第2話 光と闇

 時は夜、ホテルに入り7時。光は考えていた。なぜ路地裏にいるのか。アリスは前に言っていた。もう地獄の環境には戻りたくないと、家がないのだろうか。


「おい夢佳、何分か出かけてくる、なんか買ってきてほしいもんあるか?」


「うーん、じゃあ適当に飲み物買ってきてもらおうかなー?」


「へいへい、じゃあ行ってくるわ」


「行ってらっしゃーい」


 ベッドに包まる夢佳を置いて光の単独行動が始まる。



 路地裏、当てはまるのは路地裏生活。まさかとは思い、路地裏を探っていく。すると赤いフードを来た女性と遭遇する。恰好が似ているもののレストランで会った天理という人物に似ていなくもないが服装が違う。すると向こうから声がかかってきた。


「光さんでしたか…?」


「おう、お前もしかして天理か?服装が違うが赤いんだな」


「まぁ、一応…」


「未来とは会ってきたぜ、元気そうだったな。お前は何考えてるかわかんねぇな」


「特に…」


「そうか、夜道には気をつけろよ」


「そのためのこのフードなんで…」


 よくわからない天理と別れた。何をしていたのだろうか。それから少し歩くと恐ろしい光景が目に浮かぶ。

 それは光と同年代の人物だろうか、血まみれで5人ほど倒れている。こんなことができる人物は光の知る中で黒龍連しか思い浮かばない。


「やべぇな」


 それは光が身の危機を感じているからではない。黒龍連にあってわざわざ黒龍のいる地域まで来る光と馬鹿にされネタにされる可能性が出てきたからだ。仕方ないのでドリンクだけ買って戻ることを決意した。行った道を戻るとそこには光と同年代だろうか、またしても3人の男が倒れ伏している。今さっきやられたと言わんばかりの状況で。近くに黒龍がいる。それとも黒龍に匹敵する人物か?この騒動にアリスが巻き込まれているとしたら、一刻も早くアリスを見つけ出す必要がある。

 そんな時、電話がかかってきた。夢佳からだ。


『遅いねー、何かあったー?』


「いや、都会の夜の気分が気持ちよくてつい、な」


『なるほどねー、分かるかも、でも夜だし気を付けてねー』


「おう、もちろんだぜ」


 それだけ言うと電話を切った。まさに気を付けなければいけない状況。黒龍、もしくは黒龍に近い存在を避けつつアリスを見つけ出すのは厳しすぎる。それに近くにいる。


「とりあえずドリンク買っておかないとな」


 光は近くにあったコンビニを見つけた。すると路地裏から音が聞こえてきた。黒龍、または黒龍に近い人物だろう。どちらかが暴力を振るっている。ちらりと除く光。それは意外だった。二人組の女性。顔に面識はない。

 光は決して弱いわけではない、どちらかというと強いほうだ。ただし5人相手にあれだけのことをする張本人なら話は別だ。それよりも暴力を振るわれている人物、その人物の小柄さ、もしかしてと思ってしまう。光は声をかけてみる。


「おい、何やってる」


「誰あんた、やる気?」


 問答無用で光に抵抗してくる女子二人、しかし光のほうが普通に強く二人を返り討ちにした。二人の少女は退散する。もしこの二人が計8人の人物を叩きのめした人物なら矛盾が生じる。弱すぎる。逆にやられる側が弱かった可能性もあるが男子生徒だ。

