6話 エンジョイ! 釘バット公園!
今日は日曜日、僕達はミラを連れてサボテン公園に来ていた。
まさかミラがサボテンに興味があったなんてね。
でもミラがサボテンに興味があるって分かるまでかなり時間がかかった。
だって、ミラは最初『釘バットみたいな植物』を見たいって言ってたからね。
「釘バットだ! 釘バットが沢山生えているのだ!」
「うむ、アレなんか極太でオークに似合うでござるな」
「迷惑だから静かにしなさい」
はしゃぐミラと益男を玲子が注意する。
こうして見てみると玲子はミラのお母さんみたいだな。
実際に言ったら怒られるから言えないけど。
「釘物干し竿もあるのだ!!」
ミラが細長いサボテンに駆け寄る。
まぁ、ミラがはしゃぐのも無理もない。
植物に興味がない僕だって見ていて楽しいからな。
温室が原産地ごとに分かれていて、それぞれ特色があって興味深い。
全部サボテンだと思っていたけど、多肉植物って種類のもあるのか。
ミラが喜んでいる釘バットや物干し竿のような棒状のサボテン以外にも色々な形状の植物が生えている。
うちわの様な形状、球体の形状、でも臭いにおいがする不気味な色の星形の花には参ったな……
玲子はハート型の葉っぱが沢山ついている『アローディア・アスケンデンス』って植物が気に入ったようだ。
僕には攻撃呪文にしか聞こえないけどな。
益男は『神龍玉』とか『竜神木』みたいな中二病全開なネーミングの植物ばかり見に行ってる。
僕も『
楽しく園内を回っていたら昼になったので、僕達は園内のレストランで昼食をとる事にした。
サボテン公園らしく、サボテンのステーキがあるじゃないか!
僕達4人は当然の様にサボテンステーキを注文した。
「尊! サボテンだ! サボテンが鉄板に乗っておるぞ!」
ミラがテーブルの上に並べられたサボテンステーキを見て興奮する。
「焼けているのに緑のままでござるな」
「インゲンだって焼いても緑のままでしょ」
玲子の言っている事が正しいと思うけど、益男の言ってる事も分かるな。
僕だってステーキっていうから、焼けて茶色くなっているのを想像していたから。
色々気になるが、ボケっとしてたら冷めてしまう。
鉄板の上のサボテンを、ステーキみたいにナイフとフォークでカットして口に運んだ。
「うまい!」
プルっとした触感で、ソースと合わせると刺激的な味で美味しいではないか。
「これは他では味わえない味わいでござるな」
「確かに独特の美味しさね」
益男と玲子も満足しているようだ。
ミラの良く分からないワガママで来たけど、来て見て本当に良かったと思う。
ミラに感謝しないとな……そうだ、お土産でサボテン狩りをして帰ろう。
僕達は食後にサボテン狩りを体験した。
それぞれ、お気に入りのサボテンを箸でつまんでカゴに入れていく。
そして、鉢を選んでスタッフに渡すと綺麗に植えてくれる。
ふと、ミラの鉢を覗いたら釘バットみたいな殺伐としたサボテンばかり植えられているのが見えた。
最近の天使は『釘バット押し』なんですか?!
*
一通りサボテン公園を堪能した後、ベンチで休憩する事にした。
玲子はカピバラとか動物達を見に行っている。
益男は付き添いで置いて来たから、今は僕とミラの二人っきりだ。
こうして隣に座るミラを見ていると、娘と遊びに来ている父親のような気分になる。
「なぁ、尊よ。一週間世話になった」
突如ミラが話を切り出した。
そうか、今日はミラと出会って6日目なんだ……
明日は7日目、ミラと別れる日だ。
だけど、別れ話みたいな言い方しなくてもいいだろ?
「急にどうしたんだい? ミラさえよければ、このまま一緒に暮らさないか? 両親に頼んでみるからさ」
「いや、それはない。明日、予定通り奇跡を行使して私は天に帰る」
「そうか……ミラにとっては居心地悪かったかな?」
「そんな訳なかろう。でも奇跡を行使すれば……役目を終えれば天に帰る事になる」
ミラが寂しそうにうつむく。
奇跡を行使したら天に帰らなければいけないなら、奇跡を起こさなければ良いと思ったのでミラに伝える。
「それなら奇跡なんて起こさなければいいだろ? 今までだって奇跡なしでやってきたじゃないか?」
「奇跡なしで全てを乗り切れるなら、誰も奇跡を望まぬよ」
「でも僕は望んでいない。僕はーー」
そう言った僕をミラが大声で遮る。
「願え! 私ではなく、本当に大事な物を手放さない為に」
「分からないよ。明日何が起きるんだよ!」
「言えぬよ。未来を伝える事も奇跡に該当する。無駄な事に奇跡を使えない。奇跡の総量にも限りがあるのだ」
「それが今まで奇跡を使わなかった理由?」
「いかにも。だから明日でお別れだ」
明日、僕の知らない理由でミラは奇跡を起こして僕達の前からいなくなる。
一瞬だった、楽しかった、もっと一緒に遊びたかった……
せめて別れの言葉だけでも伝えられるのだろうか。
「明日……さよならは言えるのかな?」
ミラが無言でうなずいた。
ミラとの別れは辛いが、玲子や益男には悲しい顔は見せられない。
だから僕は精一杯の笑顔を作った。
立ち並ぶサボテンの間から見える太陽の様にーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます