楽園へのトンネル 第11話
「い・・・いや・・・いやぁああああああああああああああああああ!!!!」
マイケルは整いつつあった呼吸を忘れ、口を開けたままミランダを見ていた。
叫ぶと同時に噴出された糸がミランダを襲う・・・
そして、その体が周囲の巣を吸い寄せる様に巻き取られながら空中で制止した・・・
「いちっ?!」
グルグルに巻かれたミランダに向かって巨大な蜘蛛がキスをするように口を付けた・・・
その直後ミランダの最後の声が聞こえ、声は一切聞こえなくなった・・・
そして、ポトッと地面に2つの何かが落ちる・・・
「ヒィッ?!」
マイケルの口から漏れた小さな悲鳴、それは仕方ないだろう・・・
マイケルは地面に落ちたそれが何か見てしまったのだから・・・
真っ直ぐにこちらを凝視する2つの眼球を・・・
「マイケル、ミランダはもう・・・」
「は・・・はい・・・」
トニーがマイケルの肩に手を置いて告げる。
力が抜けた様子でマイケルが答え、出口に向き直る。
そう、数多の犠牲を払って彼等は遂にトンネルを突破したのだ!
「出口だ・・・」
「やりました・・・これで・・・助かる・・・」
直後、マイケルの脳裏にそれは聞こえた。
啓示である・・・
「お・・・おおおおおお・・・」
感激と共に涙を流し始めるマイケル。
それを見たトニーは一瞬驚くが、マイケルが祈りだした事から啓示があったのだと確信した。
「トニーさん・・・遂に辿り着きました。この先に全てから解放される世界が広がっています」
そう言ってマイケルは歩き出す。
手は祈りを捧げているのか胸元で合わせ、足から流れる血も気にならないのか普通に歩き出し、トニーもそれに続く・・・
そして、トンネルから外へ出た二人に当たる直射日光。
世界が霧に包まれてから感じた事の無い暖かさに懐かしさを覚え、感動に涙を流すマイケル。
実に15年ぶりの日光に手をかざして目を細めるトニー。
遂に自分達は生き延びたのだと笑みを浮かべながら足を踏み出した。
その時であった・・・
「えっ?!」
「あっ?!」
突然の浮遊感、目の前に地面が迫ってきたと思ったら、次の瞬間二人は落ちていた・・・
地面を足が素通りし、体も通過して落下を始めたのだ。
だが二人が平静を見せていたのは仕方ないだろう、落下している感覚が全く無かったのだ。
通常人が高所から落下した際は速度に応じて空気抵抗による圧が風となって発生する・・・
絶叫マシーンに乗った際に呼吸がし辛くなる様子を思い浮かべれば分かりやすいだろう。
だが二人にそんな感覚は全く無かったのだ、ただただ下へ下へと落ちていく感覚だけが最初はあった。
「なに・・・が・・・」
「これ・・・は・・・」
落ちながら声を発する二人だが、トニーが思う様に声が出せない違和感を覚え、次いでマイケルが気付いて慌てた様子で空を指した。
それを見たトニーも、ぎこちない動きで体を反転させてそれを見て目を疑う・・・
自分達からどんどん離れていく空中に浮かぶ島の様な物・・・
直ぐに二人は理解した、その上は自分達が居た土地なのだと・・・
浮遊感に包まれたまま、先程まで居た場所がどんどん離れていく様子だけが落下しているのを伝えて来ていた。
しかし、それも直ぐに点の様に小さくなり、見えなくなった。
後に残るのは宙に浮遊している様な自分とトニーだけ・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
マイケルは口を開いて言葉を発しようとしたが声が出なく、トニーもまた同じように声が出せなくなっていた。
身動きを取ろうにも触れる物が無い状態で無重力に居るかのように四肢を動かす事しか出来ない。
泳ぐ要領で動こうとも思ったが、体が移動している気配は一切なかった。
そもそも落下している筈なのにそんな感じが全くしないのだ。
熱くも無く寒くも無い、足の痛みも何時の間にか感じなくなっており上だった方向から自分達の体を照らす光が無ければとちらが上かも分からない状態である。
「・・・・・・!!!」
「・・・・・・?」
ジェスチャーでトニーに何かを伝えようとするが徐々に体が上手く動かせなくなっているのにマイケルは気付いた。
そう、今の自分達の状況こそが啓示に在った『全てから解放される』という事なのだろう。
痛みも悲しみも無い、言葉も必要ない、そして自由さえも・・・
無、それが全てと言わんばかりに見る事しか出来ない空間に二人は浮いていた。
そして、トニーは気付く・・・
自分達はこのまま餓死するまで何も出来ない事を・・・
浮遊しているのか落下しているのか全く分からないまま、二人は徐々に動かなくなっていく・・・
分からない、それが何よりも怖い・・・
やがて二人はゆっくりと目を閉じていく・・・
動く事すらも出来ず、永遠に落下を続ける空間で餓死するその時まで・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます