天井が迫ってくる塔 第11話
「如何だったでしょうか?我が神よ」
姿の変わった男の言葉に合わせる様に世界の時間が停止した。
崩れ始めていた塔の瓦礫が落下中に空中で制止したのだ。
まるで写真に収められたような光景の中、更に男の姿は変化していく・・・
『中々人間の考えるなぞなぞと言うのは面白い物よのぉ』
空中に浮かぶ瓦礫の一つ、それが砂に変わりながら音を発した。
この世界を作り出した創造神に祈りを捧げる様に男は跪いた。
「これは、いつもご観覧ありがとうございます。ロゴス様」
『楽にしてよいぞ、この世界を自由に使って貰うのは構わないのだから』
男は冷や汗を浮かべ言葉一つ一つに全神経を集中させていた。
何故ならば様々な神に自身の行っているゲームを閲覧させていたのは造物主ではなく、この創造主と関係を持つ為だったからだ。
『これほど愉快な一時を堪能したのは久方ぶりであったぞ』
「ロゴス様にそう言っていただけると感謝の極みでございます」
『ガイアと申したな?我はすっかりお主に魅了されてしまった。褒美を取らせたいのだが・・・』
「なんと?!」
デスゲームを生み出す男、ガイアはその言葉に歓喜した。
普段は様々な神に閲覧されこのデスゲームを行う事で寿命を得ているガイアであるが、真の目的は他に在ったのだから。
それは・・・
『人ならざる人に何を贈れば良いか・・・』
「それでしたら一つ・・・」
ガイアは遠慮気味にロゴスにのみそれを伝える。
人と神の中間に位置する存在となっているガイアのその提案に創造神ロゴスは一考する・・・
『なるほど・・・それは面白い!』
「如何でしょうか?」
『構わない、あやつも真実を知れば度肝を抜かれると言うモノよのぉ』
愉快そうに砂へと変化する瓦礫から聞こえる声に歓喜の感情が混じる。
消滅していくこの空間に取り残された死者の魂、輪廻の輪へと戻る前に使われるそれは神とガイアがコンタクトを取る為のエネルギーとして再利用されていた。
死してなおその存在を消費させられる人間にとっては堪ったものではないだろう。
『此度の報酬は58年の寿命を授けようぞ』
「ありがとうございます」
それは在りえない程少ないと感じざるを得ない寿命の量。
デスゲーム創造にガイアは長い時を使用する。
次のデスゲームの為の世界を構築する為にも得られる報酬の時は長ければ長い程ガイアにとっては良いのだ。
『ガイアよ、次回の報酬の時を楽しみにするとよいぞ』
「感謝の極みでございます」
得られる時間は非常に短い、だがそれ以上に創造神ロゴスに願いを伝えられたのはガイアにとって幸運であった。
幾つものパラレルワールドに分岐した人間社会から一つ選び、次のデスゲームを用意するガイア。
その全ての世界はとある神によってガイアと繋がっていた。
「ふぅ・・・」
神との通信が途切れ、真っ白の空間に戻ったガイアは一つ大きく息を吐く。
空気なんて存在しないその空間に世界を構築する時間は今回非常に少ない、だからこそガイアは急いで次の支度を開始する。
「漸くだ。待っていろよ・・・」
世界と繋がっているガイア、彼が死ぬと共に数多存在する世界は消滅する。
その為、彼が寿命を全うする時、彼が管理できる全ての世界、全ての生命は終わりを迎える・・・
それはとある神が彼に与えた運命と言う呪いであった・・・
ガイアが人の命を犠牲に神を楽しませ、その神から寿命を貰い世界を操る・・・
ガイアが生きている事こそが世界維持に必須な事なのである。
「終わらせる・・・もうすぐだ・・・」
そう述べたガイアは世界を一つ選び出した・・・
「そう、遂にね・・・お兄ちゃん」
テレビを見詰める少女は辛そうな表情のままテレビにリモコンを向ける。
彼女が映像を消すのを躊躇うのには理由が在るのだが・・・
『終わったのだろう?』
「はい・・・今参ります・・・」
リモコンで映像を消去し、スッと立ち上がった少女は木で出来たドアへと向かう。
少しだけ開いていたそのドアを開き、中へと足を踏み入れると共に来ていた衣類が下へと落ちる・・・
『十分に楽しめただろ?さぁ、再び享楽を堪能しようぞ』
「はい・・・ヴィシュヌ様・・・」
そこは人間が生み出した様々な拷問器具が星の数に匹敵する程並ぶ部屋・・・
全身に聖痕と呼ばれる様々な傷が残る少女はそれの前に真っすぐ歩いていく・・・
維持神ヴィシュヌ、鼻から上が存在しない半分の顔で笑みを浮かべるそれに向かって少女は歩いていく・・・
その後ろ姿を隠すように木のドアは閉まる・・・
次のガイアのデスゲームが始まるその時まで・・・
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