天井が迫ってくる塔 第9話

再び振動が私達を襲い足元がふらつく・・・

焦った様子で金剛が私の肩を両手で押さえてくれた。


「あ、ありがとう」

「まぁ、気にせんでえぇ・・・」


目の前の金剛がどこか余所余所しくなった感じがしたのは気のせいではないだろう。

私が気付いたように、彼も私を子孫だと理解したのであろう。

もしかしたら私にとってはお爺ちゃんかもしれないのだ。


「とにかくこれが最後みたいじゃから生き残るぞ」

「・・・うん」


嫌な胸騒ぎ、三角になった天井を見上げる金剛の言葉は何処か寂しそうに感じた。

そして、三度迫り始める天井・・・

振動は続き、床に丸い円が浮かび上がった。


「これ、人数分しか出てなかったんだ」

「そうみたいじゃな」


私の言葉に金剛も周囲を見回して答える。

今までは気付かなかったが、迫る天井から助かる為のなぞなぞを出される円、それはどうやら生き残っている人数分しか現れていなかったようである。


「ねぇ金剛さん」

「あん?」

「もしも一緒に生き残ったらさ、良い事教えてあげるね」

「なんじゃ?当たりくじでも教えてくれるんか?」


金剛のその言葉は予想外であった。

だが言われてみれば、過去の人間に情報と言うモノが渡せるのだとしたらそれはかなりの利点となる。

例えば競馬、例えばロトクジ、例えばインサイダー取引・・・

だが私がそんな物を記憶している訳も無く、ガッカリさせる事になるかもしれないと苦笑いを彼に向けた。


「なんじゃ?」

「ううん、なーんでもない」


どこか吹っ切れた私は金剛に笑顔を見せて円の中に足を踏み入れた。

そして聞こえるなぞなぞの言葉・・・


「幼稚園、小学生、大人の中で、一番大きいのはどれでしょう?」


問題が出されて一応私は考える・・・

生き残るんだ、きっとここまで生き残れたんだから大丈夫!

私は目を一度瞑り一息吐いて考える・・・


「うん、分からないや」


頑張って考えたが結局私には分からなかった。

だからこそ私は大きく息を吐いて覚悟を決める!

天井を見上げ外がどうなっているのか、ここは一体どこなのかを知る為に答えを選んだ!


「答えは・・・『幼稚園』よ!」


普通に考えると大人が正解だろう、だがここまでのなぞなぞを考慮すれば逆張りが正解だと感じたのだ。

そして、口に出して答えた事でそれは確信に変わった。


「あはっあははははっそうか、そうよね!」


頭で考えるだけでは気付かなかったかもしれない、だが口に出した事で直ぐに気付いた。

私は天井が開くのを確認し、光の壁が透明になったのを見て金剛さんの方を見詰める。

そして、口にした・・・


「なによ・・・考え込んだのがばかみたいじゃない・・・幼稚園って建物じゃない」


そう、私は正解を勝ち取ったのだ。

徐々に近づく天井、だが未だ白い光に包まれたままの金剛の壁は白いまま。

不安が込み上げるが金剛であれば大丈夫だろうと信じていた。

やがて・・・


「ふぅ~なんとか正解したみたいじゃな」


光が消えて透明の筒状の中に立つ金剛の姿が見えた。

透明とは言え、触れると何があるか分からないので手は出さない。

だがもう見慣れたあのリーゼントを見てホッとしたのは間違いない。


「金剛さん!一緒にクリアできたね!」

「おぉっ!そっちも正解したんじゃな!」


片腕を上げてこちらに笑顔を見せる金剛、その天井が開いているのを見て私も安堵したのだが・・・

上を見上げた金剛の表情が険しくなった。

それにつられ私も上を見上げて絶句した。


「な・・・なんなのよこれ・・・」


開いた天井、そこから見える空には白い煙のようなものがいくつも動き回っていた。

靄の様な白いそれは細長く、先端には顔の様な物が浮かび上がっており、どれもが苦しそうな表情を浮かべているのだ。

そして、その中に見覚えのある顔が在った・・・


「あ・・・ぁぁ・・・」


それは天井に潰されて死んだあの人であった。

それが意味するのは・・・


「ここで死んだら・・・あの仲間入りって事?」

「くそっ一体ここはなんなんじゃ!?」


金剛が私と同じ事を考えたのか怒声を上げた。

そうしている間に天井はどんどん近づいてきて・・・


「えっ?!えぇっ?!」


それは始まった・・・

床の外側、三角の天井に接触した部分が突然崩壊を始めたのだ。

そしてそれは加速度的に中央目指して崩れていく・・・

私は焦り天井を見上げる、だがまだ屋根の上らしきところまでは3メートル以上ある・・・

そして、私の足元も他と変わらずに・・・崩れた。


「きっきゃあああああああああああああああああ!!!!」


地面が無くなる事で起こる自由落下、そして私はそれを目の当たりにした。

中央に位置する部分に存在する螺旋状の支柱の様な物。

そして、落下していく自分の体が全てを物語っていた。

そう、この塔は・・・


床がずっと上に上がり続けていたのである。

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