さきちゃん音楽隊

@momomomomo87

さきちゃん音楽隊

 ルンルン、ルルルン。今日は空がはれていて白い雲もあんまりない気持ちのいい日だな。さきちゃんは、スーッと息を吸い込みました。夏のいいにおいがします。さきちゃんはさらに気持ちが良くなりました。

 今日はおうちにおかあさんがいるのでそっと家を出てきました。おかあさんは仕事が忙しいので疲れているのです。お父さんはさきちゃんが小さいころから、たんしんふにんというお仕事にいっています。さきちゃんは春に小学校2年生になりました。

 学校のお昼の放送で流れたビリーブを歌いながら近くの公園にトコトコと歩いていくと、となりの家に住むお姉さんが前からやってくるのが見えました。お姉さんはさきちゃんを見つけると、いつもかけよってきてくれます。

「さきちゃん、こんにちは」

「こんにちは!」

 学校で元気なあいさつはすばらしいと習ったので精いっぱい元気にあいさつします。

「さきちゃん、これからどこにいくの?」

「公園にいくの!お家でお母さんねてるから」

「そっか。それじゃあこれあげるよ。公園で飲んでね。」

 そういうと手に持っていたバックからペットボトルを取り出してさきちゃんに渡しました。

「お姉さんありがとう!」

 お礼も元気にいうと、お姉さんに手をふって公園の方向に走りだしました。

 さきちゃんは外が好きです。いろいろな音が聞けるからです。車の音、鳥の声、人の声、ものがぶつかる音、いろいろたくさん聞こえてきます。さきちゃんはその音と一緒にいつも遊んでいます。今日は日曜日なので小さな公園には誰もいません。みんな大きな道路をわたったところにある大きな公園にいってしまうのです。それでも、さきちゃんは楽しいです。だって、さっきお姉さんにペットボトルをもらったから。これでいつもと違う音を出すことができます。うれしくて、さきちゃんはニパっと笑いました。公園に入る前に走ってきた方向をみるとお姉さんがまだ立っていました。もらったペットボトルを持った手で大きく手をふるとお姉さんは小さく手をふり返してくれました。

 公園についてすぐ、さきちゃんはブランコにのります。ブランコは前の冬にいった1週間のお泊り会をしたところにあって、とても面白い音がしたので好きになりました。ここのブランコはあそことは音が違うけど、大好きです。お家で夜に聞こえてくる音に似ているからです。

 さきちゃんはブランコを降りるとペットボトルで近くのものを叩いてみました。よく聞く音がしました。

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものです。気づけば夕方になっていました。夜につく公園の光がもうつきそうです。さきちゃんはあわてて公園を出ました。遊びすぎたのか、足がぷるぷるします。お姉さんからもらった楽器はしっかりと片手に持っていました。

 お家につくとさきちゃんはそっとドアを開けました。おかあさんをおこさないように、そっと。

「さき」

 おかあさんの声です。さきちゃんを呼んでいます。今日はおきていました。

「なあに、お母さん」

 さきちゃんはうれしくて声のした方にかけよりました。床にある、たくさんのいつもの楽器が音をたてます。

「チッ、うるさ」

「ごめんなさい」

 人を怒らせたらあやまる、これも習いました。

「あんた今までどこいたの?」

「そこの公園」

「あんたそれなに?」

「飲み物だよ。これは、おとなりのお姉さんにもらったの」

「あんたさあ、勝手に金抜いたでしょ?ふざけんじゃねぇぞ」

 おかあさんはさきちゃんの言葉を最後まで聞いてくれませんでした。公園で聞いた音が響きます。

 ・・・ゴロゴロ

 聞いたことのない音がしました。

「くそ野郎には罰を与えねえとなぁ」

 おかあさんが何やら言いました。


 遠くで初めての音が鳴っていました。

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