科学文明が発達した世界に転生した悪役令嬢、ヒロインの救世主化を阻止する

仲仁へび(旧:離久)

第1話



『私は悲恋ジャンルの乙女ゲーム世界へ転生した。


 その世界のヒロインは、最後には救世主となり、世界を救って命を落としてしまう。


 乙女ゲームの内容はそんな感じだった。


 悲しい結末だ。


 それを知った私は、その世界に転生するなら、ととある事を決意した。


 ヒロインを死なせない。救世主にはさせないという事を。


 それはヒロインの為だけではない、気に食わない者達に対する自分の感情のため。


 だから、死後に神と出会った彼女は、一般人ではなく悪役令嬢に転生する事に決めたのだった。


 神はその世界の行く末を憂いていたから、反対はしなかった。


 転生後の私は、悪役令嬢に備わっている力、意思あるものの注目を集めるというカリスマを利用する事にした』











 神は大層悲しまれた。


 文明を築き、科学に心酔し、自然への敬意を忘れた人々に対して。


 かつていた妖精達は姿を消し、動物の種は激減し、大地は緑なき地へ変貌する。


 だから、この世界で近年頻発する異常気象は神からの警告なのだ。


 自らの行いを悔い改めなければ、やがて人々は絶滅するだろう。という







 乙女ゲームの世界に転生した私は神様から受けた言葉を、物心つく頃から人々に教えてまわっていた。


 嘘はない。全ては真実だ。


 実際に神と出会って聞いた事ばかり。


 けれど、反応はみなおなじようなもの。


「そんなバカな」と憤る人間もいれば、「話にならない」と門前払いする人間もいる。


 子供のいう事だから、信じないというのはわかる。


 実際に、初対面の人間から「神の言葉」なるものを聞かせられたら、身構えてしまう人が多いだろう。


 しかし、だからといって実際に起こっているこの世界の被害からも目を向けるのは、どうかと思う。


「そんなものはどうとでもなる」、「俺達みたいな一般人が考える事じゃない」ときた。


 私の言葉に耳を傾けてくれる人達はなかなか会わられなかった。


 しかし根気よく続けていくと「その通りだ」と言って、手を取り理解する者も、少なからずいたのだった。


 それくらい、近年の気象の有様は、異様だったらしい。


 その時点でまだ私は、生まれて数年しか生きていないから各地の状況は分からなかったけれど、こちらの言葉に耳を傾けてくれる大人達はその異様さを尽きぬほど語ってくれた。


 多くの同士を得た私は、最初に賛同してくれた者の男性へ向かった。


 幼馴染の男性だ。


 神様の言葉が聞こえるといっても、馬鹿にはしなかった。


 父も母も、妹も無視して、私に話しかけなくなった。けれど、彼だけは私と口を聞いてくれていたのだった。


「みて、こんなにも多くの理解者が集まったの」

「そうか、良かった。それでこれからどうするの?」


 当然、これからも活動は続けるが、そろそろ次の事も考えなければいけない。


 生き残る事を。


 私達は、この星を科学技術で痛めすぎたから。


 もう、壊れてしまう。


 人が生きられる環境ではなくなってしまう。


 治療を施して謝って、みんなが行動を今すぐあらためれば間に合ったかもしれないけれど。


 これでは、望み薄だろう。


「人類は滅びてしまうかもしれないわね」

「自業自得かもしれないな。でもそれでも、大切な人には生き残ってほしいんだ」


 





 この世界では、生命力を力にかえるという画期的な技術が開発された。


 その技術はどんどん高まっていく。


 そして、とうとう欲しがる者達は己の欲を抑えきれなくなったらしい。


 植物や、動物の命を限界までしぼりとり、奴隷・罪人の命まで手を出した。


 そうして活用した力の中には、わずかな淀みが含まれている。


 世界は徐々に汚染されていった。


 この世界では数十年ごとに救世主の少女が現れて、汚染された世界を浄化してくれるという話があるらしいけれど。


 私は、そんな人物に頼る事を良く思わなかった。


 なぜなら、人々の罪をたった一人で清算するために、その対価として救世主の少女は犠牲になるからだ。


 最初から最後まで豊かなままで、何一つつけを払わないその世界の人達の事が、私は気に食わなかった。


 だから、救世主となるはずの人物、ヒロインに近づき早い段階から全てを話した。


 好きな男性のために、その男性が生きる世界を守るために、自分の命を犠牲にしよう。


 そう決意するよりも、遙か前のヒロインに。








「そうですか、未来ではそんな事が私の身に。でも今の私は死にたくないです」


 全てを話した後、ヒロインは賛同者になった。


 すると、彼女の周りにいた男性達も、どんどん仲間に加わった。


 やがてヒロインと恋を育むことになる者達だった。


 私は彼等にも「やがて好きになるかもしれない人が、命を落としてもよいのか」と言い続けた。


 それは私のエゴの押しつけだった。


 彼らは、元の未来でもそれなりに幸せだったのだから。


 でも、この世界の彼らは私のエゴを受け入れたらしい。


「彼女に死んでほしくない」

「関係のない人達のために、命を燃やすなんて間違っている」

「俺はずっと友達には生きていてほしい」


 そうして救世主が誕生する可能性を徹底的につぶしていった私は、それからも地道に賛同者を集めていった。





 そして数年後。破滅に破滅をかさね、世界は淀みに淀んでいった。


 私達は、どうしようもなくなった世界にとある選択をつきつける。


 都合の良い救世主など現れないという事実を添えて、自分の罪を自分で払うか、それとも人に押し付けるかという選択を。


 人々は後者を選んだようだった。


 ヒロインの身柄を狙って、救世主になるように洗脳しようと行動を起こした。


 選択は下されてしまった。


 私は、ヒロイン達や賛同者達と共に、その選択を残念に思うしかなかった。


 だから、私は自分達しか助けない。


 悪役令嬢である私の「意思あるものの注目を集める」というカリスマの力、そして「生命エネルギーを爆発的に生み出す」ヒロインの力を使って。


 まず、消えた妖精達を一か所に集め、手伝ってもらう。彼らのその力で空間を隔離し、地の底に消えた植物や辺境に逃げた動物を集めてもらい、環境を整える。


 そして、絶えそうになっていた種に生命エネルギーを分け与えて、復活させる。


 その結果私達は、小さな小さなシェルターを作り出した。


 外の人達が入ってこられないように。


 頑丈、強固なシェルターを。




 やがて、豊かになる事しか考えていなかった者達は、すぐに滅びていった。


 シェルターの外で、なすすべもなく力尽きて。


 小さなその世界の中で、心の余裕を取り戻したヒロイン達はやがて恋をする。


 乙女ゲームのように、華々しくみずみずしい恋の果実を実らせて、愛をささやく関係になる。


 その恋が悲恋になる事はおそらくないだろう。


 この世界には、彼女の命を狙うものはいないのだから。




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