オタクの読書感想文

黒川蓮

デュマ・フィス先生の『椿姫』 相手を思うからこその別れ

 高校時代、読みながら図書館で思わず泣いてしまった世界の名作。


 ざっくりあらすじ。


 主人公の青年アルマン・デュヴァルは高級娼婦マルグリット・ゴーティエと相思相愛の仲になる。


 彼女は生理のときだけ赤い椿の花を付け、それ以外の日は白い椿の花を身につけたため「椿姫」と呼ばれていた。


 マルグリットは享楽的な生活に溺れていたが、アルマンの正直な人柄に惹かれ、誠実な愛に気付き、これまでの生活を捨てて、アルマンとパリ郊外で暮らすようになる。


 二人は幸福な時間を過ごすが、長くは続かなかった。


 アルマンの父親が息子の悪い噂を聞きつけて、アルマンのいない日にマルグリットに「息子と別れてほしい」と言ってきたのだ。


 マルグリットは彼のことが大好きだからこそ、彼の幸せを思い、別れる決意をする。


 しかし、父親のことを話せばアルマンは自分と別れないだろうと思ったマルグリットはアルマンには本当のことは言わずにパリに戻り、新しいパトロンを作って高級娼婦の立場に戻る。


 事情を知らないアルマンは裏切られたのだと思い込み、可愛さ余って憎さ百倍の精神でマルグリットに復讐する。


 マルグリットのパトロンであるN伯爵がこの女は俺のものだと言わんばかりの得意げな様子で彼女とカドリールを踊っている姿を見て嫉妬を抑えられないアルマンは彼女の前で、オランプという別の娼婦に求愛する。


 オランプは金さえ出せば簡単になびく軽い女でアルマンの娼婦になり、アルマンはわざとオランプとの熱い関係をマルグリットに見せびらかすような行動に出る。


 アルマンはオランプを使ってマルグリットの悪口を言い、とうとうマルグリットは舞踏会に出なくなり、心身ともに衰弱していく。


 ある日、見かねたマルグリットの女友達がアルマンに「おやめなさい」と忠告にきたので、アルマンはマルグリットに自分で来るように伝える。


 マルグリットがアルマンの元を訪れると、アルマンはやはり彼女を憎みきれず、我慢できなくなって「やっぱり君を愛している」と言い、一晩眠らずに彼女を抱いて過ごす。


 「二人で旅に出よう」というアルマンを置いて、マルグリットは帰っていく。


 堪らなくなったアルマンはマルグリットの家を訪れると、「N伯爵がお見えになっているので奥様にはお会いできません」と玄関先で追い返される。


 カッとなったアルマンは「昨日のお勘定を忘れていました。夕べの代金をお支払いします」と強がって、500フランのお金を添えて手紙を送りつける。


 アルマンはマルグリットの反応を待っていたが、翌日小間使いが500フランを返金しただけで手紙の返事はなく、彼女がイギリスに立ったことを知る。


 憎しみも恋も一気に失ってしまったのだと傷心のアルマンは旅に出る。


 その旅の途中でマルグリットの危篤を知り、急いで彼女の元に走るが彼女は既に他界し埋葬されていた。


 マルグリットが自分の死後にアルマンに渡してほしいと友人に託した手記には、彼女が死ぬまでアルマンの幸せを思い、最後までアルマンを愛していたことが記されていた。


 読みながら図書館で号泣する私(←激しく情緒不安定な変なやつ)


 クラスメートの男子に「どうしたの? 大丈夫」と声をかけられた(恥)


 こんな名作を読んで大丈夫なわけねぇって心の中で思う。


 ちなみに私が読んだのは新庄嘉章氏訳の作品。


 N伯爵の娼婦になったマルグリットがアルマンの元を訪れ、彼に抱かれるシーンでアルマンの心情を映した言葉として、こんな文章が出てくる。


 「わたしは、いとしさのあまり、彼女が熱病のように恋の陶酔にひたっているあいだに、もう二度とほかの男のものにならぬよう、いっそ一思いに殺してしまおうかとおもったくらいでした」


 若いアルマンの激情。


 でもそんなアルマンを好きだからこそ何も語らずに身を引くマルグリット。


 相手の幸せを思うからこそ別れを決意する、そんな切ない恋もあるのだなぁと。


 身を抉られるような恋愛小説を読んだのは、このときが人生で初めてでした。


 小デュマの実体験を元にした物語。


 ハンカチなしには読めない不朽の名作をありがとうございますm(__)m

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