人から人へ感染するアウトブレイク 第15話

「如何だったでしょうか?我が神よ」


青年の言葉と共に空間が揺らぐ。

森の中へと足を踏み入れた筈の景色が徐々に真っ白の空間へ変わっていく・・・

木々のせせらぎの様な風の音にノイズが混じり、やがて周囲は白一色に変化した。


『素晴らしい・・・悲しみと絶望に沈んだあの顔は久方振りに興奮したぞ』


それは何処から聞こえたのか分からない。

前からとも後ろからとも上からとも下からとも感じ取れる声・・・

美しく自愛に満ち溢れた声量に身も心も溶けて消えてしまいそうな感覚に満たされる・・・


「楽しんで頂けたようで大変喜ばしく思います」


良い慣れたいつものセリフを口にし青年は目を細める。

歯を食いしばり内々に怒りを込めるが、それでも悟られないように続けた。


「人間社会に定期的に起こるパンデミック、それを再現させて頂きました。若干人以外にも影響を及ぼしましたが」

『構わん、むしろ後に残さぬ心遣いも評価してやるぞ』


そう、今回行った紫の霧によるゾンビもどき現象。

正確にはウイルスを使った超再生細胞を生み出す、遥か未来の実験である。

感染者が水に触れると元に戻る事から、治療に使えば部位欠損等も簡単に治療できる画期的な未来の医療技術の一つである。


「あの村の人間にとっては決して不幸なだけの結果ではありませんでしたから」


そう、アレのせいで年配者は若返り、部位欠損等の大きな怪我から小さな擦り傷まで生き残った村人は全て回復しているのだ。


『邪神の呪いも女神の祝福も全ては我の気分次第、流石良く分かっておるな』

「ありがたきお言葉」


そう、世界に神はたった一人。

そして、その神は自らを模して人間を作った。

だからなのか、ゲームクリエイターが作ったキャラクターで物語を作る様に、この神は人間の物語が好きなのだ。

自らが模した人間の感情と似た様に様々な感情が渦巻く物語を好んでいる。

勇気や希望、努力や歓喜・・・そう言った感情だけに留まらず血飛沫や悲鳴、絶望や激情と言った感情も大好きなのだ。


『しかし、あのガンジーという男に旦那を殺されたマリエラと言う女の結末は見ものぞ』


そう言う神は白い空間を一部切り取りあの世界を再び青年に観察させた。

そこには首を切断されて横たわるハイネス、そしてそれを抱きながら泣くマリエラの姿が在った。

何故ガンジーが最後にマリエラに謝罪をして火に身を投じたのか、それを理解して渦巻く環状に泣き叫ぶその姿。

あぁ・・・きっと神はこんな表情をしているのだろうと手に取る様に青年には分かっていた。


『素晴らしい、本当お前の作る世界は本当に素晴らしいぞ』

「ありがとうございます」

『うむ、それでは此度の報酬じゃ』


その言葉と共にいつもの小さな光が何処からか集まり青年の体の中へ入って行く・・・

青年の体は光に包まれ、ローブを纏った男の姿へ変化した。

その男は両手を合わせ、その声の主へ命を捧げる。


『1800年の寿命を授ける』

「ありがとうございます」

『ガイアよ次回も期待しているぞ』

「ご期待に応えられますよう頑張らせて頂きます」


この与えられる寿命、ガイアと呼ばれた男はそれを使いデスゲームを作り出す。

神の退屈を紛らわす事の報酬に自らの延命を得るガイアは開いたままの空間に再び目をやる。


「山本・・・いや、今回はガンジーと言う名だったか・・・すまないな」


そう言いガイアは両手を合わせ祈りを捧げる。

今回だけではない、数回続いたデスゲームにおいて配役をさせられていたガンジーもついに解放される時が来たのだ。

そして、目を開き次のターゲットに視線をやる・・・


「その魂の叫び、晴らさせてやるとしようか」


その視線の先には運ばれていくハイネスを見守るマリエラ・・・

時代も国も世界も飛び越えて自由にデスゲームを作る事が出来るガイアは登場人物をいつもこの時点で決める。

人は死ぬと世界を跨ぎ転生する、神を模して造られた人間が唯一神に近い存在になれるそれが死した時である。

その為全ての世界の人口は全ての世界に在る神の作った魂の数と等しい。

死しても消えることは無い魂を使ってガイアは次なるゲームを考え始めるのであった・・・











「お兄ちゃん、泣かないで・・・」


テレビに映し出されたガイアの悲しそうな表情を見詰める一人の少女。

リモコンでその映像をいつものように消して部屋を出て行く少女・・・

ガイアの事を兄と呼ぶ少女は悲しそうな表情をしたまま木で出来たドアを閉める。

一瞬そこから覗いた世界、そこは・・・

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