第14話「文化祭って実際どんなことするんですか?」

【星野夜空】


 それから数日後。


 俺たちの高校はいよいよ、文化祭開催に向けて学校全体で準備期間に入った。最後の一時間は文化祭用にあてがわれ、多くの生徒が胸を高鳴らしながら準備に励んでいる。


 俺のクラスでは出し物が高校生らしいメイド喫茶……とはいくわけがなく、なんとか女子生徒からの了承も得れた着物喫茶に決まった。


「男子って単純っ……」


 と苦笑いで呟く森香に愛想笑いを浮かべたが、生憎と——森香の着物姿は結構楽しみだ。何ならそのままデートを……なんて。


 そんな妄想も捗る最中、文化祭実行委員としての仕事も激務と化してきた。


 備品の管理から始まり、予算の最終確認。特別予算、部活動への参加の有無など、実行委員会の方にも熱が入り、スローガン決めから細かい台本作りなども始まった。


 つい先日までは家で遊んでいたというのに、たった数日でここまで忙しくなるのは——渦中にいる俺も中々慣れないものだ。


「あぁ、実行委員長っ」


「なんだぁ? 俺にも仕事があるからはやくしてくれよ、後輩」


「す、すみません……その、ここの資料に不備があって」


「え、まじ?」


「まじです。あ、でも、これってもしかして一年生に配ってたような……」


「……おいおい、困るぞそれは」


「はい、確認不足だったかもしれませんね」


 まったく、確認したのは誰だか。早く家に帰りたくて流したのか……はた迷惑な奴だ。


「はぁ……じゃあ、お前やっとけ」


「え、僕が?」


「ああ、俺は色々あるからな……じゃ、頼むわ」


「は、え——っ」


 ぶらりと手を振りながら会議室を後にしたのが——俺たちの上司。上司というか、まあ先輩でもあり、なんとなく決まった我らが委員長である。


 今の会話から分かる通り、森香の様な真面目とは正反対。何か仕事を振ろうとするとやれ仕事があるだとか、やれ勉強をしなくちゃいけないだとか——あることないこと言って交わそうとしてくる。俺が後輩だけあって、何もできないのが辛い。


「はぁ……まじかよ」


 とは言っても、俺もあまり人に物事を頼める立場ではない。


 さすがと言ってはなんだが、性格だけあってこの委員会でも若干孤立しつつある。笑えねえが、笑っちまう。まあ、俺は俺で目的もあるし、やるだけだがな。


 一息漏らすと、肩に何かが触れた。


「大丈夫? そ、そr……夜空君?」


「ん、あぁ、森香か」


 俺の肩に手を掛けていたのはみんなの憧れ、委員長モードの君塚森香だった。前回の反省を生かしてなのか分からないが名前を言い直したな。まったく、今更もう遅いのにな。


「なによ……それ。私じゃ何か駄目だった?」


「え——いや、そんなわけっ」


「ははっ、知ってるぅ~~」


 にまにまと笑う彼女、いつもとは違う雰囲気ではあるが、俺と話しているからなのか、あざとさが少しだけ残っていた。


 まったく、笑顔を振りまく余裕があるのはすごいことだ。俺なんて、もう音を上げる寸前なんだと言うのに、1年経験しているだけある。


「……それで、どうかしたの?」


「え、あぁ、いやな、実行委員長が全然やってくれないんだよ。自分から推薦しといて、これはちょっとってな」


「あぁ~~、あの先輩かぁ……去年もいたね」


「え、いたの?」


「うん……去年はまだ、副委員長だったんだけどね、仕事してたところ見たことないかも……」


「まじか……なんでなったんだよ、あいつ」


「まぁ、生徒会に彼女がいるんだよね、彼。見栄でも張ってるんじゃない?」


「……なんて自分勝手な」


「まぁ、とりあえず今年は挨拶もあるし、逃げれないのもあるからね……何とかなるから頑張ろっ」


「ははっ、そうだな」


「じゃ、半分私がやるわっ」


「ありがと……森香」


「うんっ! がんばのだよ、空‼‼」


 言っちまってるじゃねえか。

 あだ名で呼んだり、名前で呼んだり定まってないところを見ると——案外彼女にも余裕はないのかもな。俺の事で意識してくれているのは嬉しいが。


「ま、やるしかないか」


 そう呟いて、俺はノートパソコンを再び開いたのだった。



 

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