真夜中ロンドで逢いましょう

七森陽

プロローグ

「いつまで俺とその人を重ねてるつもりなんですか?」

 空色の瞳が、暗く歪んだ。どうしてそんなに哀しそうな顔をしているのだろう。

 まるで夢のように、その顔が霞んでいく。―――いや違う、ここは紛れもなく「夢の世界」だ。

「俺は俺です。どうして判ってくれない?……こんなにも、」

 霞んだままの彼の顔が、ゆっくりと私に近付いてきて。

 何か言わなくちゃいけないのに声が出ない。さっきまで彼を傷付けていたこの口が、何故か今は動いてくれない。

 今こそ、言葉が大事な時なのに。


 霞んでいてほとんど見えないはずの彼の表情が、急に泣き顔になったような気がした。

 どうして泣いてるの?

 泣かないでよ、だって、私まで哀しくなってしまう。


 音にならない私の声は彼の鼓膜に届くことはなく、かわりに私の唇は彼のそれに塞がれた。

 もはや声を出そうとすることさえままならない。


 思わず閉じてしまった瞼の奥で、黒い視界がだんだんと白く濁っていくのが判った。


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