楽園へのトンネル 第6話

ジャックと足を怪我しているキャシーを残した5名はトンネル内を進んでいた。

一体当時何が遭ったのか、不自然に衝突した状態のまま放置された車が道を塞ぎ彼等の歩みを幾度となく妨害していた。

追突した車が更に後ろから追突され上に重なったり、横転していたりと悲惨な状況がそのまま残されていた。

鉄でできた壊れた車は15年と言う歳月で錆びていたり、名も知らぬ苔の様な物が覆っていたりと登るのすら困難な場面が続き5人の疲労は蓄積され続けていた。


「大丈夫・・・大丈夫な筈だ・・・髪は・・・ブツブツ・・・」


その道なき道を手を貸し合いながら先へ進んでいたのだが、予言を離していたマイケルだけは様子がおかしかった。

ずっと何かをブツブツと言いながら付いてきていたのだ。


「ちょっとマイケルさん気味が悪いんですけど・・・」


怪我をしていない方のキャシーがそう文句を言い、その言葉に同意をしながらキャシーが受け答えを出来るという事で本物説が濃厚になっていた。

だが、手を貸す事はあっても直接マイケルに文句を言う者は居ない、霧が世界を覆ってから他者との意思疎通に関し殆どの者が苦手意識をもっていたからである。

愚痴を言っても誰も返してくれない状況を少し見て、キャシーは不満気ながらも頑張って付いてきていた。


ジャック達と別れてから1キロ程進んだであろうか、一同は積みあがった車の上に立ちそれを見ていた。

5人のすぐ先、トンネル内の地面が陥没したのであろう、道が途中で折れて下へと進んでいたのだ。

それだけなら問題は無い、だがどれ程の深さがあるのか分からないにも関わらず、そこには水が流れ込んでいたのである。


「うわぁ~最悪だ」


トニーが口にし、同意とばかりに頷きを返す4人、水の幅は見た感じ10メートルも無い程。

であれば深さはそれほどでもないだろう、どちらにしても水の中に入らずに向こうへ進む方法が思いつかず5人はため息を吐いたりしながら地面へと降り立って行った。

濁って中までは見えない水、陥没した部分がもしかしたら底が無くて物凄く深くなっているかもしれない。

分からないというのは真の恐怖に直結する、想像こそが人が感じる最高の恐怖を演出するからだ。

だが、いくら考えた所で結果が変わるわけではない、5人は進む決心を決め前に出ようとした。

しかし、そんな中ホリーが進む方向を変えた。


「ん?どうしたホリー?」

「いやさ、一応底が無かった事を考えたらさ壁沿いの部分の方が渡りやすいかもしれないと思ってさ」

「なるほど!」


思い付きが人の心を救う事もある、根拠は無いのだが確率的に比較的安全かもしれないという心理が働きマイケルもそれに続いた。

そして、ホリーが水の中へ足を踏み入れ先へ進み始めた時であった。


「い”っ!?いだっ?!」

「うぉぇっ?!」


先に進んでいたホリー膝が水の中に消えたと思った時であった。

痛みを訴える声をホリーが上げたのだ。

慌てて後ろに居たマイケルは自ら外へ下がったのだが、その間にもホリーの叫びは続く。


「あいだだだっ?!な、なんだ一体?!」


続いて濁った水に赤色が広がる、ホリーの血である。

そして、水面に波紋が広がったと思った次の瞬間・・・


「うぎっ?!うっうぎゃああああああああああああああ!!!!」


突然悲鳴を上げ水の中に倒れ込むホリー。

バシャーンという音と共に水が跳ね、誰もが目を丸くしてその光景を見ている事しか出来なかった。

何故ならば、手をついて顔を上げたホリーの顔面に小魚がくっ付き噛み付いていたのだ!

慌てて自ら逃げようとしたホリーであったが、再びバランスを予期せぬ形で崩してしまう。

そして、悶え苦しみながら暴れるホリーの体に食らいつく多数の小魚。

暴れるホリーの脚が水面から上がった時に見えたそれは噛み千切られ、骨が露出していたのをマイケルは目にし腰を抜かす。

だが、そんな中トニーだけは冷静に足を踏み出した。

今から助けようとしても無駄だと彼は苦しみ悶えるホリーを見捨てたのだ。

そして、トンネル内の中央部分の水の中に足を入れて先へと進む・・・


「あっ危なっ・・・ってあれ・・・?」


キャシーが叫ぶが、トニーは気にせずに先へと進み、水を抜けてしまった。

ホリーと同じように水に入ったというのに無事な様子のトニー、それを見てミランダも後に続いて水の中に足を入れて行った。

もしも勘違いでれば自分も同じ目に遭う、それを理解したうえで彼女は足を進めたのだ。

結果、ミランダも水を渡り切りキャシーも困惑しながらそれに続いた。

横では暴れながら小魚達に食われるホリーの絶叫を聞きながら・・・




※ブラジルのピラニアが生息するナイル川では古来、牛飼いが川を牛と共に渡る際に1頭が餌食になっている間に残りの牛を運ぶという話があります。

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