

「ふふ、仲が良くていいわね。ねぇ、崇さん?」

「そうだね。僕達も負けてないと思うけどね?」

「ふふ」

「こっちも相変わらずあっま……」


お父さんの言葉にげんなりする千紗姉。相変わらず仲がいいわ……


「それにしても、玲依がこうして恋人を連れてくる日が来るなんて、大人になったんだね……」


お父さん、私の事いくつだと思ってる?


「私もう29なんだけど……」

「お父さんにとってはいつになっても子供だよ。もちろん、千紗も蓮もね」

「そう……」

「酔ってんのかよ」

「いい家族関係ですね」


千紗姉も蓮兄も照れくさそうにしていて、それを見る侑も笑っている。なんかいいなぁ。


「侑ちゃんだってもう娘みたいなものだから、本当の父親だと思ってくれたら嬉しい」

「……っ、ありがとう、ございます……」


お父さんが侑を見る表情は優しくて、侑は泣きそうになっていて。ちゃんと紹介出来て良かったな、って改めて感じた。


「お義父さん、って呼んでみて?」

「え……」

「侑ちゃんが嫌じゃなければ、呼んであげて? 私のことはお義母さん……いや、美代ちゃん、でもいいわね」

「2人だけずるい! 私は可愛く、おねえちゃん、で! 千紗姉でもいいわよ」

「……義兄さん、か蓮兄でいい」


わくわくした表情を隠さないお父さんと、便乗するお母さん、千紗姉、蓮兄。そして戸惑う侑。


「玲依ちゃん……」

「うちの家族、気が早くてごめんね? でも、私は侑以外考えられないし、侑が認めてもらえて嬉しい。呼び方は侑の好きにしてくれたらいいから」


助けを求めるように見てくるから気持ちを伝えれば、泣きそうな顔で頷いてくれた。


「お義父さん……」

「うん」

「お義母さん……?」

「うん、いいわね」

「おねえちゃん……?」

「きゃー、かわいいっ!!」

「義兄さん」

「おう」

「ありがとうございます……」


耐えきれずに流れた涙は綺麗で、親指で拭えば恥ずかしそうに笑った。



「玲依ちゃん、ありがとう」

「ん?」

「玲依ちゃんと出会ってから、ずっと幸せ。こんなに幸せでいいのかな……」


部屋に戻って、寝ようとベッドに入ればぎゅっと抱きしめられた。


「私も侑と出会えて幸せ」

「玲依ちゃん、好き。大好き。好きすぎて苦しい。あー、早くお家に帰りたい……」

「ふふ、かわい」

「今日は反対向いて寝ます!」

「え、やだ」

「駄目です! はい、おやすみなさい」


背中向けるのはや……せめてキスくらいしてくれればいいのに。


「侑、必死……」

「そりゃね、玲依ちゃんに誘われたら無理なの分かってるから」

「ねぇ、キスは?」

「したいけど、凄くしたいけど、だめ」

「えー」

「そういう可愛い声出すのもやめてください!」

「ゆーちゃん、ぎゅーしてくれないと寝れない」

「……私も寝れないけど、頑張るの」


後ろから抱きついたら怒るかな……こんなに近くにいるのに、背中を向けられるのはやっぱり寂しい。


「ゆー、寂しいよ……」

「……っ、はぁぁ……可愛い、辛い……」


振り向いて、ぎゅっと抱きついて胸に顔を埋めてくる侑の方が可愛いと思う。


「可愛いね」

「もういい、このまま寝る。あ、玲依ちゃんから触るのは禁止でお願いします」

「ふふ、分かった」

「おやすみ」

「うん。おやすみ」


なんだかんだ疲れてたのか、すぐに寝息が聞こえてきて、私も目を閉じた。


*****


絶対眠れない、と思っていたのに、ご挨拶で思った以上に神経を使っていたのか玲依ちゃんの胸を枕にぐっすり眠っていたみたい。


顔をあげれば、可愛すぎる寝顔があって、吸い寄せられるように口付けた。


「っ!? んぅ!?」


離れようとすれば首に手を回されて深い口付けになる。


「んっ、ごちそーさま」


ペロッと唇を舐める玲依ちゃん、朝から刺激的……!!


