ジャム・バトル

白里りこ

ジャム・バトル

 始まりました! ブルーベリージャム対マーマレード!

 天下にその名を轟かせるイチゴジャム氏、彼に次いで人気ランキング第二位の座を獲得するのは果たしてどちらか! 現在二位の座を死守しているブルーベリージャム氏か、それとも下克上を申し込んだ三位のマーマレード氏か。今、仁義なき戦いの火蓋が切られました!


 おーっと先攻はマーマレード氏! ブルーベリージャム氏の目に向かってオレンジエキスを水鉄砲のように吹き出した!!

 しかしここで早くもブルーベリー氏が能力を発動! 「目が良くなるブルーベリー・エフェクト」と名付けられた氏の能力は、いかなる攻撃をも見切って避けることが可能という優れモノ! マーマレード氏の攻撃は難なく躱されました。しかしマーマレード氏、攻める攻める! ブルーベリー氏はひたすら躱す! 激しい攻防が続いております!

 え、彼らのどこに目があるのかって……ご覧の通りですが、何か問題が?


 えー、しばらく戦線は膠着状態のようですので、遅ればせながらご挨拶を申し上げます。こちらのバトル、実況はこの私。「イデア界の栄養補助食品区域」に居住しております、「プロテインの概念イデア」であります。イデア界ではまだまだ新参者の私ですが、どうぞお見知りおきを。

 実際の所、マーマレード氏と個人的に友誼を結んでしまっている私は、この「イデア界ジャム区域」における熾烈な争いの解説者としては相応しくないかもしれません。解説はやはり中立の立場から聞きたいところですよね。よって最初は本当はもっと別の、経口摂取しない目的で存在する概念を実況として選ぶようにと、私も申し上げたのですが、「食べ物区域のことは食べ物区域内で解決すべし」というイチゴジャム氏の強い御意志があり、折衷案として「食べ物ではないが経口摂取するもの」すなわち「ギリ食べ物」の代表格たるこの私が抜擢された次第であります。


 まだまだ皆さまに対して一方的なお喋りをお送りしたいところでしたが、ここでバトルに動きが。ブルーベリージャム氏、仕掛けました! あれは一体何でしょうか? 空中から突然、銃のようなものが!

 おそらくこれはブルーベリージャム氏の能力の一つ、「ブルーベリーは突然にアウト・オブ・ザ・ブルー」ですね。突然、関係のないものを召還するという、常識破りの大技! ブルーベリージャム氏、技を出し惜しみする様子が全く見受けられません!

 あーっとマーマレード氏撃たれた! 撃たれました! 透き通ったビンのボディに穴が……開いていない!! どういうことだ!? 銃に弾を込めるブルーベリージャム氏の手元をよく見ると……あッ、あれは、まごうことなきブルーベリー、本家本元のブルーベリーの、潰れた姿であります! ブルーベリージャム氏、銃を用意したはいいものの、銃弾までは召喚できなかった模様、本物のブルーベリーを銃弾の代わりにしてしまっています! これはしまった、ブルーベリー氏の計画の杜撰さが露呈してしまいました!!

 これにはマーマレード氏も腹を抱えて笑っています。が、しかしッ! 笑っている場合なのか!? マーマレード氏は何もしないのか!?


 ここでまたバトルは膠着状態……というか小康状態に。ブルーベリージャム氏は単発の銃に詰まった特大ブルーベリーと格闘中、一方のマーマレード氏は笑いで呼吸困難に。


 いやあ、それにしてもこのイデア界というのは近年恐ろしいほどの変革の波にさらされていますね。古代においてはあらゆる下界の概念の大元として、人々から崇拝の眼差しを受けたこともあったようです。ちなみにこの頃にはイチゴジャムやブルーベリージャムの概念はなかったのですが、マーマレードの元となる概念は存在していたようです。しかし今のマーマレード氏からはそのような威厳は感じられませんね……。ともかくイデア界はあらゆる概念が住まい、生まれ、消えてゆく世界だったというわけです。

 しかし近年になってこのイデア界が下界の人々の思想に現れなくなってきたころからは、様々な概念たちがより自立した存在となり、固有の能力まで覚えだしたのです。今となっては下界における人々の概念と、イデア界での概念たちの在り方には、大きな溝が生まれてしまっています。下界のブルーベリージャムは彼のような能力を使わないということです。意外ですね。


 さて、まだブルーベリージャム氏はイライラと己の召喚した銃に悪戦苦闘しており、マーマレード氏の笑いは収まらず……ん? これは、もしや……。いえ、間違いありません。マーマレード氏が能力を使っています。その名も「お前をイライラさせちゃうぞゲット・オン・ユア・クィンス」! 相手を無性にイライラさせてきやがるという、地味な嫌がらせです! ブルーベリージャム氏の能力に比べると見劣りする気もしますが、下手をすれば精神状態を掌握されてしまうという危険極まりない攻撃です!!

