第17話 力量

銀級の俺が一人で真祖の討伐を主張したとして、それが受け入れられるだろうか?


否。

そんな無茶な提案は絶対に通らない。

だから俺は、彼女達に自分の力を見せる事になる。


勿論、例のスキルではなく俺の剣の腕の方だ。


「それじゃあ――」


俺と屋敷の中庭で対峙しているのは、依頼主であるマリーだ。

彼女は金級なので、俺の実力を示すには持って来いの相手と言えるだろう。


「行きますよ」


「気による武器の強化だと!?」


俺は剣に闘気を込めて、オーラブレードを発動させる

それを見て、ガドンさんが声を上げた

かなり取得難易度の高いスキルなので、驚くのも無理はない。


更に俺は別のスキルを使い、闘気に光の性質を付与する。


「これは!属性付与まで出来るのか!?」


属性付与。

闘気に属性を宿らせるスキルだ。

これにより、特定の弱点を持つ相手により効果的なダメージを与える事が出来る様になる。


これもオーラブレード同様、修練によって習得可能なスキルだ。

だがその取得難度はさらに高く。

ジョビジョバ家では、これを取得出来て初めて一人前として扱われる様になる。


「シビックさん。あなた、本当に銀級なんですか?」


マリーが驚愕の表情で聞いてくる。


「まだ冒険者になって三か月だからね。あと、一応金級の推薦状はギルドから貰ってます」


「成程。ただ検定試験を受けていないだけという訳ですか」


そこはなんとも言えない。


勿論強さになら自信はある。

強さを尊ぶジョビジョバ家の一員として、俺は物心ついた頃から血反吐が出る程の修練を積まされてきた訳だからな。

仮にスキル抜きだとしても、並の騎士なんて目じゃない。


だが流石に金級に上がるにあたって、その査定が強さだけって事はない筈だ。

もし特殊な知識を必要とする試験なんかがあれば、それに引っかかって落第する可能性は十分にあった。


「ですが……いくら光属性がヴァンパイアに有効だからと言って、それだけで倒せるほど真祖は甘くありません!行きます!」


マリーが突っ込んで来る。

かなりのスピードだ。


「はぁ!」


彼女はそのままの勢いで、手にした細身の剣を突き込んできた。

俺はそれを最小限の動きで躱す。


「ならばこれは!」


連続突き。

スピードはなかなかの物だが、動きが少々荒い。

剣術は我流なのだろう。


総合的に見て、マリーの剣の腕前はイーグルより一段劣る物だった。

まあなんだかなんで奴の剣術レベルが高いというのもあるが、流石にこれ一本で彼女が金級冒険者に上がれたとは思えない。


となるとやはり――


「魔法を使ってくれても構いませんよ」


エルフは人間よりも魔法に優れた種族と言われている。

恐らく彼女の戦闘スタイルは、剣と魔法の合わせ技だろう。


「分かりました。とっておきをお見せします」


マリーが魔法を詠唱する。

かなりの詠唱速度だ。


魔法使いの優秀さは、魔力と詠唱速度で決まると言われている。

まあ研究者等はまた話が変わって来るが、どちらか一つでも欠けると、魔法は単独戦では途端に使い物にならなくなってしまうからだ。


因みに、俺は魔力量自体は多いのだが、詠唱が死んでいるので戦闘時に魔法を使う事はまずない。


薔薇の庭園ローズ・ガーデン!」


彼女の全身をバラの蔦が覆う。

知らない魔法だ。

恐らくエルフ固有の物なのだろう。


ぱっと見た所、攻防一体の小規模結界魔法の様に見える。


「この魔法は維持に大量の魔力を必要とするので、一気に行かせて貰います」


魔力を大量に消費するという事は、それだけ強力という事の証である。

油断せず、しっかり対処した方が良さそうだ。


「はぁ!」


マリーが再び細身の剣を振るう。

それに呼応するかの様に、彼女の体に纏わりついているバラが俺に襲い掛かって来た。


「おっと……」


