5.出した答え

私には、とげちゃんが本のページを捲る音が妙に響いているように感じられ、時間もゆっくり流れているように感じられた。とげちゃんをずっと見てはいけないと分かってはいるが、見守りながらソワソワしていた。その静閑とした休憩室からようやく解放される時が来た


「くすくす」


「な、なんで笑ってるの?」


「いや、何でもないの。あとは家でじっくり読むわ」


そう言うととげちゃんは、読んだ本を閉じた。


「もう大丈夫。参考になったわ。ありがとうね、珮夏」


「本当!?それはよかった」


「くすくす」


「だから何で笑うの?」


「だって・・・いえ、何でもないわ。そろそろご飯食べないと休憩時間なくなるよ」


時計を見ると、あれから三十分くらい経っていた。


「あっ、ほんとだ。はやく食べなきゃ」


また、笑っている理由をはぐらかされてしまった。


休憩も終わり、ツカサさんのいるカウンターへと向かう。


「戻りました」


「綺華さんもう大丈夫そうですね。何かあったんですか?」


私にとってはツカサさんの言葉が白々しく聞こえる。


「珮夏が本を紹介してくれて。おかげでスッキリしました」


「それは良かった」


ツカサさんのとげちゃんに満面の笑みを向けた。ツカサさんも気にしていたのだろう。改めてツカサさんはすごいと感心してしまう。


「あとお二人に任せても大丈夫ですね」


「「はい」」


「じゃあ、私も休憩もらいます」


そういうと、ツカサさんは休憩室へと向かっていった。





何日か経ったある日、館地さんがいらしたようでとげちゃんがツカサさんを呼びに行った。

「司吹さん、館地さんがいらしました」

「そうですか。わかりました」

そう言うと、とげちゃんと一緒に本棚の方に消えていった。気になる、非常に気になる。でも私は、他の利用者の対応をしており一緒に行くことは叶わなかった。気になるが仕事に集中せねば。


私が利用者の対応を終えた頃、二人も館地さんの対応を終えたようでカウンターに戻ってきた。笑顔で談笑しながら。ツカサさんの一言だけ聞き取れた。

“綺華さんにはそう感じられましたか”と。

何の話をしていたのか気になるが、聞いてもはぐらかされて終わりだろう。私の黒歴史を話されていないことを願うばかりだ。ツカサさんと目が合った


「やはり館地さんは本を探していたようです」


「あの館地さんは何の本を探してたんですか?」


「ああ、それはですね。”食事処カタギ”ですよ」


「えっ」


私の驚きを他所にツカサさんととげちゃんはカウンター席に座る。


「そういえば、珮夏の時はどうだったんですか?」


「そうですね。あの時はたしか・・・」


黒歴史がまだとげちゃんに話されていないことに安堵感と今この場をどう切り抜けるかで頭がいっぱいになる。最初対応した時館地さんが帰られた後、悔しくて泣いてしまったことを話されたくはない。まあ、ツカサさんのことだからぼかして説明してくれるだろうけど、それでもなんとなく嫌だった。


「あー。とげちゃん仕事、仕事。利用者もいないし今の内に開架の整理しなくちゃ、ね」


「あ、ちょっと。珮夏、話してる途中なのに」


「ダメダメ。仕事、仕事」


私は仕事を理由に無理矢理とげちゃんとツカサさんを遠ざけた。



「ははは。仕事熱心でいいことです。開架の整理お願いしますね、二人とも」


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