 ブルーベリージャム氏、あえなくイライラの餌食になっております。目の前に鎮座する、果汁の滴る単発銃から目を離せなくなっています。ああー、しまいにゃ投げ出した! ブルーベリージャム氏、「ブルーベリーは突然にアウト・オブ・ザ・ブルー」の甲斐なくまたしても手ぶらの丸腰になってしまいました。しかしここでマーマレード氏も疲れて能力を発動し続けることが難しくなった模様。二人とも、ふりだしの状態に戻りました。さて、これからどうする?


 先攻はまたしてもマーマレード氏! 懲りずにオレンジエキスを相手の目に飛ばそうとしてくる! ねちっこい奴め! これはまだ余力のあるブルーベリージャム氏が有利か。それともマーマレード氏はブルーベリージャム氏が力を使い果たして攻撃を避けきれなくなることを狙っているのか! 長期戦になってはブルーベリージャム氏の分が悪いですね。

 むむ? ここでブルーベリージャム氏が能力によって召喚したのは……クラリネットだああ! ということはもしや……キター! 「狂ったように踊れラプソディ・イン・ブルー」!! 音が流麗に駆け上がり、マーマレード氏は無理矢理ダンスを踊らされてしまっている……これでは攻撃どころではないぞ!

 しかしブルーベリージャム氏の能力の多彩さには驚かされますね。ジャム界では屈指の実力者である彼の能力は、絶対王者イチゴジャム氏にも通用するとかしないとか。しかしブルーベリージャム氏がイチゴジャム氏に挑んだという噂は聞いたことがありませんね。イチゴジャム氏の圧倒的なカリスマ性が窺えます。

 おや? ブルーベリージャム氏の演奏が乱れ始めましたね。しきりに息を吹き込んではピキャッと妙ちくりんな音を出し、首を傾げるブルーベリージャム氏。もしや、こわしちゃったのか。クラリネットをこわしちゃったのか!? ドジっ子ちゃんめ! これは痛恨のミス……いや! そうではない!!

 マーマレード氏が! マーマレード氏が踊りながらも、引っくり返って笑っている! 彼は今「お前をイライラさせちゃうぞゲット・オン・ユア・クィンス」を使っているようです! しかしどういうことだ? 彼は既に力を使い果たしたはず……さてはあの疲労困憊した姿は演技か!! 手数の面において劣勢に置かれたマーマレード氏が、渾身の演技によってブルーベリージャム氏を欺いた!

 能力バトルの醍醐味は、罠や計略や悪だくみにあるといっても過言ではありません。マーマレード氏はバトルという場の使い方を心得ているようです!

 そして「お前をイライラさせちゃうぞゲット・オン・ユア・クィンス」の弱点もまた明らかになりましたね。これを発動している間はマーマレード氏は笑い転げなければならない! これは私も知りませんでした。以前彼に「能力を見せてよ」とお願いしたところ、「ダチをイライラさせるわけにはいかないだろ?」とあしらわれてしまったのですが、まさかこんなことだったとは。


 ブルーベリージャム氏、依然としてイライラしています! これで何度目か、クラリネットを口にくわえてフーッとやる……やろうとしたところに、マーマレード氏の目潰しが炸裂したアア! オレンジエキスが今度こそブルーベリージャム氏の目に命中しました!! これは痛い、痛いぞ!! 思わず身もだえするブルーベリージャム氏!

 からの、マーマレード氏によるキック! ドゴーン!! ブルーベリージャム氏のガラスのボディに……ヒビが、入りました!! これにてゲームセット! 勝者、マーマレード氏です!!

 マーマレード氏、ガッツポーズ!! うおおお!! 姑息な手段しか使わなかったくせにやりおる!!


 これで人気ランキング第二位がマーマレード氏、第三位がブルーベリージャム氏ということに相成りました!! 何故人気ランキングなのにバトルで決めるのかといった今更な質問は一切受け付けておりません! 受け付けておりません!!


 観客席からイチゴジャム氏が降りてきました。勝者と敗者、双方と握手を交わしています。これが王者の慈悲、そして王者の余裕か! 両者とも感動のあまり咽び泣いています!!

 これは私がマーマレード氏との個人的なやりとりから得た情報ですが、彼は、いつもイチゴジャム氏のおそばに立てるブルーベリージャム氏に激しく嫉妬していたのだとか。自分もイチゴジャム氏の隣を歩きたい、そんな願望が彼をここまで突き動かした! いやあ、よかったですねえ、マーマレード氏! 下克上、達成です!


 では解説はそろそろお開きにしまして、参加ジャムたちのインタビューに移りましょう。それでは、みなさん、ごきげんよう。実況は私、栄養補助食品区域の新星、プロテインがお送りしました。さようなら!!

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