第6話_王都南の森

 二時間くらい飛んでたらちょっと飽きてきたのと、身体が怠くなってきたので、森の中に下りてみた。

「はぁ~なんかちょっと疲れたかも。あ、そっか、風に当たり続けてるせいだな」

 空を飛ぶと少し冷えるかもしれないと防寒用のローブは用意していたものの、風によって体力が削られることは考えていなかった。これからは、防御壁を風除けとして正面に出して飛んだ方が良さそうだ。

「勉強になるなぁ……うん?」

 散歩気分でそのまま森の中を歩いていると、ふと、頭上に変なタグが見えた。

「……『行き倒れ』?」

 タグは、私の右側の、生い茂った木々の中から伸びてきている。出処がまるで分からない。そんなに遠くからタグを伸ばしてきたこと一度も無いじゃん。何なの。私にどうしろと。これは助けろってことなの? こんな森の中に落ちてる人を? それ本当に人なんだろうな。そういえばタグには『人』とは書いてない。えぇー。既に死体とかじゃないよね。

「はぁ~~、可愛い女の子、可愛い女の子、可愛い女の子」

 だったら良いなー、という思いを込めて繰り返し呟きながら、タグが示す方向へと歩いて行く。思った以上に遠い。いざなわれている感じがちょっと嫌だけど、まあ、可愛い女の子じゃなかったら無視すりゃいいだけだから。

 五分近く歩かされたところでようやく、タグの出処が、目の前の茂みの奥であることが分かった。ようやく着いたな。

「おーい、誰か居るの?」

 覗き込むより前に、声を掛けてみる。反応は無い。まあ、『行き倒れ』って出てるからなぁ、意識が無い可能性が高いよねぇ。

 此処まで来ちゃったのだからもう腹を括るしかない。ゆっくり息を吸い込んで、吐いて。仕方なく、茂みを掻き分けてタグの指し示す先を覗き込む。

「ん、……おおぉ」

 やったーーーーーー!! 超! 可愛い! 女の子が落ちてる!!

 え~なになに。良いじゃん。さらさらの金色の髪。健康そうな褐色の肌に、柔らかそうなすらりとした手足。胸は控え目だけど、とにかくスレンダーでスタイルが良い。腰から脚のラインがめちゃくちゃ綺麗だなぁ。元の世界ならモデル出来ちゃうよ。よく見ると耳がちょっと尖ってる。これはファンタジーによくある『エルフ』とかいう種族かな? 城下町で見かけた中で、私と違う種族は『獣人族』と、『ドワーフ』だけだから、エルフは初めて見た。

 それにしてもこんな森の中にごろんと落ちてるにしては美人すぎる子だ。そういえば私の知るファンタジーの知識ではエルフって美人なんだっけな。しかしこれは良い落とし物を拾いました! こんな超級に可愛い子が居るならこの世界救っちゃおうかなぁ~!

「とかいう冗談はさておき……生きてる、のかな?」

 落ちてる女の子のあまりの可愛さに三秒くらい脳内が大騒ぎしてしまったけど、問題はそこだ。可愛い子は好きだけど、死体でもオッケーってほど私はイカれてない。生きててくれないと大喜びが台無しなんだよ。

「ねえ、大丈夫?」

 恐る恐る手を伸ばして、むき出しの肩に触れてみる。温かい。いや、ちょっと冷たいけど、風に当たって冷えたって感じであって、間違いなく体温がある。っていうかこの子の服はどうして肩が出てるんだろう。寒くないのかな。

 女の子は、私が触れた為か、少し眉を寄せて目蓋を震わせた。けれど待っていても目は開かれなかった。生存を確認した私はようやく彼女のすぐ傍に膝を付き、その身体を確認した。あ、いやらしい意味ではなく。大怪我しているなら動かせないと思ったので、そういう意味で。

「お、おっ? タグ……いや、もっと早く生えてよ」

 彼女の身体に触れると新しいタグが生えた。触れることが切っ掛けだったのだろうか。いや、ちょっとタイミングが遅かったから、何か別のトリガーがある気がした。でも今は後回しにしよう。タグは、彼女が『飢餓』の、『脱水』だと出ていた。

「うーん、これは、回復魔法じゃダメそうだな」

 上体を引き寄せてみると、あまりの軽さに驚く。パッと見た時は健康的と思ったが、よく見れば痩せこけている。長く貧しい生活をしていたと言うよりは、最近になって急に何も食べられなくなったような身体だ。経緯が気になるものの、とにかく今は、水と、スープとか、何か柔らかいものでも食べさせないとダメだな。

 よーし此処は、口移しの出番か?

 ……いや。しないけど。流石に。しませんよ。まずは助けるのが先決で、元気になってくれたら改めて、なんやかんやを期待します。

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