勇者が村長になりました ～リヨンの辺境開拓記～

魔剣を探せ

第13話 ダークエルフが襲ってきた

　秋の末期、セレナとリヨンは久しぶりにダークエルフの集落に向かっていました。

　この前、来たときよりも平屋の家が増えています。一軒しかなかった平屋が今は五軒まで。

「久しぶりですね。アーテル族長代理」

「リヨン殿こそ、お元気でしたか」

　二人は握手をかわし合いました。実に四日ぶりの再会です。アーテルとリヨンは互いの近況を語り合おうと家の中に入ります。

「アーテル、しっかり食べてるか？ 」

「鹿や猪を狩って食べてますよ。肉ばっかりだかな」

「今日はスープを作りに来た。肉ばかりだと偏るからな。何事もバランスは大事だよ」

　リヨンはダークエルフに剣を六本渡しました。

　村の武力を高めるためには武器は必要不可欠です。ローランド辺境伯はその事を一番わかっていました。わかっているから武器を提供したのです。

「村の防衛を考えると、部下に渡す武器が足りません」

「食事をしながら対策を練ろう。アーテル殿」

　リヨンは土で作られたかまどに大鍋を載せました。森から集めてきた薪で火を起こします。大鍋に二袋の大麦と乾燥豆を入れ、大量の水で煮る。最後に少量のニンニクと塩を加えて加熱すれば完成です。

　アーテルはリヨンに肉を勧めながら、食卓につきました。

「アーテル、村はローランド辺境伯の庇護を受けれそうだ」

「ローランド辺境伯ですが。あいにく、私どもは人間の貴族には詳しくないもので」

「すまなかった。つまり、強い味方が出来たんだ」

　リヨンは新しい報告があるとアーテルに切り出しました。

「新しい住民も1週間以内には来る。大急ぎで家を作らないといけないんだ」

「では村に大工を差し向けましょう」

「申し出に感謝します。アーテル殿」

　アーテルは食卓にのった鹿肉をナイフで切り分けます。リヨンは手づかみで肉を口に入れました。

「肉はうまい。体に力がみなぎるようだ」

「昨日捕らえた鹿です。味は保証しますよ」

　セレナの尖った耳がピクピクと動きます。今日は杖を家に置いてきました。二人が気づいた時にはもう遅かった。

　家に銀髪のダークエルフがなだれ込んできました。

　体から血と汗の臭いがします。ミスリルの鎧にも返り血が付着していました。

　女のダークエルフが剣先をリヨンに向けました。

　見知らぬ顔のダークエルフは皆殺気だっていました。十名全員が口々に喚（わめ）きながら剣を抜いています。

「こいつらが村から仲間を連れ去り、虐殺したのか」

「侵略者め！ エルフを解放しろ」

「どこに女を売り飛ばすつもりだ。さっさと吐けよ！ 」

「待ってくれ！ 話せばわかる」とリヨンが叫びます。

　アーテルがイスから立ち上がりました。クルーデリスは床に長剣を落とします。

「クルーデリスじゃないか。仲間はオルラン公に連れていかれた」

「アーテルさま…… クルーデリスは死んだと思っておりました」

「族長に代わって命じる。剣を納めて話し合いをしよう」

「剣を納めよ！アーテルさまの命令ぞ」とクルーデリスが叫ぶ。

　ダークエルフは一斉に鞘に剣を納めました。

　双剣使いのウィレムがクルーデリスに詰め寄っています。

「連れ去られた仲間はどこに行ったのかと聞いている！？ 」

「オルラン公が連れていったそうだ。今ごろはシャルル王国の領地だろう」

「許せない。オルラン公を探して首をはねなければ」

「待て！ 先にアーテルさまの話を聞いてからだ」

　クルーデリスから話を聞けば、オルラン公配下の騎士とやりあったそうで。三十人いたダークエルフは二十人まで減小。それほどにオルラン公の騎士は強いのかとリヨンは驚嘆しました。

　ダークエルフのクルーデリスが重い口を開きます。

「魔王軍が瓦解してから逃避行の連続だった。ようやく帰ってこれば村が焼け落ちていた。これをどう思う？ 」

「悲惨だと思うな。俺から質問していいかな？ 」

「いいだろう」

「この村を知った経緯を知りたい？ 」

「仲間に感知が得意なヤツかいてな。家にダークエルフの反応があったから。仲間が捕まっているかと思った」

　クルーデリスはアーテルの肩を叩きます。

「アーテル。族長は最後まで立派に戦って死んだ」

「そうか。親父は立派だったな…… 」

「フルゴル…… フルゴルの剣があればアーテルは正式に族長になれる」

「"フルゴルの剣"はどこにある？ クルーデリス」

「生前に族長から聞いた話だが。地下の武器庫に隠してあるそうだ。この私だけが鍵を開けられる」

「案内してくれるか。クルーデリス」

　明日には出発と決まれば話は早い。

さっそく、セレナは自宅で黒パンを焼く準備を始めました。ダークエルフのストラーダも手伝います。薪を暖炉に入れて暖め、パンを焼く準備を。

「手伝わせてごめんなさい」

「いえいえ。アーテルのわがままに付き合わせちゃって」

「ストラーダも私も楽しいから」

　小さな桶にへばりついたパン種に水を入れて伸ばし、ライ麦粉を少しずつ混ぜて行きます。セレナは生地を薄く伸ばし、繰り返しこね上げて生地を作りました。

　ストラーダは、出来上がった生地を一つずつ手で丸めます。丸めた生地を作業台の上に置くと。

　石造りの暖炉にパン生地を入れます。十五個のパンを入れて蓋を閉じ、時間をあけてから開けると黒パンが出来ていました。

「完成した。1週間は持ちそう」

「良かった。良かったー」

(14話に続く)

　○村人

　セレナとリヨン

　ダークエルフが三十人

　アウィスが一頭

　ヤギが三頭