マリー自身の剣術の拙さを、バラによる手数が完全にカバーしている。

悪くない攻撃方法だ。

まあそれでも、イーグルよりは上と言った程度でしかないが。


残念ながら、この程度で崩されてやる程俺は甘くない


「はっ!」


彼女の攻撃に合わせて薔薇を切り裂き、同時に手にした細身の剣を俺の剣で弾く。

そしてその切っ先を素早く彼女の喉元へと突き付けた。


「くっ……参りました」


「俺の実力は分かって貰えたかい?」


「確かにあなたはとんでもなく強いです。でも、それでもヴァンパイアの真祖を一人で狩るというのは、流石に無茶過ぎます」


光属性の攻撃に加え、自分を圧倒する強さを見せられても、マリーの中では無理判定の様だった。

まあ確かに普通に戦ったなら、勝つのは厳しい相手だろう。

眷属共も周りにはうじゃうじゃいるだろうからな。


だが俺には――


「俺には、ヴァンパイアに有効なユニークスキルがあるんですよ。それがどういった物かまでは、流石に初対面の方々には教えられませんけど」


「成程。それを周りに見せたくないから一人で行かせろって訳か」


「すいません。そうなります」


「謝らなくてもいいさ。初対面の相手に奥の手を見せる馬鹿は、普通いないからな」


ガドンさんは長い事冒険者をしているだけあって、理解が早い。

まあ正確には、スキルを見せたくないってだけではなく、下手な人員を連れて行くより俺一人の方が遥かに楽だというのもある。


スキルを使えば不意打ちを警戒する必要は無いし、敵が同時に襲い掛かって来ても一対一で纏めて処理できるからな。

下手に実力の劣る面子を同行させると、逆に手間が増えてしまう。


「料金は、ヴァンパイア討伐時に支払う予定だった全額の半分。それも後払いで結構です。これはマリーさんにとって、悪い話ではないはず」


予算の半分。

しかも後払いでいいと言っているのだ。

条件としては破格と言っていいだろう。


「でも、やっぱり一人では危険です。姉の事もありますし……姉のローズは、私よりも腕が立つんです」


「心配しないでください。俺のスキルさえあればどうにでもなります。どうかお姉さんの救助も含め、俺に任せてください。必ず助け出して見せますから」


「……」


マリーは口元に手をやり、考え込む。

極端な話、俺が死んでも後払いでいい以上、彼女に損害はない。

それでも迷っているのは、失敗した際の姉へのリスクを考えているからだろう。


弱い奴が返り討ちに会うならともかく、俺がヴァンパイアを追い詰めたうえで負けてしまったら、その怒りの矛先が姉であるローズに向かないとも限らないからだ。


「マリーさん。ローズさんは呪いで縛られているそうですが、その状態が長く続くという保証はありません。いつヴァンパイアの気が変わって眷属化されたり、殺されるか。救助に向かうのなら急いだ方がいい筈です」


呪いの契約には特殊なマジックアイテムを使われていたそうなので、そんなあっさりと殺される心配は薄いとは思う。

だがそれが殺されないという、絶対の保証にはなりえない。


何せ相手は人外の魔物だ。

癇癪や不機嫌で突発的に殺してしまう可能性は十分に考えられた。


「本当に……姉を救っていただけますか?」


「任せてください。ローズさんは俺が確実に救って見せます」


不安そうに聞くマリーさんに、俺は自信を持って答えた。

実際【ズル】がある以上、俺がヴァンパイアの真祖に負ける事は絶対ないからな。


「分かりました。危険な依頼を受けてくれるシビックさんを信頼します。どうかよろしくお願いします」


依頼書とは契約内容が変わる為、マリーは一旦ギルドへと向かう。

そこで新たに依頼を発注して貰ってから、彼女に案内される形でヴァンパイアの潜む森へと俺は向かう。

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