2. ラクシオン

ラクシオンは私行きつけのカフェだ。大学一年生の頃から通っている。というか時間がある時はここに入り浸っていた。言ってしまえば、客足はそれほどでもなかった。それでも、コーヒーや軽食の味は今まで行ったお店のなかで一番だと断言できる。


それで何で人気がないかって?それはたぶんマスターだろう。強面であるため、入った瞬間逃げる客が後を絶たないのだ。かくいう私も最初はビビった。そして動けなくなり、捕まったのだ。これだと語弊があるかもしれないが、当初はそう思ってしまった。今思えばマスターは心配してくれて落ち着かせるために席に連れて行ってくれたのだと思うことができるけど。


そして、私はマスターの優しさと料理の美味しさに心と胃袋を鷲掴みにされたのだ。まあ、仲良くなったのはもうちょっとあとなんだけど。






じわじわと汗が噴き出すなかやっとの思いでクラシオンに到着する。ドアを開けると、カランカランと客が来たことを告げる音がする。



「おう、ハイカちゃん。よく来てくれた、暑かっただろう。」



強面のマスター“樽野遊嗣たるのあすつぐ”さんが満面の笑顔で迎え入れてくれる。私が素になれる数少ない人の内の1人である。



「マスター。暑いなんてものじゃないよ。スライムみたいにドロドロに溶けそうだよ~。」



フランクに、冗談めかしく言う。そんな私の言葉をマスター優しく流してくれる。



「はははっ。そりゃ困ったなぁ。じゃあ、冷たいものでも飲むか。」



「ああ、ごめん。私今待ち合わせしてるんだ。あとでね。」



「そうか。それは残念。」



そんなに悲しそうな顔しないでよマスター。私まで悲しくなるじゃない。そうは言っても気にしている暇はなかった。時間が刻々と迫っているのだ。断腸の思いで待ち人を探す。店のなかを見回すとポツポツと人が入っていた。


だが、しおちゃんが言っていた特徴を思い出し、すぐに誰が待ち人かわかった。あの一段と雰囲気がある女の子。後ろ姿なのにそれがヒシヒシと感じてくる。


その女の子は黒上ロングで白いワンピースを着ており、一人軽食を食べていた。時間もないので勇気を出して声をかける。はあ、よし。




「あの間違ってたらすみません。私版棚珮夏って言います。しお・・・稜ちゃんに紹介されたのってあなたですか?」

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