26話 疑心暗鬼
「――と、こういうわけなんだ……」
「「「「なるほど……」」」」
俺はたった今、【時の回廊】パーティーの面々に向かって話を終えたところだった。
自分が今までどうして力を隠していたのかというと、それはパーティー内にいるであろう、依頼を妨害している犯人を油断させるためなんだと。
もちろんこの事実は、彼らの中にいるであろう犯人にも知られてしまうわけだが、ただの無能の振りをしていたと打ち明けた時点でその狙いはバレバレだから問題ない。
「よ、よく打ち明けてくれた、モンド君……。でも、どうしてこのタイミングで公表したんだい……?」
リーダーのラダンがなんとも複雑そうな顔で、声を絞り出すように言う。
「あぁ、カースフラワーは与し易い相手とはいえ、魔力の低い俺が力を隠して倒すのは大変だから、討伐したタイミングで打ち明けるのが最適だと感じたんだよ。それに、ここから犯人が本気を出したとしても、あとは帰るだけだし問題ないと思ったんだ」
「「「「……」」」」
俺の説明に対してみんな納得した様子ではあったが、表情はどこか冴えないものだった。
まあそれも当然だろう。自分が話したことは、信頼し合っているはずのパーティー内に依頼を妨害している犯人が紛れ込んでいる可能性が高いっていう内容だからな。
お互いを見る目がどことなく余所余所しくなっているのも見て取れるが、それだけ警戒し合うのは自己防衛のためにも悪くないんじゃないか。
「で、でもよ……本当にそんなふざけたやつが俺たちの中にいるっていうのか……? 俺はてっきり、大きな仕事になると決まって失敗しちまうのは焦りが焦りを生む負の連鎖みたいなもんで、それが呪いの正体だってずっと思ってたんだがよ……」
「バルダー、僕だってそうさ……。みんな、今までこのパーティーのために必死に頑張ってくれた大事な仲間たちなのに、その中に依頼を妨害するようなやつがいるなんて……そんな残酷なこと、簡単に信じられるわけがない……」
「わ、私だって……みんながどれだけ苦労してきたか知ってるし、疑えないよ……ぐすっ……」
「俺も疑いたくはないが……確かに可能性はある。もしかしたら味方の中に敵がいるんじゃないかって思うことも度々あったし……」
頭を抱えるバルダー、天を仰ぐラダン、涙目のメルル、まばたきせずに宙を睨むキール……。みんな揃って無念そうな顔だが、どれも演技の可能性があると思うとおそろしくなってくる。
それからしばらく経って、リーダーのラダンが何かを決意した様子になり、強い表情で前を見据えた。
「そ、そうだ、こうしよう! これからは犯人に依頼を妨害されてしまう危険性を考えて、キャンプを一度きりにするためにも、夜通し歩けばいいのでは!? それだけ妨害される可能性も減るはずだ……」
「お、おいおいラダン、いくらなんでも先を急ぎすぎじゃねえのか? それじゃ逆に俺たちが疲れたところを犯人に狙われる可能性もあるぞ」
「うん。疲れも溜まってるし、ゆっくり二日休んだとしても充分間に合うと思うけど……」
「俺はどっちでもいい。モンドの意見を優先したい」
「ちょっ……! キ、キール、何を言ってるんだい? リーダーはこの僕だよ……!?」
「……」
参ったな。キールが何を考えてるのかは知らないが、急に彼のほうから痛いほどの強烈な視線を感じるようになった。
なんか俺が決めなきゃいけないみたいな空気だな。どうしようか。
キャンプを一度だけにして夜通し歩くか、あるいは余裕を持って歩くために二度やるか……。それからしばらく思考したのち、俺は腹を決めた。
「そうだな……俺もラダンの意見に賛成するよ。夜通し歩くのはきついが、念のためにそうしたほうがいいんじゃないかな」
少々疲れは溜まるものの、俺は半分眠った状態で歩くことができるし、その状態で何かが起きても対応できる自信はあるのであまり問題はない。
「お、おおぉっ! モンド君が僕の意見に賛成してくれるなら心強いっ!」
「え……マ、マジで夜通し歩くのかよ。本当に大丈夫なんだろうな……?」
「うー……私、途中で寝ちゃうかも……」
「問題ない。なんせ、こっちにはB級モンスターを一人で討伐した凄腕の黒魔導士がいるんだからな……」
「……」
キールが俺のほうを見て、目は笑ってないが口元を綻ばせた。彼の場合、特に態度がそれまでとは全然違うので不気味だ。
単純に俺に興味を持ったのか、あるいは……いや、やめておこう。俺を除いて誰もが犯人である可能性があるわけで、仲間を疑い出したらきりがない。どうやら俺も疑心暗鬼に陥りかけているようだ。
とにかくこれで近いうちにはっきりするだろう。ラダン、バルダー、メルル、キール、このうちの誰がパーティーの依頼を妨害していたのか、何故そんなことをするのか、が……。
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