14話 第一印象


 あれから俺は安ホテルで一泊したあと、朝っぱらから冒険者ギルドへと向かっていた。


 報酬を貰ったとはいえまだまだ貧乏人だし、悠長に構えている暇はまったくない。なんせ、たった一日で所持金が銀貨3枚から銀貨2枚と銅貨5枚になってしまった。宿代が銅貨3枚、食費が銅貨2枚だから結構かかるんだ。


 D級パーティーの【時の回廊】との待ち合わせは朝の六時ってことで、かなり早めに起きたもんだから眠くてしょうがなかったものの、絶対に遅刻したくないのもあってなんとか気合で起きることができた。


 G級パーティーの【深紅の絆】パーティーを成功に導いたとはいえ、俺の立場は売り出し中の身であることに変わりはないし、こういうところでも相手の心証をよくしておかないと……。


 そういうこともあって、ギルドへ到着した俺は休む暇もなく、早々にパーティー掲示板へと急ぐ。


 その途中で何度か強面の冒険者とぶつかりそうになったが、持ち前の戦闘勘を生かして回避した。


 確か、【時の回廊】パーティーの目印は時計のペンダントだったはず。懐に手を入れて懐中時計を確認すると、もうそろそろ約束の時間ということもあって、この中に待ち合わせの相手がいてもおかしくない。


「――あのぉー……」


「……」


「黒魔導士のモンドさん?」


「あ……」


 俺の名前を呼ぶ声がしたので振り返ると、そこには白いローブ姿の少女がいた。胸には時計のペンダントが吊り下げられてるし、【時の回廊】パーティーの一人でほぼ間違いない。


「あ、はい……俺がモンドっていうんだ。あんたは【時の回廊】の人かな?」


 一瞬敬語を使おうかどうか迷ったが、面倒臭い上に相手もフランクだったのでいつもの口調で話すことにする。


「うんっ、そーだよぉ! 今は私一人だけど、もうちょっとしたら、残りの三人も来ると思うの!」


「なるほど……」


 この人だけ先に来てたんだな。それにしても、見た目がとても若くて14歳くらいに見える。ただ、なんにせよ16歳以上じゃないとなんの職業にもなれない決まりなので、一応成人ではあるんだろう。


「うふふ、今のうちに自己紹介しておくね。私はメルルっていう名前でえ、【時の回廊】パーティーでは、白魔導士を担当してるんだよぉ」


「そ、そっか。俺はモンドっていって、さすらいの黒魔導士をやってる」


 調子に乗って自分にキャラ付けしてみたんだが、結構キザっぽくて後悔した。


「さすらいの黒魔導士さん!? なんだか格好いいー!」


「そ、そうかな、あはは――」


「――おうおう、てめえら、いちゃいちゃしてんじゃねえぞ、コラ……」


「「あっ……」」


 スキンヘッドの大男が話しかけてきたのでヤバいのに絡まれたのかと思ったら、よく見ると胸には時計のペンダントがあった。


「バルダー この人があのモンドさんだよ、挨拶して!」


「おおう、あんたが例のモンドってやつか。俺は【時の回廊】で戦士をやってるバルダーってもんだ。よろしくな!」


「ど、どうも……」


 バルダーと名乗った男が握手してきたわけだが、体格に加えて手も異様に大きいので威圧感が半端なかった。お互いに片手なのに、両手で握られてるような感覚なんだ。


「……待たせたな」


 次に現れたのは、レザージャケットに身を包んだ痩身の男だった。小さな銀時計が胸にぶら下がってるので【時の回廊】のメンバーだと思われる。


「あ、どうも。俺はモンド。よろしく」


「……」


 あれ、握手するかと思って先手を打ったんだが、普通にスルーされてしまった。愛想も全然ないどころか、やたらと目つきが鋭いので敵視されてるんじゃないかと思えるレベルだ。ん、メルルって子が耳打ちしてくる。


「気にしないでね、モンドさん。この人はキールっていう名前のシーフで、普段はあまり喋らない人なの……」


「な、なるほど……」


 まあ俺みたいに魔力の低い黒魔導士がいるくらいだし、こういうやつも普通にいるよな……。


「――はぁ、はぁ……」


 ん、誰か来たと思ったら、羽のついた緑色の帽子を被った青年で、背中に小型のハープを背負っていた。


 酷く疲れた様子で座り込んだので、時計のペンダントが床につきそうになっている。


「……み、みんな、ごめん。準備に手間取って、遅れちゃった……」


「もー、リーダーなのにおっそーい!」


「ったく、だらしねえリーダーだなあ」


「……遅いぞ……」


 なるほど、彼がリーダーなのか。多分みんな同じ宿にいたんだろうけど、彼だけ荷物が多くて遅れる格好になったんだろう。しばらく苦しそうに呼吸したあと、俺のほうを見てニコリと笑ってみせた。


「ふう……君が例のモンド君だね。僕は【時の回廊】のリーダーで、吟遊詩人のラダンっていうんだ。一人でG級パーティーを救ったっていう噂は聞いてるよ!」


「あぁ、俺一人の力じゃないけどね。よろしく、ラダン」


「こちらこそ、よろしく……!」


 俺はラダンと名乗った青年と握手を交わす。第一印象としては、リーダーにしては気弱そうでちと頼りない感じだが、人望はとてもありそうな人だと感じた。

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