快速殺人電車 第6話

踏み出した足が電車内に置かれた瞬間、大成の意識が覚醒した。

体を半分電車内に入れた状態で動きが止まったのだ。

だが、電車は待ってはくれない、ダイヤを守る為発車しようと駅員が操作したのだろう。


プシュー


ドアが閉まろうとする音が聞こえる、大成は勢いよく後ろに飛んだ。

一瞬右側にやった視線の先にあの子供が一人で居るのが見えた。

あぁ、これであの子も助かるんだ・・・


「生き方を貫け・・・か・・・」


走り出した電車の中を覗きながら口にする大成。

自然と子供を命懸けで助けたという実感にドッと疲れが押し寄せてきた。

我が身を顧みず人を救う、それは大成が憧れたヒーロー『ジャスティスマント』そのものの生き方だった。

だがそれを本当に実践した時、救う側の者がどれ程の危険を味わうのか・・・

それを理解した大成は達成感と心地よい疲労感に満足していた。

もうこれでヒーローごっこは終わりにしても良いと感じるくらい疲れたのだ。


「次の各駅停車で帰ろう・・・」


そう呟き電光掲示板に表示される次の普通列車の到着時間を確認する。

時間は掛かるが今日はゆっくり帰りたい気分だったのだ。

そのまま駅の構内に設置されたベンチに腰を降ろし空を眺める・・・


「はぁ・・・」


大きな溜め息の様な息が自然と漏れた。

充実感と共に人生で二度と体験しないと思えるような体験をしたのだから仕方ないだろう。

背もたれに体重を預けた時であった・・・


「まぁ、これだけガラガラだったら必要無いか・・・」


それは忘れもしない繰り返した言葉・・・

空を見上げながら言う筈の無い言葉が口から洩れたのだ。

咄嗟に両手で口を塞ぐが既にそれは意味を成さない、言葉は既に発せられたのだ。


「うそ・・・だろ・・・」


湧き上がる不安、込み上げる恐怖、理解の及ばない混乱・・・

様々な負の感情が警告音を鳴らす、今自分はここに居ては駄目だと言われている様に・・・

その時であった・・・


ドガーン!ギギギギギギガッシャーーーーン!!!!


物凄い音が鳴り響き駅の構内を騒然とさせた。

慌てて立ち上がった大成は目を疑った、それは音のした方向を見てしまったから・・・

今さっき乗らずに降りた快速列車、それが走り去った方向で・・・


「うそ・・・だろ・・・」


大型のダンプカーが列車に真横から激突し電車が横転していたのだ。

それを見て大成は吐き気が込み上げてくる・・・


「う”っ・・・」


あの車両内に居た大成が居た3人、何故かその3人が乗る車両にダンプがぶつかったのだと大成は理解していた。

何故かは分からない、だが確かにそう分かるのだ・・・


「運命と言うのはそう簡単には変えられないのじゃ・・・」


真後ろから聞こえたその声、あの占い師の様な老婆である。

大成は驚き振り返った、だがそこには誰も居ない・・・


「一度確定した運命を捻じ曲げるのは簡単にはいかない、だがそれを回避する事も不可能ではない」


頭の中に直接響くその言葉に大成は体の震えが止まらない・・・


『お前さんが助けたと思った人間は助かる可能性が僅かにでも残っていたという事じゃったんじゃな・・・』


それは殺す側と殺される側、あの車両内で大成が体験した関係図。

何故か殺される側を救うと殺す側が消える謎の流れ・・・

それを聞いて大成は理解した。


「そ、そんな・・・」

『残念じゃが確定した事象はもう引き戻せないのじゃ』


大成が邪魔をした殺す側の人、あのOL、あの女子高生達、あの両親と老夫婦・・・

それはあの事故で即死した面々だと理解した。

そして、大成が助けた殺される側の3人、あのサラリーマン、あの女子高生、あの子供・・・

それは今現在まだ生きている3人なのだ。


「た、助けにいかないと・・・」

『その腕でどうやって?』

「えっ・・・」


その時両腕に激痛が走った。

何もしていないのに腕が真っ赤になり焼ける様に熱く痛み出した。

骨が砕けるような感覚にその場に蹲る・・・


「がぁ・・・あ・・・あっががぁ・・・・」

『運命を変えようとした代償は結果に関わらず支払わなければならない、それが世界の理・・・』

「がっががが・・・ぎぃあ・・・・」


身動き一つ取れない程の激痛、それは大成があの電車に乗っていた時に受ける筈だった怪我だったと理解した。

それはつまり・・・


ズガーン!!!


大きな爆発音が響き強烈な熱が突風に乗って周囲にばら撒かれた。

あの列車に激突したタンクローリーが爆発したのだと大成は理解した。

一瞬、目の前が真っ赤になり全身が火に包まれる・・・

そんな感覚に襲われ、大成は意識を失うのであった・・・

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