2話 幼女天使は御仏?

 翌日、僕はミラを家族に幼馴染の玲子の親戚だと紹介した。

 一週間滞在したいとの事を説明したところ、意外にも好意的に受けとってもらえた。

 うーん、息子がいきなり幼女を連れ込んだのに不思議だな?

 ミラが何か力を使ったのか? 疑問は残るが気にしないでおこう。

 ミラを母に預け学校に行き、さっそく友人の寺田てらだ益男ますお佐々木ささき玲子れいこにミラの事を話した。

 玲子の名前を使っておいて事情を説明しない訳にはいかないからな。

 玲子は予想通り呆れていたが、益男は興味を持ってくれた。

 流石、家業の仏教だけでなく、ラノベとゲームも嗜む僕の同士だ。

 放課後、早速二人を僕の部屋案内した。


「おぉっ神々しいでござる!」

「ちょっと! こんな幼女を連れ込んで何してるの?」


 ミラを見た益男と玲子はそれぞれ別の反応をした。

 驚いても無理もない、同級生の部屋に上がったら、小柄な金髪幼女とご対面したのだから……


「誰が幼女だ! 神々しいは納得であるが……お主らはたけると同じ階級か? 服装が同じであるな」


 そんな二人にミラが偉そうに話しかける。

 まぁ、実際偉いんだけどね。

 しかし、服装が同じだからって同じ階級ってなんだよ。

 ただの制服だろ……もしかして天使には学校がないのか?!


「お嬢ちゃんはどこから来たの? この変態に連れてこられたの?」


 変態言いながら僕を指さすなよ。酷いよ玲子……


「誰がお嬢ちゃんだ! 我は神の奇跡、偉大な天使であるぞ!」


 ミラが小柄な体で胸を張り、精一杯偉そうな態度をとっているが、玲子には信じられないようだ。


「ミラ様、我が輩に奇跡を見せてござらぬか?」


 玲子とは対照的に、益男は興奮気味にミラに奇跡をせがむ。

 いきなり土下座した益男に流石の僕も引いたが、ミラは敬われて上機嫌のようだ。


「そこまで言うのであれば見せてやろう」


 そういったミラの背後が光り出した!

 これは後光!! ……ってそれだけ?!

 何もないのに光る。それは奇跡と呼べるだろう。

 だけど……LEDで光らせるのと何が違うのだろう?


「あの、ミラちゃん? もしかして光ってるだけ?」


 あぁっ、聞いちゃ駄目だろ玲子!

 光るだけで何も起きないから気になるのは分かるけど、そこはそっとしておいてあげるのが正解だろう?

 そんな僕の心配をよそにミラは自慢げな態度を崩さない。


「いかにも! これが後光である!」

「堂々と言ってるけど、光っただけよね?」


 追い打ちかけないでよ玲子さーん!

 僕達のやり取りを見て、流石に呆れると思って益男を見たら涙を流して手を合わせている。


「益男、一体どうした?!」

「そうよ、何の効果もない光ぐらいで大げさよ」

「何の効果もないからとうとい! これこそ施無畏せむい功徳くどくを示す輝き。正におそれ無きを体現するものでござる」


 意味わかんねえよおぉおおっ!

 涙と鼻水でグシャグシャの顔をした益男は気持ち悪いとしかいいようがない。

 敬われているハズのミラも気持ち悪そうにしている。


「仏様だ! ミラ様は御仏みほとけでござる!」

「仏ではない! 我は天使だ!」

「いえいえ、天使でも悟りを開けば御仏でござる」

「なんだそのヤバイ宗教は!」


 それは仏教に失礼だ。ヤバイのは益男だけだよ。

 ミラにすり寄る益男。筋骨隆々な体で幼女に迫る姿は……正直気持ち悪い……


「アレ、ほっといていいの?」

「楽しそうだからいいさ!」

「そうね、幼女を追い回す強面の男子高校生なんかに関わりたくないわね」

「そうだね、同意するよ」

「何他人事みたいな言い方してるの? その幼女と同居してるの誰よ?」


 巻き込まれたくないので、僕と玲子は益男を放置したーー

 大興奮の益男だったが、さすがに10分もたてば落ち着く。

 偉そうに胸を張る幼女の前で正座する男子高校生。

 シュールだが気にしたら負けだ!


「それで、益男は何を願いたいのだ?」

「我々に勝利の奇跡を!」


 飽きれた様に言い放ったミラの問いかけに益男が願いを言った。

 我々に勝利の奇跡を……それは、まさか!


「もともとヤバかったけど、止めなくていいの? 友達でしょ?」

「ミラ様、我々に勝利を!」


 僕は玲子の話を無視して、益男の願いに重ねて勝利を願った。

 事情を知らない玲子だけ混乱している。


「二人揃って、一体何をしてるのよ?」


 事情を知らない玲子を放っておいたら可哀そうだな。

 だから僕は興奮気味に玲子に願いの意味を説明した。


「『サド』だよ。僕と益男とミラの三人で、『サド』の頂点を目指すんだ!!」


 バチン!

 僕の頬に玲子の平手が飛んだ。

 痛いな。叩かれた頬を押さえる。


「この変態!!」


 玲子が何故か怒り狂う。

 理由は分からないが、益男と二人で土下座して謝って玲子を落ち着かせた。

 その後、明日も監視に来ると言い放って、玲子は益男と一緒に渋々帰っていったーー

 益男と玲子が去って静かになった部屋で物思いにふける。

 ふぅっ、そんなにオンラインゲームで遊ぶのがいけないのかよ……

 僕は人気FPSゲーム『Saver and Demon Online』通称『サド』を思い浮かべた。

 ミラが協力してくれれば頂点目指せるんだけどな……

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