快速殺人電車 第7話

「あ・・・う・・・あ・・・」

「だいじょうぶですか?!私の声が聞こえますか?!」


大きな声で呼びかけられ意識が覚醒してきた。

全身が強く痛み呼吸がし辛かった。

フワフワとした感覚に自分が運ばれているのを理解し大成はボンヤリと空を眺めていた。

手は既に痛みを感じなくなり、皮膚に突き刺さる様に感じる痛み以外は何も感じなかった・・・


「該者の意識が戻った様です!」

「あぁ・・・だがこれは・・・」


大成はおぼろげな思考の中、交わされる会話を聞いて理解した。

自身も聞いた事があったからである、人は体表面積の10パーセント以上火傷を負うと重症と言われる・・・

いくら離れていたとはいえ、タンクローリーの爆発をその身に受けたのだ。

確実にその方向を向いていた体の半分、50パーセント近くは火傷を負っている事だろう。

今現在息が在るだけでも奇跡と言っても過言ではないのだ。


「ぁ・・・ぁぅぅ・・・」


少しだけ声を出そうと頑張ってみたが、掠れた呼吸音と微かな呻き声しか出なかった。

喉が焼かれてしまっているせいだ。

痛みと苦しみが交互に押し寄せてくる中、大成は徐々に負の感情が込み上げてくるのを感じていた。

そう、それは後悔・・・

自分が何故か繰り返したループの中で必死に助けた人も誰一人として助かっては居ないだろう。

にも関わらず、自分はこうして死にかけているのだ。

まさに滑稽と笑われても仕方ない・・・

そう、上に浮かぶこいつみたいに・・・


『ひゃひゃひゃひゃっ!散々じゃな若いの、じゃが後悔はしなくてもいいぞい。結果はどうあれお主は人を助けたのじゃ』


こいつは何を言っているのだ?

占い師の老婆にしか見えないこいつの醜悪な笑みは人間の物とは思えない程に醜かった。

殆ど見えない視界の中、そいつの姿だけはハッキリ見えたのだ。

だから俺は必死に言葉を発しようとした。

浮かんだ後悔を閉じ込め、この結果に納得がいかないと訴えたかったのだ。


『ほぅ、これでも心は折れなかったか。素晴らしい・・・やはり人間と言うのは素晴らしいモノじゃな。今のワシは機嫌が良い、お主の願いを叶えてやろうと思うんじゃがどうじゃ?』


悪魔の囁きとはこういう物を言うのだろう、重力を無視した状態で宙に立つ腰の曲がった老婆が発したその言葉に大成は迷わなかった・・・

それは自分が信じるヒーローの生き方、ジャスティスマントは自身の事を顧みず人を救うのだ。

だから大成は自分の命を捨ててでもあの3人を救いたかった。

こいつの話が本当なので在れば、あの3人は生存する可能性がある筈なのだから・・・


『よかろう、契約はここに成立じゃ。いま一度だけお主に機会を与えるとしよう、精々足掻いて・・・』


その声は徐々に遠くになり大成の意識は闇に沈んでいく、それは時間が巻き戻る感覚なのだと理解し大成はゆっくりと呼吸を止めた。

その最後の言葉を聞き届けていればまた違った結末が待っていたかもしれないのに・・・






『精々足掻いて、視聴してくれている神々を楽しませてくれ・・・』

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