15話 落差


 冒険者ギルドにて、D級パーティー【時の回廊】が受けたB級の依頼は、きょとんとした顔の受付嬢から、それで本当によろしいんですかと二度確認されたのも納得できるほど難しいものだった。


 どんな依頼内容かっていうと、このベグリムの都からかなり離れた場所に、バラモ森林という色んな薬草を採取できる場所があって、その奥地にいる人食い植物カースフラワーを一週間以内に討伐してほしいというものだ。


 バラモ森林はとにかく広大なことで知られる一方、結界の森とも呼ばれ、人々の侵入を容易に寄せ付けないほど深い樹々に覆われているとか。


 聞いたことがあるだけで実際に行ったことはないが、やたらと道に迷いやすいだけでなく、出現するモンスターも手強いものばかりらしい。


 D級なのにこんな厳しい依頼を選んで大丈夫かとも思ったが、俺はあくまでも臨時メンバーってことで黙っていた。


 長旅になりそうだってことで、俺たちは色々と準備したのち、馬車で森の入り口まで向かうことに。


「――今度こそ……今度こそ、僕たち【時の回廊】パーティーは、この大きな仕事を成し遂げて昇格してみせる……!」


 目的地へ向かう馬車の中でとにかく鼻息が荒かったのはリーダーのラダンだ。それまでのおどおどした態度とは反して、吟遊詩人らしくよく通る声で歌うように喋り始めた。


「なんせ、モンド君という、G級パーティーをたった一人で救った方がやってきたのだから……!」


「ははっ……」


 いきなり多大なプレッシャーをかけてくるなあ……。


「ダメだよお、ラダン。そんなにプレッシャーかけちゃったら可哀想……」


 メルルっていう、俺の隣に座っている白魔導士がフォローしてくれるからありがたい。


「ね、モンドおにーちゃん?」


「え?」


 お、おにーちゃんだって? メルルがそう猫撫で声で言いつつ身を寄せてきて驚く。たかが臨時メンバーに対してこの言動、人懐っこいにもほどがあるだろ……。


「おうおう、随分と仲がよろしいじゃねえか、メルル、モンド。俺も混ぜてくれや」


 確かバルダーだったか、大柄な戦士の男がニヤニヤした顔で突っ込んできた。


「バルダーったら、妬いてるの? かわいー」


「バカかよ、メルル。てかお前さ、臨時メンバーがモンドみたいな年上の男だと態度が露骨に変わるよな。そういうやり方のほうが重圧を与えちまって失敗すんじゃねえのか?」


「そ、そんなことないよぉ! その言い方だと、まるで私が戦犯みたいじゃない。バルダーなんて大っ嫌い。このぉ!」


「い、いてっ! 杖で頭を叩くなよ!」


「髪の毛ないからいいもん!」


「そっ、そういう問題かよっ!」


「ま、まあまあ、二人とも、入ってきたばかりのモンド君の前で、みっともないからやめたまえ――いたたっ!?」


 止めようとしたリーダーのラダンが巻き添えを食らってしまった。


 そういえば、バルダーが気になることを言ってたな。臨時メンバーを入れるのは俺が初めてじゃなかったらしい。


 つまり、彼ら【時の回廊】パーティーは、依頼ランクが高い仕事になると臨時メンバーを雇い、そのたびに残念な結果になってるってことだ。


 ってことは、G級だけど強かった【深紅の絆】パーティーと違って、正規メンバーである彼らの力がいまいちとか? あるいは、雇ったやつが期待外れどころか、逆に足を引っ張っていた可能性もあるな……。


 今回はG級じゃなくD級パーティーってことで、腕試しをしてないからわからないが、着いてからモンスターとの戦闘で力量はわかるだろうし、依頼の達成が厳しそうなら助言してやればいい。


「……」


 それにしても、これだけ和気藹々としてるのに、一人だけ一切何も発言しない男がいて妙に気になった。シーフのキールとかいう男だ。


 腕組みをして、じっと前だけを睨むように見据えている……って、俺が見てるのがバレたのか一瞥してきたもんだから視線が合ってしまった。


「……ん、お前、俺に何か用か……?」


「あ、い、いや、なんでもないんだ。なんだか無口でクールな人だなあと……」


「……残念ながら、俺はお前にまったく興味がない」


「そ、そっか。そりゃ残念……」


 むすっとした顔で言い返されてしまった……って、これじゃまるで俺はこの男に片思いをしてるみたいじゃないか。断じてそんな趣味はないんだよなあ。


「キールに興味を持たれなくてよかったぁ。モンドおにーちゃんは私のものだもんっ」


「お、おいおい……」


 今度は白魔導士メルルに腕を組まれた上でこの台詞。この二人はいくらなんでも態度の落差が大きすぎる……。

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