第3話:そとの世界

 1年ほど村や町、街を転々としてきた。


「自由だぁ!」と息巻いて始まりの町を出てみたものの、歩くのも疲れ、途中で馬車に乗り、1か所目はボロボロの村だった。


 団子は美味かったが少し高く、他に名産はなさそうだった。


 茶店で話を聞くと、領主に結構な上納金が必要だとか。納めている領地の状態を考慮せず、一律に徴収されるということで、土地が枯れているこの村はほとんど残るものがないらしい。団子も売るものがなく、他の町で購入したものを売っているだけとのこと。利益を上乗せすれば高くもなる。


 それでも昔は悲観する村ではなかったようだ。だが、数年前に干ばつがあり、土地が痩せてしまったからだそうだ。


 道端に絨毯のように白い花が咲いているのは綺麗だが、一旗揚げるにはちょっとしょぼさを感じたため、俺は何もせずに村を立ち去った。


 2か所目の町はにぎわっていた。


 聞くと祭り週間とのことだった。テンションが上がって喧嘩とかする者も多いらしく書類に一筆を書かされた。


 食べ物は美味いし、サービスは良いし、踊りも魅惑的だし、宿泊先の布団はフカフカ。他の旅人は「祭りの初日にこの村に来て運が良かった。できればこのままこの町に住みたいよ」と居心地は良いみたいだ。ほぼ祭りが終わりかけの6日目に来たことが残念だった。


 祭り最終日。帰り支度をしてホテルを出た。食事代も酒代もホテル代も祭り価格と考えると、相場からプラス2割程度だったので高いというイメージはなかった。


 町を出るとき、花束をもらい見送られたが、そのあとに関所があった。


 剣幕で言い合っていいたり、花束を投げつけて逮捕されているものもいた。そして言われたのは、町を出るときはサービス料を支払ってください。とのこと。


 一筆書いた書類に記載していると言われたが、どれかわからなかったので訊ねると、この地域だけで使われる文字で書かれた文章にそうかいてあるということだった。


 俺がショックを受けていると、関所の役人は「聞かれないと答えない」と、どこの世界も役人はそういうものなのかと肩を落とした。


 ぼったくり価格ではなかったが、俺は使ってしまった。使った分だけサービス料がかかるとのことだったので、結構な金額を徴収されてしまった。


 この町を出たところで聞いたのは、町が領主に納める資金が底をつき始めたころに祭り週間を開いて、何も知らない旅人に高め設定の飲食と宿泊をさせてそれに充当することを繰り返しているらしい。痩せている子供がいたのはそういうことだったのかと悟った。


 だからなのか、サービスに慣れている町民に乗せられて気分良くお金を使ってしまうことになった。


 3か所目の町についたころ、気が付けば10万ベルもあとわずか。貧乏とはいえ貴族での育ちだったので、低めに抑えたと思っていたが、この世界的に良い生活をしてしまっていたのかもしれない。


「2か所目の町のこと勉強代と思っておこう」とダメな奴の言い訳で自分に言い聞かせた。次は失敗しないぞ、という気持ちで。


「この町は通常営業……だよな」


 念のため、祭りとかしていないか警戒してみたが、大丈夫だった。食品、衣類など商品は一般的よりも結構安めの設定かもしれない。懐にやさしそうだ。


 食事はどこかで食べるとして、衣類を見に行ってみた。質はなんとも普通だが、価格はユニーククロージングだったり、し〇むら、〇トリくらいお手頃価格。肌着を荷物にならない程度とローブを購入した。


 そのあとポーションを売っている薬局みたいな売店へ来た。


「回復系のドリンクってある?」


「苦くて体に効くものがいくつかあるけどどうする?」


「苦いのは好きじゃない」


「だよね、兄さんはまったくケガもなさそうだから、戦ったことないでしょ?」


「ははは、そうなんだよね。だから目の疲れとか肩こりとかに効きそうなものがあれば欲しいかな」


「じゃあちょっと果汁から作られた甘めのドリンクでどうだ?」


 戦っていないわけではない。町の外に出ると、野良の獣はいくつかいるし、人間の足など遅いので戦わないと逃げられない。


 ケガも無く、服も乱れていないのは、俺がそこそこ剣術はできるからである。でも、自分から「俺やれるんだ」なんてのは恥ずかしくて言えない。まして、「じゃあ討伐に行ってくれ」と言われるのも面倒だし、自信がない。あと苦いものは嫌いだ。


 なので、薬屋のオヤジには適当に伝えて、5割ほど安いので怪しい回復系ドリンクを購入して飲んだ。翼は授かれなかったが、美味かったし効いた。


 飲み干した瓶を薬屋の横にある回収箱に持っていったとき、裏口でドスンと響く音が聞こえた。


 野次馬的に覗きに行くと、幼い少女がうずくまっていた。


「こっちは買い取ってやってんだから、感謝しろよ!」


 恰幅の良いオヤジが少女に言葉を吐き捨ててドアを閉めた。


「これじゃ、足らない……」


 消えそうな細い声で訴えるが、ドアの音にかき消された。

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