ご挨拶(高野家編②)

「侑ちゃん、いらっしゃい! 相変わらず綺麗ねー! 元気だった? また会えて嬉しいわ!」


 玲依ちゃんに続いてリビングに入れば、キッチンから玲依ちゃんのお母さんが出てきてテンション高く話しかけられた。


「お邪魔します。元気です。これ、宜しければ皆さんで……」

「気を使わなくていいのに! ありがとう。ずっと侑ちゃんが運転してくれたの? 玲依は? 運転できるの?」

「でき……るのかな」

「途中で代われるように練習したら? 侑ちゃん大変でしょう?」

「あ、いえ、全然。私運転好きなので……」

「でも疲れたでしょう? 渋滞も凄いし」

「美代ちゃん、座って話さないかい? 僕にも挨拶させて欲しいな」

「あら、ごめんなさい」


 声のするほうを見れば、リビングには玲依ちゃんのお父さんと初めて見る女性が小さな女の子を抱っこして座っていた。

 お兄さんと、春樹くん? は居ないみたい。自分の部屋にいるのかな?


「侑さん、いらっしゃい。玲依の父です」

「初めまして。山崎侑と申します。同性ですが……玲依さんとお付き合いさせていただいています」

「うん、妻から聞いているよ。玲依からも、反対されたとしても侑さんしかいない、って念押しの連絡も来ているし、反対するつもりは無いよ」


 え、玲依ちゃん、そんな事言ってくれてたんだ……

 隣を見れば、優しく微笑んでくれて心があったかくなった。


「ありがとうございます……」

「こちらこそ、玲依を大切にしてくれてありがとう」


 穏やかに微笑む姿は玲依ちゃんとよく似ていて、なんだか安心する。


「ね、大丈夫だったでしょ?」

「うん」

「美優さん、この間はありがとうございました。恋人の侑です」

「いいえ。お役に立てるか分からないけれど……」


 この間?? 前にお兄さん対策を3人で話してたことかな?


「初めまして、侑です」

「初めまして。美優です。お義母さんから聞いてたけど、本当に綺麗な子」

「いや、そんな、全然です……」

「それで、蓮兄は?」

「それがねぇ……玲依ちゃんの恋人になんて会わない、って春樹を連れて公園に行っちゃって」

「蓮兄……」


 あ、玲依ちゃんのお兄さん、居ないのか……


「玲依が来るのを楽しみにしてたのに、侑ちゃんも来る、って言ったら急に出かける、って」

「全く、仕方のない奴だ……」


 苦笑する3人をみて、玲依ちゃんも困ったような表情をしている。分かっていたけど、難航しそうだな……

 まずは会ってもらえないと……



「ただいま」

「ただいまー!!」


 少し経つと、千紗さんの声と、元気な女の子の声が聞こえてきた。


「おかえり。慧くんと快と柊は?」

「途中の公園で蓮と春樹を見つけて、遊ぶ、って言うから置いてきた。何、会わないって逃げたの?」

「そうなんです……」

「全く……」


 慧くん、は確か旦那さんだよね。後の2人が息子さんか。千紗さんの後ろから、じーっと見られてるけど、警戒されてるのかな……由奈ちゃん、だったかな。前に玲依ちゃんが言ってた気がする。


「こんにちは」

「こんにちは……」

「お名前教えてくれる?」

「ゆな」

「由奈ちゃん。侑です。よろしくね」

「うん!」


 初めは誰? っ感じだったけど、元々人見知りをしないのか、すぐに笑顔を見せてくれた。可愛い。



「由奈、いつの間にそこに……? 侑ちゃん、ごめんね?」

「いえ、可愛いですね……あの……?」


 ちょこん、と膝の上に座ってくれた由奈ちゃんの頭を撫でていたら、4人の視線が集中した。


「由奈にでれでれな侑、かわいい……」

「玲依ちゃん、顔ゆるっゆるよ? まぁ、可愛いのは確かに」

「侑ちゃん、子供好きなの?」

「あ、はい。でも周りにいなかったので遊んだことはなくて」

「その割には物凄く懐いてるわね……」


 玲依ちゃんのお父さんは女子に囲まれて居心地が悪かったのか庭の手入れに行ってしまったから、正直由奈ちゃんが居てくれて助かる。


 美優さんは分からないけど、玲依ちゃんのお母さんも、千紗さんも勢いが、ね……



「あのね、このまえね、れーちゃんにおくすりぬってあげたの!」

「そうなんだね」


 一生懸命に話してくれるのが可愛い。


「もしゆーちゃんがさされちゃったら、ゆながおくすりぬってあげるね!」

「あ、うん。ありがとう?」


 刺される……? キスマークかな……千紗さんにも弄られたし、玲依ちゃんからは禁止令が出されたから今日は大丈夫。

 なんか静かなんだけど……


 ハッとして顔をあげれば、玲依ちゃんのお母さんと千紗さんがニヤニヤしながら私と玲依ちゃんを交互に見ていた。


「由奈、よく覚えてたね……」


 美優さんはそんな2人を不思議そうに見ていて、玲依ちゃんは覚えていると思っていなかったのか、苦笑している。


「ゆなね、ちゃんとおぼえてるよ! れーちゃん、きょうはだいじょうぶ?」

「うん、今日は大丈夫」

「へぇー?」

「千紗姉、ニヤニヤするのやめて」


 玲依ちゃん、ごめんなさい……



「侑ちゃん、そのまま動かないで」

「あ、はい……」

「侑、こっち向いて?」

「うん」


 沢山話してくれた由奈ちゃんは電池が切れたように眠ってしまって、玲依ちゃんと千紗さんが写真を撮り終えるのを大人しく待つ。


「侑ちゃん、ありがとう。布団で寝かせるね」

「いえ、可愛かったです」


 千紗さんが由奈ちゃんをゆっくり抱き上げて、リビングを出ていった。

 少し前に美優さんも唯ちゃんを昼寝させる、と2階に行っていて、玲依ちゃんのお母さんもお父さんの様子を見てくる、と庭に行ってしまったから2人きり。


「侑、大丈夫? 疲れてない?」

「大丈夫。受け入れてもらえて嬉しい。ありがとう」

「私こそ、ありがとう」


 私の知らないところで根回しをしてくれて、スムーズに受け入れてもらえて有難い。玲依ちゃんが家族と疎遠になる、なんて事がなくて本当に良かった。


「玲依ちゃんのお兄さん、会ってくれるかな……」

「居ないって言うのは予想外だった……美優さんの話だと、話を出すと聞きたくない、って言って侑が女の子、って事を伝えるまでに至らなかったみたい」

「そっか……玲依ちゃんが大切なんだね」

「呆れるくらいシスコンなんだよね」


 玲依ちゃんみたいな美人で可愛い妹だったらシスコンにもなるよ。もし私が妹だったら心配で仕方ないし、恋人、なんて紹介された日には落ち込むと思うし……


「侑? 悲しそうな顔してどうしたの?」

「あ、ううん、もし私が玲依ちゃんの妹で、恋人を紹介されたら、って考えたら……」

「侑が妹……禁断の恋ね」

「うわ、エロ……」

「ちょっと、何を想像してるの?」


 だって、禁断の恋とか言うから……思春期にひとつ屋根の下、とか、ねえ?

 そういえば、今日泊めてもらうことになってるけど、きっと同じ部屋だよね? ドキドキして眠れなさそう。


 玲依ちゃんに誘われたら断れる気がしないんだけど、さすがに実家では大丈夫だよ、ね……?

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