27話 雨


「「「「「……」」」」」


 あれから、俺たちはどれくらい森の中を歩き続けただろうか。


 永劫のように続く沈黙の中、それを冷やかすかのようにいつしか小粒の雨がポツポツと降り始めた。


 もうキャンプを始める時間帯はとっくに過ぎていて、夜更けへと迫っていることもあってか、足は悲鳴を上げ始めていた。


 それでも、俺が照明役をやりつつモンスターの発生を抑えているし、足が重い上に眠いもののスムーズに進んでいるのは確かだ。


 あと、犯人が方向を徐々にズラしてくる感覚もない。それに関しては前回のときに通用しなかったから、やっても無駄だと考えているのかもしれない。


 ただ、これからはもう帰還するだけだからといって、犯人が依頼の妨害を諦めるとは到底思えなかった。必ずどこかでなんらかの攻撃を仕掛けようと企んでいるはずだ……。


「――はっ……」


 それからしばらくして、先頭を歩いていたキールがふと立ち止まったかと思うと、我に返った様子で振り向いてきた。


「これほどまでにモンスターの気配がないのはおかしい……。もしかして、モンド……お前が何かやっているのか……?」


「あぁ、そうだが? 俺が魔法でモンスターの出現を抑制している」


 キールの質問に対し、俺は正直に返答するとともに、どうやって制御しているのかも丁寧に教えてやった。もう隠す必要もないしな。


「モ、モンド君、それは本当なのかい……? 次元が違いすぎるよ……」


「モンド、おめーは弱い方向でも強い方向でも極端すぎるんだよ。どんだけ化け物なんだよ……」


「モンドおにーちゃん、凄すぎ……」


 みんな俄かには信じられない様子で、中でもキールは飛び出さんばかりに目を見開いていた。


「そ、そんなバカな……。モンスターの出現場所を予測して、なおかつ光魔法で抑制するだと……? そんなことまで可能だっていうのか。モンド、お前は……お前は一体何者だというんだ……」


「……」


 正直、そんなに特別なことだとは思わないんだが……ん、キールが後ずさりをし始めた。


「ま、まさか……モンド、お前が呪いの正体じゃないだろうな……?」


「え……?」


 これは意外だった。俺が疑われるような展開になろうとは。


「いや、キール、待ってくれ。俺はあくまでも臨時メンバーで、お前たちのパーティーに参加するのはこれが初めてなんだが……?」


「……どうかな。なんせ、モンスターの出現を抑え込むほどの実力だ。モンド、お前の正体が人間ではないなら可能だろう!」


「……」


 どうやら俺の力が化け物に匹敵するくらいのものだと思い始めたらしい。なんとも大袈裟な男だな。こういう状況だから精神的に参っているのはわかるが……。


「キ、キール、いくらなんでもそれは考えすぎだよ。モンド君が犯人だっていうなら、どうしてわざわざカースフラワーを倒してくれたんだい……?」


「そうだよ、ラダンの言う通りだよ。本当に犯人なら、あのまま何もしてくれないと思う。むしろモンドおにーちゃんが呪いを解いてくれてるのに、酷い……」


「お、俺はキールの意見もわかるけどな! モンド、こいつは呪いの化身みたいなもんで、頼りになる仲間と見せかけて最後の最後に襲ってくるつもりかもしれねえ。気をつけろ!」


 バルダーがキールに同意したことで、その場の空気はますます淀んでいくように見えた。


「内部の仲間を疑うより、俺みたいな外部の人間を疑いたくなる気持ちはよくわかる。けど、それはただの現実逃避かもしれないし、妨害している真犯人の思うつぼかもしれないぞ?」


「「「「……」」」」


 俺の言葉に対し、みんな神妙そうな顔を見合わせていた。反論がないし、納得できる面もあったんだろう。それもそのはずだ。少し冷静になって考えてみればよくわかることだから。


 俺がパーティーに入る前から彼らは既に何者かに妨害されていたわけだし、何より俺には動機がないのだ。そんな人間を疑うような状況こそ、本当の犯人からしてみたら願ったり叶ったりなのである。


 まもなく雨音が激しくなってきて、誰かの呪文のように聞こえてきた。


『みんな、ごめん。僕はこの依頼を絶対に成功させるわけにはいかない……』


『俺が……俺がなんとしても食い止めてやるぜ。失敗させてやる……』


『私がみんなを邪魔してやるんだからぁ……』


『この俺がいる限り、このパーティーに未来はない……』


「……」


 ラダン、バルダー、メルル、キールの呪うような囁きが立て続けに聞こえてきたが、間違いなく幻聴だ。どうやら俺も疲れのあまりか、精神的に参りつつあるらしい。


 それでも、幻だとわかるんだからまだ大丈夫だ。精神が正常なうちに、必ずや呪いの正体を突き止めてみせる……。

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