 そして気になっていた暴力を振るわれていた黒いパーカーの少女に声をかけてみる。


「大丈夫か?」


「ぁ…えと…うっ…」


 この不思議な感覚、光は忘れていない。この声、弱り切っているが覚えている。


「アリスか、光だ」


「ひ、かり…光?」


 何かを思い出したかのように。


「光…かい…まさか君とも会ってしまうとはね…」


「地獄の環境…いじめだな?」


「ほんとに嫌なことにね…」


「いつもされてんのか?」


「ほぼ毎日かな…たまに逃れられるよ…」


「闇が深いな、お前まさか家がないんじゃないだろうな」


「家ならあるさ、これから帰るところだよ」


「それならいいんだけどな、多分明日にはあたしは帰る、そうだ、黒龍には言うなよ。面倒くせぇことになるからな」


「知り合いだったのかい、言わないさ、助けてもらったことだからね」


「一人で平気か?」


「大丈夫さ、僕のことは気にしなくてもいいさ」


「今日で最後の出会いになるのかもな、また出会えればいいんだけどな」


 それだけ言うと光はアリスの頭を撫でた。アリスはそれを受け入れる。


「気をつけろよ、お互いだけどな」


 それだけ言うと光は去った。光にもアリスにも寂しさの表情が生まれていることは互いに知ることはなく。


「アリスは見つかったし、明智に探さなくてもいいって連絡しとくか、アリスは頼んだぜ、ともな」


 そしてコンビニでドリンク類を買いホテルに戻るのであった。



 次の日、帰らなくてはならない光と夢佳。


「どうするー、もう少し堪能していくー?」


「昼は新幹線で飯食うか、駅弁ってやつか?それまでは満喫しようぜ」


 早めにホテルをチェックアウトして光たちは都会の気分を満喫する。

 楽しみすぎてしまい2時近くになってしまうがその便で光と夢佳は帰ることにする。


「今回は楽しめたぜ、いろんな意味でな」


「それならよかったよー」


 未来とアリスに会えた光。未来は変わらずだがアリスは不安だ。しかし未来をはじめ明智やさくら、天理といった存在がいるからこそ彼女たちに任せるほかない。

 しかし謎もできた、昨日の夜の出来事。黒龍だろうか?それとも二人組の女子生徒だろうか?それとも黒龍と同等の人物だろうか?何者かがあの街で無差別かはわからないが被害者を出している。


「もしかしたらまたここに来るかもしれねぇな」


 謎を突き止めるために。


「そんなに気に入ったのー?」


「思い出したくねぇくらいにはな」


「誘っておいてよかったよー」


 夢佳は満足しているようだ。二人は駅弁を食べながら窓を見つめまったりと帰るのであった。



 昨日、光がアリスと会っているころ。

 光の手によってアリスいじめを妨害された女性二人組、光から逃げ出すも逃げ出して先には狂気が待っていた。


「お前もか…」


 容赦ない鉄槌が彼女二人を襲う、逃げ出すことも動くこともできないほどにボロボロに、赤い液体さえ出しても躊躇なく、徹底的に血の海に染め上げる。


「これで10人か…」


 彼女の目的は何なのか。



 数分後、さくらは青い服を身にまとって帰宅しようとしていた。


「私は青を極めよっかなー、似合わないけどねー」


 そんな時、路地裏で見てはいけないものを見てしまった。血に染め上げられた少女二人、話しかけてみようとするとその奥にはさらに男性が三人倒れ伏している。

 これにはさくらも混乱する。しかし、彼女は明智の思考をも兼ね備えるためすぐに冷静に物事を整理する。


「もし私が???ならあり得るかもねー」


 この異常な光景を見てもさくらは冷静に物事を判断していた。ただし決して楽しんでいるわけではない。さくらはその光景に悲しい一面を見せながらもその何者かを必ず闇から救い出すと決意した。



 アリスは無事夕食を買うことに成功していた。


「まさか光とも会ってしまうとはね」


 アリスは自分の家の床で寝転がってその時を思い浮かべる。光に撫でられた時のぬくもりは今でも忘れられない。


「さて、それにしても僕が帰る途中に見たあの光景はいったい何なのかな、まるで僕と同じ目に遭わされているようなそんな光景をした人物が何人も、予想はつくけれど本気で潰すつもりだね。そんなことをしたら愚かな人間たちと同類になってしまうというのに、なんでそれに気づかないんだ」


 止めるという意味ではアリスとさくらは意見が合致している。ただし、二人同時にかかったところで勝ち目はないだろう。ただし、さくらの喧嘩をするところは一度も見た者はいない。


「これはもしかすると裏で動いているのは逆なのではないのかな?未来は消去法でまず暴力は振るわないだろう、明智、さくら、朱音、彼女たちはまだどれだけの強さか判明していない。天理。彼女を動かしている本当の人物は」


 黒龍という可能性も十分にある、ただし未来曰く無駄な暴力は振るわないと見極めたらしい。しかし、可能性はある。

 明智、天理と繋がっている。天理の20人グループに入っていてもおかしくないうえに天理より年上。天理のために動く可能性はある。

 さくら、天理と一番親しい存在だからこそ天理にとっては一番の駒。さらにさくらは天理と明智の思考を兼ね備えている言い方を変えれば多重人格者。天理に命令を下しているのはさくら、またはさくら自身が危害を加えている側の可能性が高い。

 朱音、グループに入っていることは確定で天理の目的までわかっている。だからこそ暴力を惜しまない。朱音は喧嘩が強くないらしいがそれは事実なのだろうか?一番の可能性は天理を裏で操っている可能性。朱音はアリスと天理を欲しがった。この二人に共通するものは障害、それを卑下するものを朱音は許さない。すべては天理とアリスを朱音のものにするために。だからこそ先輩である朱音は天理に裏でいじめっ子を徹底的に潰すように指示した線も十分にあり得る。

 もしこの過程が正しいとなると天理が、天理こそが駒。天理の感情がわからない。強いて言うなら虚無。


 天理という人物をもっと知るべきかもしれない。アリスはそう思った。今はやられる側から徐々にやる側という愚かな行為をしているのだから。


 アリスは天理を、または天理と他の共闘者を止められるのか?




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悟りゲーム 遭遇編(パート7.5) @sorano_alice

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