第15話 討伐依頼

「さて、2週間以内で出来る何かいい仕事はないかな?」


旅路はあの夜襲を除いて順調に終わり、旅団は予定通り3週間でカナン邸へと到着している。

俺の仕事はあくまでも行き帰りの旅路の護衛だ。

なので、滞在期間中はフリーとなっていた。


まあカナン邸には男爵家お抱えの騎士達がおり、更にそこにペイレス家の騎士達も合流する訳だからな。

そんな過剰な状態で、更に俺が護衛に加わる必要は無いという訳だ。

当然この期間は、グレイへの手ほどきも休止である。


そう言う訳で、空いた時間でギルドの仕事を受けに来た訳だが……


「ヴァンパイア討伐か」


冒険者ギルドの掲示物の中に、ヴァンパイア討伐の募集が俺の目に留まる。

依頼主は金級冒険者の様だった。

内容は国境付近の森に潜むヴァンパイアの討伐を依頼主が行うので、その手伝いを求めるという物だ。


募集人数は金級10名に、銀級20名とかなり大規模な物となっている。

募集内容から考えて、間違いなく相手は真祖だろう。


「まあ銀はともかく、金級は集まらないだろうな」


金級は冒険者の中でもごく一部の上澄みだ。

なれる者はかなり限られており、その数は少ない。

それでも国全体で見ればかなりの数が存在する訳だが、カナンの様な辺境近辺の小さな領には殆どいないと考えていいだろう。


金にもなると引く手数多だからな。

それは金級冒険者である依頼主自身も理解してると思うのだが……

これは遊び半分の募集だろうか?


いや、それはないか。

明らかな愉快犯なら、流石にギルドが募集をストップしている筈だ。

つまり、例えそれが無茶だと分かっていても、ヴァンパイアを倒さなければならない理由が依頼主にはあるという事だろう。


「すいません。ヴァンパイア討伐の募集って、人は集まってるんですか?」


少し気になったので、俺は受付の女性に聞いてみた。


「ああ、あれですか。流石にあの人員を集めるのには苦労しているらしくて……」


受付の女性が言葉を濁す。

予想通り、人手は集まっていない様だ。


「もしかして、参加希望の方ですか?」


「ええ、まあ。ただ2週間後には街を出ないといけないので、時間がかかるようでしたらちょっと」


「2週間……と言うよりも、討伐自体非現実的ですので。参加しない方がよろしいかと」


「ですよねぇ。募集者は金級の方の様ですけど、何か事情があるんですか?」


「ええっと……そう言う事は私の口からは――」


依頼主の個人的な話を職員が漏らすのはタブーだ。

まあ当たり前の話ではある。

だがこういう所で働いている受付の人間は、基本的に薄給と相場が決まっていた。


「これ、良かったら取っておいてください」


周囲からは見えない様に、そっとお金ワイロを渡す。

受付の女性は笑顔でそれをポケットに納め、小声で事情を説明を始めた。


かなり問題のある行動ではあるが――渡す方も受け取る方も――情報を悪用するつもりもなければ、事情次第では俺がヴァンパイアを討伐してやるつもりなので、きっと神様も許してくれるだろう。


――受付嬢の話を纏めるとこうだ。


少し前にヴァンパイアの住処が見つかり、一度大規模な討伐隊がギルドから派遣されたらしい。

その時は金級3名に、銀級10名の編成で向かったそうだ。


結果は惨敗。

帰還できたのは金級1名――依頼主――に、銀級5名だけだったらしい。


そしてその際、依頼主の姉がヴァンパイアに捕らえられた――眷属化ではなく、何らかの呪いで――らしく、それを奪還するために今度の依頼が出ているという訳だ。


「それだけの数がやられたとなると、真祖って事になりますね」


「間違いなくそうなります」


ヴァンパイアは分類上、三種類に分けられる。


生まれつきのヴァンパイアで、真祖と呼ばれる力ある者――トゥルー・ヴァンパイア。

真祖によって眷属化された者――レッサー・ヴァンパイア。

そして真祖から独立して力を蓄えた者――通常のヴァンパイアの三種である。


当然、この中で一番強力なのは真祖と呼ばれる存在だ。


「一応国への要請は出しているんですけど」


真祖クラスになると、田舎の領主やギルドでは手が出ない。

国に支援を依頼して何とかして貰うのが普通だ。

だが受付嬢の反応を見る限り、国からの反応は宜しくないのが一目瞭然だった。


だからこそ、件の冒険者も自分で何とかしようと動いたのだろう。


「ふむ……事情は分かりました。取り敢えずその依頼を受けようと思うんで、よろしくお願いします」


「えっ!?」


俺の言葉に、受付の女性は「ちゃんと話を聞いてたのかこの馬鹿は?」という顔になる。

まあ当然の反応なのでスルーしておく。


「え……と。本当によろしいのですか?2週間以内というのもあれですし」


「構いません。お願いします」


依頼内容が名声目的だったり、国からの支援が早期に期待できる様なら俺も受けなかった。

だが家族を助けるために頑張って足掻いているというのなら、力を貸してやりたいとと思う。


金級の冒険者に恩を売るチャンスでもあるしな。

それが回収できるかどうかはアレだが、貸しはばら撒いておいて損はないだろう。


俺はギルドでの処理を終え、教えられた依頼主の元へと向かう。

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