粘液に濡れる、摩訶不思議

 恐怖とはまた異なった妖しさをはなつ、妖艶にてかる蛞蝓たち。
 最後に曲亭馬琴の引用がありましたが、まさに彼らが収集した奇談の一編であるかのようでした。兎園小説のひと繰りに記されていてもおかしくありません。
 時代小説を書きなれていらっしゃるようで、小道具や描写も違和感なく小説の中にはまり込んでいました。蛞蝓の描写にしても、気味が悪いだけではなく、ぬらぬらとした粘液の光に、奇妙な魅力を感じました。
 またことの顛末についても、判然としない怪談そのもの、という感じで、ホラーとは異なる余韻を強く残すものでした。
 時代物というジャンルで食わず嫌いをされている方にも、ぜひ読んでほしい作品です。
 なめくじも、案外おいしいかもしれませんよ?

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