第18話 レッサーヴァンパイア

「あそこか……」


「ええ……」


マリーやガドンさんの道案内で、森の奥にあるヴァンパイアの屋敷まで辿り着いた。

此処に車で、使い魔と思しきワーウルフと何度か遭遇している。

そこそこ強い部類に入る魔物ではあるが、ここにいるメンバーの敵ではない。


ので、サクサク処理して俺達はここまでやって来ている。


「番犬共が大量にうろついてるな」


恐らくこちらの接近を、相手はもう気づいているのだろう。

かなりの数のワーウルフが屋敷の周りを巡回していた。


彼らは鼻と耳が聞く。

にも拘らず近くに潜んでいる俺達の存在に気付けていないのは、マリーの使うエルフ特有の魔法で匂いと音を消しているからだ。


「俺達ウルフが突っ込んで敵の気を逸らす。その間に、マリーが結界を解いてくれ」


「わかったわ」


「シビック。最後にもう一度確認するぞ。本当に一人でいいんだな?」


「ええ、朗報を待っていてください」


屋敷の周りのワーウルフの数は、ざっと見て20匹程だ。

戦闘が始まれば周囲からもよって来るだろうから、更に数は増える事が予想される。


だがガドンさん達の腕前なら、まあ問題ないだろう。

ここに来るまでにその動きを見せさせて貰ったが、その連携の完成度は相当な物だったからな。


「行くぞ!おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


ガドンさんが雄叫びを上げて、ワーウルフの群れに突っ込んで行く。

その後をウルフの面子が追う。

彼らに意識が完全に向いた所で、俺とマリーは身を低くし、樹木を遮蔽物にしつつ屋敷に素早く近づいた。


「1分で解除します」


マリーが塀に近づき、結界破りの為の魔法の詠唱をはじめる。

屋敷の外壁に沿って張られた結界はそこまで強力な物ではない様だが、それでも破るのには時間がかかってしまう。


まあでも、1分ならかなり――いや、滅茶苦茶早いか。


多分俺なら余裕で5分以上はかかるはず。


「頼む」


音や臭いを消しているとはいえ、屋敷の外壁傍に立つ俺達の姿は丸見えだ。

気づいたワーウルフ二体が雄叫びを上げて突っ込んで来た。

マリーは結界破りに集中しているので、邪魔者の相手は俺の仕事だ。


「よっと」


流石にこの程度の相手なら、オーラ―ブレードは必要ない。

そのままの状態で、飛び掛かって来たワーウルフの首を素早く刎ねる。


「ぐおおぉぉぉ!!」


仲間が一撃でやられたにもかかわらず、もう一匹のワーウルフは臆する事無く俺に突っ込んできた。

ヴァンパイアの使い魔である彼らには、恐怖という感情はないのだろう。


まーだからなんだって話ではあるが。

俺はそいつの首も、軽く跳ね飛ばした。


「解除しました」


マリーは宣言通り、1分ほどで結界を解除してくれた。


「姉の事。よろしくお願いします」


「任せてくれ」


頭を下げるマリーに軽く返事を返し、俺は塀を乗り越えて屋敷の敷地へと入る。

中にワーウルフ達の姿はない。


まあ外で派手に戦闘が行われているのだ。

中にいた奴らは全部そっちに向かったのだろう。


俺は素早く屋敷の正面扉から内部へと侵入する。

鍵は特にかかってはいなかった。

窓は全て鉄格子と布で覆われている為、入り口から光の差し込まない中部は真っ暗だ。


「暗いな。まあヴァンパイアの住処だから当たり前か」


魔法で光を生み出して視界を確保すると、天井に大量の蝙蝠がぶら下がっている姿が目に飛び込んできた。

キラーバットと言われる魔物だ。

夜行性ではあるが、ヴァンパイアの様に光を浴びるとダメージを受けるといった弱点はない。


「きいいぃぃぃぃぃ!!」