「……起きてたの?」

「うん。可愛い侑ちゃんを眺めてた」

「起こしてよー」

「ふふ、まだ早いし、よく寝てたから」

「それはこの素晴らしい枕のおかげです」

「相変わらず好きだね?」

「うん! 大好き」


服を着ているのは残念だけど。裸だともっと……って想像したらやばい。


「起きる?」

「んー、起きたくない、けど起きる……」

「そんなに名残惜しそうにしなくても」


笑われたけど、許されるならずっとこうしてたいもん。



「2人ともおはよう。よく眠れた?」

「おはよー」

「おはようございます。はい。眠れました。何か出来る事ありますか?」


お義母さんが朝ご飯の支度を始めていて、最近は料理をするようになったし、少しはお役に立てるはず。


「座ってて大丈夫よ」

「でも、人数多いですし……」

「そうね。じゃあ、お願いしようかな」

「はい!」


お義母さんと玲依ちゃんとキッチンに立つってだけで楽しいな。



夜ご飯の時も思ったけれど、大家族ってすごい。これが毎日ってことだもんね? おかずなんて取り合いだし、静かになる時なんてないし、とにかく賑やか。

私は1人が多かったし、圧倒される。


「侑、食べてる?」

「あ、うん。食べてる」

「朝から騒がしいでしょ」

「賑やかでいいですね」


連休は毎回こうだから覚悟しておいてね、ってお義母さんが言ってくれて、次の連休も当たり前のように自分が入っていることが嬉しい。



「えー、ゆーちゃん帰んのかよー」

「次はこのゲームやろうって言ってたじゃんー」

「あしたくる?」

「ごめんね。ゲームはまた今度ね。明日は、来ないかなぁ」


3人からのブーイングを受けながら、随分懐いてくれたな、と頬が緩む。可愛いなぁ。


「ふふ、侑、モテモテね?」

「え、ちょっと怒ってる?」

「さぁ?」

「え、どっち!?」


ずっと快くん、柊くん、春樹くんと外遊びをしたりゲームをしたりで玲依ちゃんと居なかったからな……

でも玲依ちゃんは由奈ちゃんと唯ちゃんと居たし……って心の中で言い訳をしてみる。


「ゆーちゃん、うわきはだめよ?」

「えぇ、由奈ちゃん、難しい言葉を知ってるね」

「ママがね、パパに言ってるの」

「由奈、それじゃあパパが浮気したみたいじゃないか……」


千紗さんは爆笑してるし、慧さんは冤罪だよ、ってちょっと情けない顔をしている。女の子ってすごいなぁ。



「玲依ちゃん、楽しかったね。帰り、眠かったら寝てていいからね」

「寝ないもん」


玲依ちゃんの実家を出て、私の言葉にムスッとする玲依ちゃん。


「怒ってる?」

「怒ってない」

「じゃあ、拗ねてる?」

「拗ねてない」


チラ、と横を見ればバッチリ目が合った。拗ねてない、って言いながらも明らかに不満そう。


「全然一緒に居られなくてごめんね?」

「仲良くなってくれたのは嬉しいけど、侑は私のなのに」

「うん」


私の歳上彼女、可愛すぎない?


「大人気なくてごめん」

「ううん、そんな玲依ちゃんも好き」

「私も好き」


嬉しそうに笑う玲依ちゃんが可愛くて、どこかに1泊、なんて考えちゃったけど、家に帰った方がのんびり出来るし、我慢。


「玲依ちゃん、お家に帰ったら、いっぱいしようね」

「え」

「昨日だって我慢したし、ご褒美は?」

「お手柔らかにお願いします……」

「んー、玲依ちゃん次第、かな」


まだ連休は終わらないし、覚悟してね、玲依ちゃん?

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