魔物が奇声を上げてエントランスの天井から飛び立ち、一斉に俺に向かって襲い掛かって来た。

当然、真面に相手をするつもりはない。


「こっちは一人なんでな。一対一で頼むよ」


――【ズル】を発動させ、代表一匹以外の動きを封じた。


群れるから面倒なのであって、単体になればいい的でしかない。

俺は突っ込んでくるそいつの体を真っ二つに切り裂いた。

他の奴らもスキルの効果で、そいつ同様真っ二つになって全滅する。


楽ちん楽ちん。


「さて、地下はと……」


屋敷の下には広い地下道が広がっており、ヴァンパイアはそこに潜んでいるのが相場だ。

建物はその気になれば、外からの攻撃で簡単に破壊出来てしまうからな。

奴らがそんな所で、日中を過ごす訳もない。


「ここだな」


地下への道は前回討伐時にマリー達が発見しているので、事前に教えて貰っている。

エントランスにある螺旋階段の脇だ。

隠し扉を開けると、広い階段が地下へと続いていた。


「あら……餌が紛れ込んで来たみたいね」


「ふふふ、可愛がってあげるわ」


地下は手を加えられ、しっかりとした構造をしていた。

広い空間に出た所で、見目美しい5人の女性が俺を出迎えてくれる。


当然彼女達は人間などではなく、真祖の眷属――レッサーヴァンパイアだ。


口元から鋭い犬歯を覗かせ、女達がクスクスと笑う。

中には舌なめずりする者も。

どうやら、俺の血を美味しく頂く気満々の様である。


「悪いが、ブスには興味が無いんでね。それと忙しいから、一度にかかって来てくれないか?お前ら弱そうだし」


俺のスキルの多対一を封じる効果は、相手から一対一の勝負を挑まれると効果が発揮出来ない。

さっさと終わらせたいので、一斉にかかって来る様、俺は眷属達をわざと挑発する。


「ブスですっで!?ガーグ様に選ばれたこの私達が!?」


「生意気な人間ね!」


「いい男だから死ぬ前に少し位良い思いをさせてやろうと思ったのに、馬鹿な人間ね。そんなに死にたいなら――望み通り八つ裂きにしてあげるわ!」


簡単に挑発に乗ってくれて助かるよ。

俺が【ズル】を発動させると、一匹を除いて他の奴らはその動きを止める。


彼女達は知能があるにも関わらず、その状態に疑問すら持たない。

それがこのスキルの恐ろしい所だ。

一番先頭のレッサーヴァンパイアの女が、1人で俺に突っ込んで来た。


「死になさい!」


剣に闘気を纏わせ、オーラブレードを発動させる。

それに光属性を付与し、鋭い爪で襲い掛かるレッサーバンパイアを俺は迎え撃つ。


「ぐぉあ……あぁ……そん……な……」


俺の一撃は、目の前の魔物を頭部から股間にかけて真っ二つに切り裂いた。

所詮レッサー如き、俺の敵じゃない。


「ガ……グ……さ……」


女の体は崩れ、灰となって消えてしまう。

同じダメージを受けた他の女達も同様だ。


彼女達が元は人間だった事を考えると、若干思う所もある。

だが眷属化された相手を救う術はない。

速やかに処理してやるのが、優しさだと思う事にしておこう。


「さて……残すは真祖とマリーの姉だけだな」


地下に降り立った時点で、俺は索敵魔法で地下に潜む者達の数を確認している。

確認できた反応は7つ。

今女達を5人倒したので、残りは二人という訳だ。


因みに、地下に潜む敵の数が思ったより少ないのは、マリー達の最初の討伐隊に討たれているためだろうと思われる。

召喚で呼び出せるワーウルフや蝙蝠と違って、力を与えて生み出す眷属のヴァンパイアはそうポンポン作り出せないからな。


「じゃま、ボス退治と行きますか」


俺は真祖がいると思われる奥へと向かう。

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